当たり前。
同じなのは「ホワイトトゥルー」という名の騎士団に属している
ということだけ。
だからといって志、目的まで同じとは限らない。
「...ほらほら、逃がしちゃあたしも怒られるしサクリちゃん達だって
こっちに配属になって早々怒られたくないでしょー?
ここは草原だからまだまだ姿は見えるけどそろそろ追わないと」
彼女の言葉を素直に信じきれないサクリ。
グレムは見える谷間の中にきっとたわわなモノが詰め込まれていると
いうことだけを信じている。
「サクリ、アルディア様に追いつかないと俺達が本当は
守らねーといけないって姉貴に怒られんだろ?」
それは彼女も分かっている。
エルヴィスタ班はアルディアを守り、仕えてきた。
だが本当にそれだけなのか...何かが心の中に引っ掛かる。
(...どうしたら...)
サクリは俯きながら悔し気な表情を浮かべると、
「...なら最初は私とグレムにアルディア様とお話させてくれませんか?」
と今できる事の中で一番最善だと思う結論を出す。
「...うーん...いーよーーー!」
その返答の速さにはサクリも驚いた。
「お2人さん、あたしのこの竜に乗っていきな!」
ヴァイオレットは竜から降りると手綱をサクリに握らせ、
2人はその竜に乗った。
竜はアルディア達の乗っている竜と全く同じ。
「...行ってきます!」
サクリはヴァイオレットへ言うとグレムも手を振った。
「ヴァイオレット様は本当に悪いお方だ」
2人の背を見つめている彼女へ一人の騎士兵が言い、周りの騎士兵達は
笑っていた。
「...これがなければさすがに任せないよ、あの子達にはね!」
そう言って、谷間の中から何かスイッチのようなものを取り出した。
場面が変わる。
「...本当にその目で見たのか?」
どこかの大陸に多くの氷竜達は集まっていて、その中心にアイアスと
アルマがいる。
その手前にはあの追われていた彼もいた。
「...はい...間違いなくレイラ様でした。
ですがどこか様子がおかしく、普段の戦いの時のようにあの暴走した姿で
追ってきて...ザイス様は...アイアス様にも話さずに行動した事、
どうかお許しを...」
その氷竜は竜ならではの服従の姿勢をアイアスに見せる。
「...悪いのは私のほうだ、頭を上げろ。
すまないな、お前達...心配かけていたのは分かっていたが、そこまで
お前達まで追い詰めているとは思わなかった。
...これほどまでに我が仔達が姿さえ見せないのはかつてなかったから
内心恐れていたよ、このまま帰ってこなかったらどうするべきか...。
所詮私も親だ、最近は何よりも仔の事を考えてしまっている。
お前達の事さえ考えられなくなってきているのならそろそろ私の座も
次のリーダーに託すべきだ。
だがレイラが今聞いた通り、そのような事になっている以上...
お前達の中から立候補する者はいないか?」
アイアスの言葉にも反応は薄い。
そんな事よりも多くの竜達は悲しんでいた。
「...何故泣いている?
私が老いたからか?レイラやザイスがあんな事になったからか?
正直私もレイラ達を救えるかは分からん...このような事は未だかつてない
からな」
アイアスは話を続けるも、
「...違いますよ、アイアス様...。
その程度の事はリーダーを変える事に繋がりません」
アイアス達を囲む何百、もしかしたら一千体はいるだろうか、
その中の一体の雌竜が口を開いた。
「...レイラ様もザイス様もアイアス様のお子様なんですから私達よりも
優先していいんです。
そこは私達だって当然理解してますよ。
確かにリーダーであるアイアス様は仲間達の事も大事にしなくては
ならない...けど私達の事を今まで少しも考えなかった時なんて
ありましたか?...ありませんでしたね。
家族同様、いつでも私達の事も考え、助け合ってきてくれました...
いや、今まではただ助けてくれただけでしかない。
仲間とは助け合うもの、それが当たり前なのだとしたら次は私達が
アイアス様を救う番です。
あなたはもう私達の事を第一に考えなくていい、もう十分です。
氷姫アイアスは私達の誇りなんですよ?
もう重荷を下ろしましょう。
アイアス様が本当の意味で自分の生き方に素直に生きる事を私達は望んで
いるんです、そうやって生きてくれれば私達は嬉しい...。
...だからこれからは私達が助けます、アイアス様。
あなたがリーダーである限り、私達はどこまででもついていきます。
レイラ様達を助けにいきましょう...!」
氷竜達の悲しみはリーダーであり、親でもあるアイアスが「当たり前」と
いう多くの重荷を背負って生きてきた事に対してだった。
「...お前達だって私にとっては家族なんだぞ...優先順位なんてものは
存在しない...。
これからもそばにいてくれるお前達をも愛し続ける。
だが私がまた、もし追い詰められた時はお前達の行動にも頼ってみよう...
それでも構わないか?そんな私がお前達を率いても構わないか!?」
アイアスの叫びに多くの竜達は甲高い鳴き声で応え、アルマは幼竜達を
抱きかかえていた。
「...そういえばアイアス様、追われてる最中に追い風が吹いて、
助けられたのですが...誰かも分からない者がアイアス様に『奇妙で
気持ち悪い風に助けられたといえば分かる』とおっしゃって...
ご存じですか...?」
周囲が鳴き声に包まれてる中、彼はアイアスへ問う。
「...あれから何千年の時が経ってもあなたは...。
そうか...報告ありがとう。
私のせいでお前を危険な目に合わせてしまったな、今日はゆっくり休め」
アイアスは彼へ言うと空を見上げ、
「...愛しき風がこの空に戻ったんだな...」
と呟いた。
追い詰められたら抱え込んではいけない。
そばにいてくれる人に打ち明ければ、「本当の絆」で繋がれている者達は
きっと愛で包んでくれるから。