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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
命の樹へ。
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人が人を壊す世界。






 生きるうえで人が忘れつつあるもの。

今ある安定した生活はかつての挑戦から生まれた。今の世界からはその安定が

消えつつあるとすれば、勇気ある挑戦を時代は常に待ち続けているはずだ。






 「...ア、アルディアさん...!

イアの雷撃でもこの数は無理よ!?一体何を考えているの?」


少女の叫びも無視して走り続けると突然アルディアはイアをその場に

座らせ、自分も草原のど真ん中で座った。

騎士兵達の竜はどんどん近付いてくる。


「...ホワイトトゥルーにはもう俺は戻らない...。

ヘリサさんの望む未来と俺の望む未来は違っていた。

イアさんはこれからどうしたい?」


アルディアの発言にイアは驚く。

彼も本当の意味でホワイトトゥルーに気付いたのかと。


「...知ってたのね...。

イアは...どうしたいか分からないわ。ただ楽しければいい、幸せだと

思える未来なら他は何も望まない。

確かにぶつかり合う事も時には必要だけれどお母様はただ弱いもの

いじめをしているだけ。

そんな王家は必ず変えるわ、そのためには知らなければいけない事が

たくさんあるの。

はっきり言っちゃうけどアルディアさん達、ライド家に同情なんてしてない。

もしライド家が王家より強ければきっと抗えたはず。

抗おうという意思が強ければ竜も多く従えていたかつてのライド家が

王家に劣るとは思えないもの。

何らかの理由で王家に抗えなくなったライド家が衰退していった...

その理由を知るにはアルディアさんが必要だと思うからイアもそれまでは

ずっと手助けしててあげるわ、感謝しなさい」


イアの話が終わる頃にはもう直前まで騎士兵達は来ていて、

いつ捕らえられてもおかしくはなかった。


「...お強いイアさんがいてくれると心強いですね!」


アルディアは状況を気にせずにイアへ笑うと、


ドッドッドッドッドッドッド


と地が微かに揺れるほどの音がどこからか近付いてくる。

その様子に騎士兵達やイアは驚くも、


「...頼もしい援軍が今から助けにくるはずです」


とアルディアはイアの耳元で冷静に囁いた。


「...援軍...?」


アルディアが振り向いた先を見たイアは気付く。

30体ほどの大きな竜達が駆けてくるのだ。


「...あれ...が仲間...すごい勢いだけど...」


その竜達はアルディアも追われた事のある竜達だった。

騎士兵達は慌てるもイア達を目前に逃げる気はないようだ。


「彼らはただ餌を求めているだけ、尻尾から背に乗って

どこかへ連れてってもらおう。

...どうぞ」


不安げな表情をしていたイアへ手を差し出す。


「...イアに傷つけたら恨むわよ、アルディア・ライド」


とは言いつつも青年の手を握る。


アルディアはあの竜達がこの場所を通る時間、ルートを一人で生きて

きた1か月で理解していた。

体格のいい竜達は向かってくる騎士兵を弾き飛ばしながらもアルディアの

立っている場所へ向かってきている。


「...行くよ!」


周りの騎士兵達がなす術なく眺めているがアルディアは先頭を走る竜の

尻尾をなんとか掴む。

この状況で手が滑って落ちてしまっただけで後ろの何体もの竜達に踏まれ、

一瞬であの世行きであろう。

片方の手で尻尾を掴みながらもう片方の手でイアを竜の背へ勢いよく投げた。


「...ふえぇぇぇ!!!!!?」


竜達がとてつもないスピードで走っている最中、イアは宙を舞うと

だらしない声が出てしまう。


「...あの人、絶対彼女なんてできないわ...イアを投げたわよ...」


無事に竜の背へ落ちるもイアは目を覆いながらぶつぶつと言い始め、

アルディアは尻尾のほうから少しずつ上がってきていた。


「...手荒くてすいませんね...」


と申し訳なさそうに言うも、


「...レディーをもっと労わりなさい!!!

てかてかてかてか!投げるのなら先に言ってくれればイアの魔法で

竜の背まで飛べたんだから!...イアだけは!」


よほど怖かったのか頬を膨らませ、ご機嫌ななめだ。


「...それは知らなかったので...無事ならいいんです!」


イアへそう言いながら頭を撫でた。

少女は顔を手で覆いながら俯くが耳は真っ赤だ。


...


そのまま竜の耳に掴まるとアルディアは何か話しかけていた。


(...話してる...?それはあの、竜言のなんとかが必要なはず...

どういうこと?)


りんごのように真っ赤な顔を上げるとイアは疑問を浮かべる。


「...アルディアさん...」


ふいに名前を呼んでしまう。


「...はい?...あ、顔真っ赤です!熱でもあるんですか!?」


振り向くとイアの真っ赤な顔に驚きながらそう問うも、


「...なんてわざとらしい...」


イアはアルディアにも聞こえないぐらいの声で囁き、


「アルディアさんは竜言の愛をお持ちなの?」


と続けた。


「...それは分からないけど昔から竜の声は聞こえていた。

幼少の頃、大人達にその事を相談したら俺も母さんも今まで以上に

避けられ始めてしまってもう誰にも言わないようにしようって

思ったんだけどね...もう隠し事もしない、トーダスの声も聞こえてたよ」


その言葉にイアは驚かなかった。


「...イアもそうだと思ったわ...不自然な事が多かったもの...

ライド家も加護だのあって大変ね、過度な期待押し付けられたりはしないの

かしら?」


どこか自分と共通点があると思いながらイアは問う。


「イリミルの長老様は喜んでくれていたけどそれは加護に期待している

だけで俺自身はただの人間なんだ。

なのに多くの人達まで俺をも特別なんだと信じていた...良くも悪くも。

そんなわけないんだ、ただ竜と話せる事以外は何も変わらない。

イアさんだって一人の女の子なのに多くの人達は王家の娘ってだけで

何か大きな期待を寄せるはず...ただ期待を抱くだけなら

全然構わないんだけど、その期待を押し付けてくる奴らも

多くいなかった?

そうなると押し付けられた側はとても苦しいだけなんだよね...

自分にとってするべき事をしようとしているのなら他人の期待まで

背負う必要なんてない。

過度な期待は人を壊す...今になって俺はそう思う...。

イアさんも心が苦しいときは何もかも打ち明けてほしい、抱えたもの

が積み重なると重荷になるだけなんだから」


アルディアが話し終えるとイアは背を向け、寝ていた。


「...イアさん...」


予想外の姿に悲しみながらアルディアも竜の背で横になる。






少女の肩が小刻みに震えていた事に青年は気付かなかった。




 同じ生き物。

それでも多少違う面があるだけで人は期待を抱き、その期待は多くの

数となり、寄せられる側にとっての重荷となるだけ。

人が人を壊す世界になってしまったのは人が人の価値を些細な事で

決めつけてしまうようになってしまったからだ。

アルディアやイアにとっての願い...

それはただ自分の好きなように生きさせてほしい。

たったそれだけなのだ。


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