宣戦布告。
動かされた世界を動かす(元に戻す)ために。
「...風がどんどん濃くなっていく...あぁ愛おしい」
そう呟くアイアスはかなりの速度で、風の根源を探していた。
背にはアルマ、その後ろには何千もの竜達がついてきている。
「...何?気持ち悪いだと!?...これはだな...愛というやつだ、
私のアスルペ様への忠誠心は愛同然なのだ。
仔らと同様に愛おしい...早く触れたい!!!」
アイアスの様子に氷竜達は笑っていた。
「...レイラがもし操られているのだとすれば、おそらく王都に
戻るだろうな。
暴食、色欲、嫉妬、不気味な龍達、それにクルーシア兵と多くの竜、
アスルペ様の力はどれほど奴らに通用するか。
私達も急ぐぞ、あの方は時々無茶をするから誰かがいないと死んでしまう
...そういう面はレイラにそっくり...いや、元々子供のような幼い方だ」
アイアスはアスルペと会えるのが余程嬉しいのか、珍しく笑みが絶えない。
「...もっと出てきてもいいんだじょー」
場面が変わると風龍は巨大な竜巻の中心にいた。
アスルペには似ているが、現時点では確証がないので今は「風龍」と
呼ぶことにしよう。
そして王都の広場にはクルーシア兵や多くの竜と嫉妬、「あの」龍がいる。
「暴食達は出てこないのかね」
時間が経っても大罪龍達が姿を見せないことに疑問を浮かべる。
だが突然こちらへ向かってくるのは...氷竜の雄を追っていた、氷竜。
彼女はレイラだが、風龍は彼女が分からない様子だ。
「...見た目は氷竜だが、敵かい?
おかしいのう...」
目の前まで近付いてきた...それは氷竜だ。
間違いなく氷竜だという事は合っているのだが、何故氷竜の彼女が
王都に仕えているのか...その事に風龍は納得がいかない。
「...敵...倒す...敵...敵...敵ーーーっ!!!!!」
叫んだレイラはアスルペに向かって冷気を放つ。
それは氷でできた槍のようで、アイアスほどではないがそれなりの
貫通力があると思われる。
だが風龍の竜巻には全く効かない。
「...やっぱり氷竜じゃ...お嬢ちゃん、ザイスは知ってるかいー?」
目の前の竜がやはり氷竜だと確信を持つと、彼女へ問う。
追われていた雄の氷竜を助けた際に、目の前の雌竜の後ろには多くの
ザイスに似た竜達がいたことが気になった事も王都まで来た理由の一つだ。
「...お兄ちゃん...お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!!
...お母様が殺した...お母様お母様お母様が...見捨てて殺した...
あたしもお兄ちゃんも......可哀そうな子...」
氷竜の言葉に風龍は一瞬思考が停止する。
(...お兄ちゃん?...強き妹がいると聞いてはいたのだが...
ということはお嬢ちゃんはアイアスの娘か...!)
予想外。
今の風龍の表情はそんな言葉が似合うだろう。
「ヒーヒーヒーヒーヒー!!!久しぶーりでーすね!幻龍ーーー!!!」
アイアスの娘の首元付近から老人が顔を出す。
彼は風龍を「幻龍」と呼んだが、風龍の姿はところどころ透けていたり、
額から顎のほうへ生えている角によって見えない瞳、鱗が生えそろって
おらず柔らかそうな肉体は龍のようには見えず、アスルペの容姿とは
共通点が見つからない。
「こりゃあびっくり...ヨゲス・ライドだ...!
相変わらず不愉快な話し方だな、息子は似なかったというのに」
老人を見つめながらそう呟く。
「...うるさーいでーすー!!!
この仔ーが氷姫アイーアスの娘ーだと、気付いーたよーうでーすねー!
あなーたはーこのー仔をー傷付ーけられまーすかーーー!?
ほーれー!!!」
風龍へ言い放つと、レイラの首を叩く。
するとレイラの瞳は紫色に輝き、冷気を纏い始めた。
それはアイアスの扱い方と似ていて、尾は鋭い剣のようになる。
「...アイアスに似ている。
それにしても余計な事ばかりするねー、約7000年生きてきた
のに何も変わってないのですかー」
竜巻の中まで飛んでくる冷気、長くて鋭い尾を避けながら老人を
嘲笑うかのように言った。
「...生きーるためーに死んだーのでーす」
そう呟いた老人の顔から笑みは消えていた。
「...何を訳の分からない事を...最後に聞かせてくれ。
あの時お前が守っていた『フェディオ』とは一体何なんですかい?」
少しずつ風龍が纏う風は強くなっていく。
「...」
暴風によって掻き消されてしまった、その言葉。
だが老人の口元を見つめていた風龍には「それ」が理解できた。
(...やはりか...)
風龍は何を思ってか、優し気に笑みを見せる。
「大罪龍ーもどんーどん復活ーを果たーし、あなーたー如きにーもうー
世界はー救えなーい!!!
希望ーは潰えーたのだ!!!!!
ヒーヒーヒーヒーヒー!!!...ごほーごほ...おおーぅ!」
老人は大袈裟に笑い、一瞬レイラの背から落ちそうになる。
「...希望は潰えただと...笑わせないでもらおうか。
馬鹿は勘違いするんだ、希望は何かを成しえる事のできる大きな力や
特別な力だと...それは違う。
本来の希望とは積み重ねてきた努力、想いや愛、そして意思のように最初は
とてもとても小さな、脆いものなんだ。
揺らぎそうになることもあれば、道を誤ってしまう事だってある。
だがそれだって必要なことでそれを経験した結果、より大きく、
たくましくなり、『とある力』で繋がれたモノを希望という。
『とある力』というのはその場合の希望によって形を変えるが大半は
想いと愛だ。
...いいか?
ごく稀に特別な力を持った者も生まれるだろうが、それ以外の大半の
平凡な生き物達の一匹の力に希望はない。
それは人も竜もだ。
それぞれが『信じて、積み重ねてきたもの』の先で『知らなきゃいけない
何かを知る』とその2つはそれぞれにとっての『とある力』と繋がり、
一つの大きな力となる。
それで初めて小さな希望になったといえる。
そしてその希望を潰えさせないために私達は日々どんな困難にだって
負けずに、たくましくするために同じ希望を信じる者達と抗い続けているのだ!
覚えておくといい...こんな私のために動いてくれる彼らも私にとっての
希望そのものなんだよ」
天を見上げ、呟くと風龍の纏う竜巻は一気に天まで届き、太陽が見えず
暗かった空に光が戻る。
上空を見上げた老人やレイラは驚愕した表情だが、それはきっと太陽の光に
驚いたのではない。
太陽の光を囲うように天を舞っていた約1万体もの龍や竜達が続々と、
風龍の元へ降り立ってきた事に対してのものだ。
降りてきた龍達は風龍の味方なのか...?彼らの正体とは...?
次話、明らかに。