事故.
大きな事故…
この世界には存在しないはずのもの。
皆が皆、変わった力を持っている。
故に平和過ぎる街と街。
この街の大地主と呼ばれる古き家の当主、平塚天月の娘。その娘はこの世界で普通に過ごしていれば存在しないはずの事故に遭い瀕死になっていた…
「お嬢様!
お嬢様!お嬢様!目を!目をお開け下さい!
一体どうすれば…」
「結界が歪んだんだ!
侵入者だ!そいつのせいでお嬢様が!」
「医者を!専門の医者を呼べ!」
「動かすな!ハト!止めろ!」
「で、でも…お嬢様が…」
ガタイの良い男数人が娘を取り囲む。
街には結界と呼ばれる特殊な装置が門以外から入った者を感知するように付けられていて機能してしまうと稀に空間が歪む。
娘の横でオロオロとしている少年を娘が助けた。
故に娘は傷だらけになってしまった。
騒いでいるとどこからか現れた白衣にも見えなくはない格好の若そうな男が現れた。
「お嬢様!
さ、他の者は少し離れて。
後は私に任せなさい。
取り敢えず蒼羽、貴方が責任者でしょう。
其方について行きなさい。」
テキパキと後に付いていた部下らしき者に指示を出し、娘に付いていた男達も散らせた。
それからは2日ほど医者に預けられ平塚天月への報告は大変だと医者も集め蒼羽の住まいの空いていた部屋を綺麗にし娘を寝かせ、男7人が円を描く様に座り、なんと言うかを話し合っていた。
「で、バレたらここにいる全員死ぬよ。」
この中で1番の年上の瑠架が言う。
医者が顔を青くさせながら隣にいるハトハの服を掴んでいた。
「私、最善は尽くしましたよ。
多分、数ヶ月で目が覚めます…」
震えながら言うもほぼ正面に座っている普段は優しそうな見た目の蒼羽に睨まれ小さくなって最後は小さな声で多分…と付け加えていた。
「数ヶ月がどのくらいかにもよる…
10ヶ月後には刻印式がある。
それまでは他の街にでも行けばいいと言われているからここに姿がなくても大丈夫だが…
刻印式の3ヵ月前までには1度顔を見せるよう言われている…」
苦しそうな顔で蒼羽が言うと蒼羽の横にいた顔に傷がありいかにも感のある鷹志が蒼羽の肩に手を置きながら宥めるように
「まぁ、落ち着け。
ハーシェルは街1番の医者だ。
もしもは無い。
あっても、それは無かったことにしよう。」
笑顔で意味ありげに言うと蒼羽はそうだなと言い微笑んだ。その柔らかい笑は街の次期大地主の数多くのボディーガード達を1人で束ねている男とは思えなかった。
「まぁ、誰も街にお嬢の見た目を知っている人がいなくてよかったよね?」
ハトハがニコニコと話していた。
リッツが慌てたようにハトハの口元に手を置いた。
蒼羽が横目で2人を見ながら気に止める様子もなく
「ま、じゃ本題に。」
と、蒼羽が座り直すと医者と蒼羽の隣の小汚い男以外は後に続き座り直した。
先程の柔らかい笑とは裏腹に悪そうな顔になり、鋭い目を光らせ小汚い男を睨んでいた。