乙女ゲームの選択肢をどうやら間違えたようです
「あなたって最低!」
婚約者である皇太子ーーレオンに私は頬を叩こうとする。
レオンは何かを諦めたように目を閉じる。
この後、バッドエンドという文字と、哀愁を帯びた音楽が、頭の中に呼び起こさせる。
ようやく思い出した。転生する前、会社員として働いていた頃にはまっていた乙女ゲームだ。
悪役令嬢が主人公の邪魔をするのを回避しながら恋を成就させるとクリアになる。攻略キャラの中でも、皇太子は金髪碧眼のイケメンで人気があった。恋の成就には、選択肢で相手の好感度をMAXにしなければならない。
どうやら小さい頃、皇太子に話しかけたことで、皇太子ルートになったらしい。
一つ念じると目の前に好感度のパラメーターが出現する。
好感度はゼロ。
なんで今頃前世の記憶が戻るのか悔やまれる。もうバッドエンドの一歩手前ではないか。思い返せばゲーマーとしてはありえない失敗がいくつもある。
◇◇
ことの発端は、私とレオンが12歳になったとき馬で遠乗りすることになったことだ。
レオンが乗る馬が急に暴れだして、危うく命を落とすところだった。後にレオンの命を狙う者が馬の蹄に細工をしたことを知ったがーー自分が皇太子を支えるに値する人物なのかどうかわからなくなった。悪役令嬢は献身的にレオンを励ましていた。これはどうやら悪役令嬢の策にはまっていたらしい。
レオンのお披露目会のときに、一番にダンスを誘われたのに、私はふさわしくないと思い断ってしまった。レオンの落胆した顔は忘れられない。その後、悪役令嬢がレオンを誘って踊っていた。
レオンが指輪をプレゼントしてくれたときも、「これは本当に好きな方にあげて」と戻してしまった。レオンはいつも悪役令嬢のことを見ているから好きなんだと勘違いしていたのだ。
◇◇
レオンが「もう俺のことは好きではないんだろう?」と聞いてくる。そんなことはない。そんなことはないのに。
「あなたって最低!」
勝手に言葉が出て、レオンの頬を叩こうと私の手が伸びる。頬に触れるか触れないかのところで手の力が抜けた。
「え?」
レオンは甘んじて受けるつもりであった衝撃が来ないことに驚きを隠せない。
これが最後なんだから、素直になろう。どっちにしてもバッドエンドなんだから。たぶんその辺に隠れている悪役令嬢がレオンを慰めに来るだろう。
「ごめんなさい」
私は頭を下げた。どういうこと? という顔をするレオンに続けて言う。
「前に、レオンのお披露目会のときに一番にダンスを誘ってくれたとき、本当はとても嬉しかった。他の人と踊っている姿を見て、自分でもびっくりするくらい嫉妬した」
レオンは目を見開く。
「最近、指輪をくれたとき、婚約者だから贈り物をくれたと思ったの。でも、私はあなたが好きだから受け取っていればよかった。……婚約破棄なんてしたくない」
顔を伺うとレオンは黙っている。
結果はどのルートもクリアしているからわかっている。バッドエンドはバッドエンドに変わりはない。
「……君は俺の従者のアリュートが好きなんだと思っていたよ。お披露目会のとき、俺の誘いを断った後にアリュートとは嬉しそうに踊っていたから」
表情の読めない瞳でレオンは静かに話す。
そうだった。お兄様の知り合いのアリュートは安心できるお兄さんという存在だった。なんてことをしてしまったんだ、私。
急に、レオンは私を抱きしめた。とても良い柑橘系の香りがする。
『ツンデレモードに突入』
脳内に文字が浮かび上がる。どういうこと? と首をひねった私に説明文が入る。
『今までのことを全否定しましたので、ツンデレモードとして認証されました』
好感度のパラメーターはMAXになっていた。
「君のことはもう離さないからね。覚悟しておいて」
優しいはずのレオンは今まで見たことのない鬼畜な笑みを浮かべていた。
ふと、思い出す。全バージョンをクリアした後の伝説の特別編「鬼畜な皇太子編」があったことに。伝説の特別編をクリアすることで完全クリアとなるが、私は完全の付かないクリアだった。
これからはプレイしたことのない未知な選択肢にチャレンジしていくことになる。でも大丈夫。両思いになったから。




