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第四話「クラスと俺?」

 汗は全部引いた。

 制服の機能繊維が汗と熱を吸って、更に気化熱で体温を下げてくれる。

 俺みたいな人間には嬉しい限りだ。

 掲示板の横にある玄関で上履きを出して履く。

 喜一は先程、

「俺ちょっと用事あっから!」とどっかへ行っちまった。

 一年は3階で、さっき見たクラス表によると男子19名女子16名の35名だ。

 それにしてもアレだな、廊下ピカピカだな。

 スケートゴッコが出来そうだ。

 イヤ、ヤンネェよ?

 皆がこっちチラ見してるし。

 つーか、俺と目が合いそうになったら逸らすってヒドくない?

 いたたまれないんだけど?

 その、上履きを見て

「ウソ!?一年!?」みたいなリアクションやめてくれねぇ?

 スッゴク傷ついてんだが(上履きの爪先部分に色が付いていて一年は赤だ)?

 クソゥ、廊下が長いぜ。若干歪んで見える位な!




 クラス前に着いた頃に歪みも無くなって、 さっきとは違う事に胸がアツくなった。

 このクラスで一年過ごす事になる。

 何だかんだ言って助けてくれる喜一はいない。

 俺の力だけが頼りだ。

 大会の時には芽生えない不安が胸を圧迫する。

 どうしよう、ちゃんとやっていけるだろうか。

 正直、イメージ出来ん。

 でもクラスで孤立なんざしたくねぇし、真面目な俺にやさぐれるなんて出来っこねぇ。

 つまり、今日一日はハズセねぇってヤツだ。

 取り敢えずシミュレーションだ!

 全パターン展開!

 どんな状況にも対応仕切るぞ、俺!

「……………………あの、すいません。中に入りたいんですけど………………。」

 唐突に声を掛けられた。

 女子の、サラッとした優しい声だ。

本当に突然な事だったのでついうっかりやってしまった、絶対にしちゃナンネェ事を。

「ア"?ワリィ、邪魔だったよな。こんなとこ突っ立たれちまったらよぉ」

 地声の、喜一曰く、

「身体をビリビリ震わせる、細胞に危険信号が流れる声」で喋っちまった。

 しかも、因縁付けてるみたいな感じで!

 マズいマズいマズいマズいマズい!!

 背中に流れるイヤな汗を服は吸ってくれない。

 多分これは精神的なものなんだろうな。

 正対した彼女の顔を意識する余裕もなく俺は頭をフル回転させた。

 クソ!

 こんなの予想外だ!

 消しゴムを拾う位のシミュしかしてねぇ!

 怖がらせない話し方[話し掛ける偏]を応用し、乗り切るぞ俺!

「えっと、その、あの、ゴメンね?ちょっと恐い声出して。いやね、なんかね、喉にタンが絡まっちゃったみたいで………ア、アハハ」

 クッ苦しいっ!!こんなんで地声を出した事のリカバリー出来てんのか!?

 恐くて俺は目をつぶる。

 こんなの喜一に見られたら笑われるだろうな、盛大に。

 目をつぶってる俺に返事はない。

 不思議に思って目を開けると………………スッゲェ美女がいた。

 肩で切り揃えられた光沢と滑らかさをたたえた黒髪。

 華奢なラインを描く顎はガラス細工のような壊れそうな美しさを持っていた。

 唇は潤いと張りを持ち綺麗な桜色をしていて、その上の鼻はスッキリとしている。

 透けるように白い肌は不自然な位凹凸がなく、スベスベという擬音が聞こえてきそうだ。

 中でも一番光を放ってるのは零れそうな程大きく見開かれた茶色味がかった黒い瞳だ。

 涙が浮かんだそれは魔性と呼ぶに相応しい程魅惑的だ。

 …………涙?…………涙!?

 改めて見れば、明らかに涙目だ!

 やっぱりアレぐらいじゃダメだったか!

 このまま泣かれたら最悪だ!

 何とかしなければ!

「ウワ、スイマセン!スイマセン!スイマセン!スイマセン!!!」

 頼む!

 泣かないでくれ!

 泣かせたなんて話になれば俺の新生活は終わる!!!

