臆病者。
その風へ乗せるために。
「仔らを任せたぞ。
もちろん死ぬ気はないがこんな世界だ、もしかしたら生きては戻れない
可能性だってある。
その時はこの仔らを強く、たくましく育ててくれ...頼むぞ」
朝日が昇り始めた頃、アイアスは彼へ言う。
あれから約12時間経っていた。
「...アイアス様も皆もどうかご無事で...!」
彼の疲労を考えてか、5体ほどの氷竜と共に何百もの幼竜の子守りを
任せ、彼はその言葉に頷くと、
「...2000年前の救出戦の時のように私達はアスルペ様へ仕える!
戦意のない者は無理について来ることはない、持病を抱えている者も
ついてこなくていい!
だがこの世界に不満を持っている者達はここへ置いていかない!
共に世界へ告げるぞ!私だけでは足りない、何十でも足りないのだ!
何百、何千でやっと世界は目を向けようとする、そして何万、何十万、
何百万となれば世界の半分は動かせるのではないか!?どうだ!?
違うか!?」
アイアスは突然周りを囲む竜達へ叫び始める。
彼女の問いに氷竜達は甲高い声で応え、
「声を出せるのならついてくるがいい!前足を動かせるのなら来い!
後ろ足を動かせるのなら来い!その牙で、その尾でこの世界を闇に
引きずり込もうとしてくる者達をねじ伏せられるというのなら
来るがいい!!!
抗い方なんてバラバラでいい、必要なのは抗うって意思だ!!!
他の一部の人や竜は一人で抗うのは怖いらしいが、それなら絆で
繋がれた者達と抗えばいいだけ!
そういう者達の心を救って、私達の絆へ加えようではないか!!!
誰も見捨てるな、そして繋がっていくぞ...この世界を覆うほどの
数となって、サリーシャも我が仔らも取り戻す」
アイアスは叫び続けて、士気を高める。
「...すぐさま風を追う、遅れるなよ」
アイアスが勢いよく飛び立つと、それに続いて多くの竜達も飛び立った。
場面が変わる。
「...だから言ったはずよ、もう信じるのはやめなさい」
竜達の巣のような場所にある窪みで、アルディア達は休んでいたようだ。
「サクリさんとグレムさんは驚いた表情だった...もしかしたら
偶然だったんじゃないかと思うんだけど」
呆れた表情のイアへそう返答すると、数時間前の出来事を思い出す。
「...アルディア様!本当によかった...お怪我は?」
追ってきていたサクリ達と合流し、彼女は今にも泣きだしそうだ。
「全然大丈夫ですよ、お二人もご無事で安心しました」
アルディアの後ろに乗っていたイアはどこか不満そうな顔で
目の前の竜に乗るグレムとサクリをジロジロと見ていて、
グレムはそれに気付くと手を振った。
「...イアちゃんのパイの実はまだまだだぜ?ヴァイオレットの姉貴の
ほうが約10倍たわわだったわ」
その場の空気さえ読まずに放った言葉のせいで前に座っているサクリの
げんこつが飛んできて、イアの周りは火花が散っている。
「...し、失礼しました、イアさん...」
サクリは申し訳なさそうに謝るも、イアは不機嫌そうだ。
「それよりも時間がない、俺はもうホワイトトゥルーの方とは
仲良くできないですが...サクリさん達はこれからどうしますか?」
アルディアの発言にサクリは驚く。
「...え?...どうしてですか...?」
感動の再会。
というよりは悲しい再会になってしまった。
「...色々あって、ヘリサさんの考えには賛同できないんです。
おそらくサクリさんとグレムさんは知らされていないと思うんですが、
ヘリサさんは」
その後の言葉を続けようとした、その時、
「...はいはーい、失礼!
サクリちゃんとグレム君の作戦は本当に素晴らしいね!!!
時間稼ぎありがとう!もう捕らえにかかるね!逃がしちゃだめだよ」
突然、竜の首に繋がれている鎖から女性の声が聞こえてくる。
「...え、作戦ってのは...!?あ、ちょっと!」
周りを見ると、勢いよく多くの騎士兵がどんどん向かってきている。
「嫌な感じだなー、使われた感あるわー...アル坊逃げやーーー!」
グレムは竜から降りると、アルディアを庇うように向かってくる
騎士兵達のほうへ、剣を構えながら走り出す。
「...グレム!...アル坊ってのは本当にやめなさい!!!」
サクリは焦っているのか、ツッコむわけでもなく、げんこつを
くらわせるわけでもなく、ただ普通に怒っていた。
「...ライ・ウィング!」
この状況に耐えきれなかったのは少女だ。
アルディアと自分の乗っている竜の尻付近へ雷撃を当てると、
竜は勢いよく駆けだした。
「...イアさん!?」
アルディアはサクリ達を心配そうに見るも、
「死にたくなければ情は捨てなさい。
サクリさん達はアルディアさんと過ごしてきた分、騎士兵達の欲しいで
あろうたくさんの情報を持ってるだろうし、すぐには殺されないはずよ。
そして彼女達が本当にあなたを主だと認めているのなら、それを
話そうとはしないだろうけど、騎士団は口を開くまでは生かすわ、
きっと、多分、50%の確立で」
イアの瞳に焦っている様子はなく、アルディアは自分が恥ずかしくなる。
一瞬だが、少女の行動に対して怒りがこみ上げてきてしまった事に。
「...自信ありそうで自信ないの?ただの強がり?」
そう言って笑うと、イアは見下すような視線でアルディアを見た。
青年の瞳に宿る想いに気付くも、何も言わない。
「...嫌な空気だな...来るべきではなかったか...怖いじょー」
現在に至ると、グアースド大陸にいるアルディア達から遠く離れたサリーシャ
の真上を一体の龍の影が通っていった。
その先には王都クルーシアと死の墓場しかないはずだが。
同じでなければならないのは持ちし意思の向かう先、ただそれだけ。




