望み。
2つの繋がりは...。
「...で、今はどこに向かってるわけ?」
目を覚ましたイアはアルディアへ問うも、彼も寝ていた。
「...ぐぬぬぬぅ...イアが聞いているのにいい身分だこと...」
噛みしめながらイアはアルディアの両頬を強く引っ張った。
「...い、いだだだぁ...!」
みっともない顔をしながら青年は目を開く。
「...今はどこに向かっているのって聞いているの!」
目の前には恐ろしい形相の少女がいた。
「...あ、今はこの竜達の巣へ一度戻るところです...」
未だ竜達は走り続けていたが体力があるのか、息切れさえしていない。
「...そう。
ねえ...アルディアさん。愛って居心地がいいものなの?」
イアはアルディアの頬を放すと彼へ問う。
「...急に言われても...。
俺もまだまだ分からない...見えなくて、すぐに消えてしまいそうなもの
って感じはするけど」
悩んだ表情で答える。
「...けど?」
イアは興味深そうに問い詰める。
「...居心地はよかった...。
母さんのは子供に対する愛だろうから本当に愛し合った人達の愛とは
違うと思うけど、それでも母さんの愛はどこか温かくて、安心感のある
ものだったと思う」
照れくさそうに言うとイアはニヤニヤしながら、
「...何照れてんのよ。
いいわね、愛されていて...イアがアルマ様の子に生まれてたらきっと
幸せだったのに...母親交換したいぐらいよ!」
ムスッとした顔でアルディアへ言った。
「...お母さんもイアさんを望んだと思うよ?
俺はクルーシアに行った事もないし、メドリエさんと会った事もないから
分からないけど...イアさんが今生きているのは、メドリエさんが
イアさんを望んだ結果。
それは間違いではなかったってお母さんも思っているんじゃない?
背は小さいけど元気で、生意気だけど可愛らしい...くて...?
そんなイアさんが今こうやって生きているのは嬉しいだろうなって
思う。
俺もイアさんと出会えてよかったよ。
重荷を背負って生きるっていうのはほとんどの人には理解されないけど
イアさんなら分かってくれた。
だからイアさんの事も分かりたいし、これからも支え合ってほしい」
話し終え、イアの顔を見るといつのまにか真っ赤だ。
「...え、え、え!?やっぱり熱があるんじゃ」
動揺しておでこに手を当てようとするも振り払われ、
「ないないないないなーい!!!
...アルディアさん、軽い男だって思われるわよ?
聞き捨てならない言葉もあったけど...イアが可愛いのは当然だとして
...さ、支え合ってほしいっていうのは...も、もっと関係深くなってから
言うといいわ!」
目が泳ぎながらもアルディアへ言う。
「...イアさん、なんか勘違いしてる...?
普通に仲間として支え合ってほしいってだけで...」
青年のその言葉にイアの顔は今にも噴火しそうなほど赤くなる。
「あ、え...あ、わ、分かってたわ!
べ、別に勘違いなんてしてないけどそれでももっと言う相手は
大事になさい!!!
小さいとか生意気とか愚痴も言わない事ね!!!
それだってイアの魅力よ?」
そう言ってイアはセクシーな表情をするも、
「...合わない...」
とアルディアは笑った。
(...アルディアさんは本当に幸せよ...醜い豚が本当に望んだのは...)
顔は赤いままだが、ふと視線を逸らしたイアの表情は一瞬哀しそうに
見えた。
(...まだか...)
場面が変わるとあの氷竜は猛スピードで飛んでいた。
その後ろにはレイラを先頭に多くの見た目はザイスと全く同じ竜が
ついてきている。
いつのまにか彼の体には切り傷ができていて、何度か追いつかれ、
襲われたのだろう。
だがアイアスのいる大陸まではまだまだ遠い。
そこまでたどり着ける体力が彼にはあるだろうか...。
...
突然、追い風が吹く。
(...なんだ...?
追い風はありがた...くもないか、レイラ様達も...)
と振り返ってみるとレイラ達からどんどん離れていくことが分かる。
(...なに!?)
彼には追い風だが、レイラ達には向かい風。
そんな事あるはずもないのだが。
「...大変な奴らに目をつけられたねー、そのまま逃げるといいじょー」
突然誰かの声が聞こえ、周囲を見渡すも誰もいない。
だがそれはレイラ達の時と一緒で、彼にとっては不気味でしかなかった。
「怖がらないでいい、アイアスのお仲間だよ...って言っても
このご時世信じられないか。
なら彼女にこう言ってくれないか?
『気持ち悪い、奇妙で不気味な風に助けられました』ってそれだけで
あの子なら分かるはずだ」
素性の分からない存在に返答はしない。
彼は一度頭を下げ、そのままスピードを上げて飛んでいく。
「...彼も主のためにか...似たような連中さんいたっけなー、
私の主はどこさ行ったのか...あ、つい訛ってしまった...
おばばと過ごしすぎて彼女の癖が...けど面白いからいいかー。
...ひたむきに力強く生きていれば、誰かは見ているものだじょー、
一人で不安な時もあるだろうけど惑わされてはいけない。
そういう時こそ、自分の信じるもののために強くあれ。
不安な時に自分自身に負けてしまい、適当な事ばかりしていると
それを見ていた若い者達へ悪影響を及ぼしかねないからねー。
大人達のひたむきな姿勢を見て、若者は育つ。
なのに大人が適当な言動ばかりしていたら、ついてきた若者達だって
本当にこの道が正しいのか不安や迷いで揺らいでしまう。
そういう意味では彼のような者のいる氷竜族が強さを持ち続けている
のも納得できるなー。
辛い時は自分の信じるもの、彼らでいうアイアスを信じて、その信じる
ものを想って、行動に移す...それが最善なのじゃ...あ、訛りとは
めんどくさいものだな...。
にしてもアイアスは元気かねー、あの子には何度キスをされたか...。
色欲に誘惑されたなんて言ったらアイアスは彼女を殺しにいきそう
だなー。
レズは可愛いあの子だけで十分だよ」
風を操ったその声の主はアイアスの秘密...でさえも軽々と呟いた。
場面が変わる。
「...おーっと、あれは...」
ヴァイオレットという女性の目に見えたのは何体もの竜達と
その背に乗っている青年と少女だ。
獲物を狙う蛇のような視線。
それは生かそうとしているようには思えなかった。