 何度も頭を下げる。


 龍輝が平謝りしていると美女が口を開いた。


「あ、あの!なんで謝るんですか!わ、私、何かしちゃったんですか!?」

 頭を上げてみると涙は引いている、というか目を閉じていた。

 ………おかしい、声で分かる。

 コイツ、俺にビビってない?

 どもっちゃいるがそこに俺への怯えはない。 取り敢えず最悪の事態は免れたが………。

 涙の理由が分からずに頭を捻ってると美女が暴走し始めた。

「そんな、頭を下げられるような………そうだったんですね、そうですよね。スイマセン、私みたいのが近寄って。大丈夫ですから。もう近寄りません。だから何も言わなくて結構です」

 彼女が独りで完結する。

 だが待て。

 聞き捨てナンネェ言葉がちょいとあったぞ。

「ちょっ、待って。スイマセンって、なんで謝るの?何をどう考えたらそうなるの?………もしかして皮肉?」

 マジで分からん。


 対応するのに精一杯で龍輝は、自分の顔が険しい事に気付かなかった。


「だって、困った時とか嫌な時は謝った後本題に入るじゃないですか。だから、私に話し掛けられて、そういう風に感じたから謝ったんでしょ?」

 いや、そういう事もあるかもシンネェがな、少なくとも今はその状況に当てはまんねぇだろうが。

 俺は怖い思いさせただろうから謝ったんだっつーの。

「エ?当てはまらないんですか?怖い思いした、なんて思ってませんよ?」

 うわ!俺喋ってた!?怖くなかった、ってマジか?

 試しに怖い顔をしてみようか、と考えて初めて今自分が睨むような顔付きになっている事に気が付いた。

 恐らくは小心者なら諦めて辞世の句を詠みかねない表情。

 初めて聞く、演技なしの怖くないですよ発言に視界が滲んだ。

 女性にそれも同年代の女子に怖がられなかったのは何年ぶりだろうか。

 龍輝の思考は飛躍する。

 先程の事を忘れて。

 そうだ!

 今は中学じゃない!

 俺の顔は実は高校ではザラで、俺が怖がられてたのはきっと乱暴そうな口調の所為だったんだ!

 そんで喋り方変えてもそういうイメージが残ってたから意味がなかったんだ!

 絶対そうだ!

 なら言葉に気を付けてたら…………!

 滲んでいた視界が良好になる。と同時に世界が輝いて見えた。

「そうなんだ。いや、怖くなかったんならそれで良いんだ、アリガトウ!」

 言うが早いか教室のドアを開ける。

「オハヨウございます!」

 教室中の目がこちらを向く。

 そしてその全ての瞳が俺から逸らされた。

 気を確かにもって、ディスプレイを見に行く。

 ソッとだか、しかし完璧に人垣が割れた。

 モーゼの十戒の如く。

 映されてる、自分の席にまで行く。

 先程まで活気に満ちていた教室は、通夜がディスコか乱痴気騒ぎかと思える程、静かになった。

 時が止まったような錯覚に囚われる。

 カバンを置いた後、龍輝は教室から逃走した。


 目指すゴールは唯一つ、個室トイレだ。






「アレ?さっきの人、一体どうしたんだろう?凄い勢いでどっか行っちゃった」

 まだ扉の前で立っていた美女はひとりごちた。

「何もしてないのにありがとうって言われちゃった」

 そう呟く彼女の顔はほんのり赤い。

「……………そういえば、名前なんて言うんだろう?」

 首を傾げた彼女は、恐らく自己紹介というものを失念しているのだろう。

 龍輝を真似て大きな声で挨拶をする。

 そこには龍輝が得られなかった反応に溢れていた。

 彼女を凝視するもの、或いはたどたどしく挨拶を返すもの。

 彼女はクラスの皆にもう一度頭を下げた。

「おはようございます」 旋律のような声音はどこまでも、どこまでも美しかった。


 この泥棒猫。

 御母様!?

 ストーリー進めろよ。

(ファン○風)



 さて、あの泥棒猫をどう料理してくれようか。

 あいつスッゲーじゃじゃ馬で手綱が上手く握れないんだよな。

 気が付いたら綺麗になってやがる、天然キャラなのによ!

 物語が本気でおかしい。

 もう本筋に入る予定だったのに。

 それこれも皆あの泥棒猫の所為だ。


↑美女の事ね

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