表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート

泉の神様(ショートショート48)

作者: keikato

 六衛門という大どろぼうがいました。

 ある日のこと。

 六衛門は盗みにしくじり、役人に追われる身となってしまいました。

 捕まれば死刑になります。そこで町を出て、六衛門は山の中へと逃げこんだのでした。

 いつしか……。

 六衛門は森の奥深くへと迷いこんでいました。森から出ようにも、その道がさっぱりわかりません。

 腹はすき、のどはからからでした。

 そんなとき。

 衛門は運よく泉を見つけました。

 その泉は大きな岩の下をえぐるようにしてあり、なみなみと水をたたえていました。

 ところが、六衛門は二歩も三歩も退いていました。

 やはり水を飲みに来たのか、泉の前に大きな熊があらわれ出たのです。

 おそわれてはひとたまりもありません。

 六衛門は岩かげに身をひそめ、熊が立ち去るのをじっと待つことにしました。


 熊は泉の前にすわりました。

 ところが水は飲もうとせず、なぜか泉の奥に向かって話しかけました。

「泉の神様。わたしは体がでかいばかりに、いつも猟師にねらわれております。どうかお願いします、わたしをネズミにしてくださいませ」

 するとなんと……。

「ネズミより神様になりたくはないかね?」

 泉の奥から声が返ってきたではありませんか。

「神様なんてめっそうもありません。ネズミでけっこうでございます」

「では、泉の水を飲むがいい」

「ありがとうございます」

 熊が水をすくって飲むと、たちまち小さなネズミに姿を変えました。

 この泉の奥には神様がいて、どうやら望みをかなえてくれるらしいのです。

 ネズミになった熊が去っていきます。


――よし、オレも……。

 六衛門は泉の前に進み出ると、奥に向かって声を出してお願いをしました。

「泉の神様、お願いがあります。オレを神様にしてくだせえ」

「よかろう。で、どんな神様になりたいのかね?」

 神様の声が返ってきました。

「ぜいたくは申さねえ。神様であれば、どんな神様だってかまわねえんで」

「では、泉の水を飲むがいい」

「ありがたいことで」

 六衛門は泉の水をすくって、ひとくち飲みました。

 するとなんとしたことか、たちどころに大きなカワズとなっていました。

 六衛門はびっくりして聞きました。

「こいつはいったいどういうことで? お願いしたこととちがうじゃございませんか、オレは神様になるんでは?」

「いや、たしかにオマエの願いはかなえたぞ。カワズは、この泉の神様なのだからな」

「そんなあ。もとのオレにもどしてくだせえ」

「それはならん。神様になりたいと望んだのは、そもそもオマエなのだからな」

「ですが、こんなカワズが神様だなんて」

「どんな神様でもかまわない。オマエはそう申したではないか」

「ではこの先、オレはずっとカワズで?」

「心配するでない。そのうち、もとのオマエの姿にもどしてやる」

「それまでカワズでいろと?」

「ああ、そうじゃ。しばらくの間、ワシのかわりにオマエが泉の神様をつとめるのだ」

 泉の水が波打ちます。

 そして奥から出てきたのは六衛門でした。いや、それまでのカワズから六衛門に姿を変えた、この泉の神様でした。

「おかげでワシは自由の身になれる。で、これから町へ行こうと思っておる」

「町に行くですって?」

「ああ、ちょいと遊びにな。こうして人間の姿をしておれば、怪しまれることもなかろうからな」

「それであれば、オレの姿じゃまずいことに。オレは役人に……」

 六衛門は正直に話そうとしました。

 ところが、

「ぜいたくは言わん。人間であれば、オマエの姿でけっこうだ。では、あとはまかせたぞ」

 泉の神様はそう言い残し、泉の前からあっというまに走り去ってしまいました。


 それ以来。

 泉の神様が泉にもどってくることはありませんでした。

 六衛門は今もカワズ――泉の神様のままです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです! 神様もピンからキリまでいろいろいますから〜。何でもいいってものではありませんよね。 ところで、keikatoさんのお宅にも神様おられますね。山の神。世間一般、奥さんはそう呼…
[一言] badendなんだろうな とは思いながらも 神様に担がれたのでは? とも深読みしてしまいました 変身できる神様なら 牢屋から抜け出す事も容易かと しめしめ、とカワズの神様は笑ってるのかも …
[良い点] 両者とも災難な結末がおもしろいです。構成がきっちりしていると思います。あと、いつも思うのですが、流れるような文章で、とても読みやすいです。きっと努力の賜物なのでしょう。
2017/11/10 17:24 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