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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
命の樹へ。
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抱えていたモノ。






 世界に「抗い」を促す者達は動き始めた。






 (...神へのお供え...ってこと!?)


自分へ頭を下げる彼らが何をしたいのかはもう理解不能だ。


「...あ!...え、イアさん...?」


突然原住民の達の奥から一人の知っている顔の少女が歩いてきた。


「...無様な姿ね、アルディア・ライド。

ここで遊んでいる暇はないわよ?さっさと彼らに命令を下しなさい」


イアに恐れはなく、確信したことがある。


(...アルディアさんはおそらく彼らと話せるからイアとは

知り合いって事を伝えてもらえれば攻撃はされないはず...)


そう思いながら原住民の前を通り、縛られているアルディアへ

近付いていく。


「...ボサっとしてないで早く彼らにイアは知り合いって伝えなさい!

イアが殺されてもいいの!?」


耳元でアルディアへ囁く。

だが、


「...イアさん...彼らと言語通じないんだよ」


その言葉にイアは一瞬戸惑うも、


「...はぁ?...アルディアさんなら分かるはずじゃないの...?

だってあなたは...」


目の前のアルディアは困った表情をしていた。


(イアの予想は外れた...?ならなんで彼らはアルディアさんを...)


考え込んでいる時間はない、原住民達は槍を構え始めた。


「...そこを離れなさい、イアがこっそり魔法で縄を切ったわ」


アルディアは驚愕した。

いつ縄を解いたのか...イアが何かを唱えた様子はなかったはずだ。


「...あ、ありがとう...でもこの数は...」


もう囲まれていて、一人一人を相手している余裕はない。

イアは覚悟を決めた様子で何かを唱えようとした。

その時、


「...アウデア...サン...」


一人の原住民が言葉を発した。

イアがアルディアの名を呼ぶのを聞いていたのだろうか。


「...アウデアサン...ナーマカ...テキチガウ」


何となくだがアルディアとイアにはその言葉が理解でき、2人は驚く。

間違いなくその存在はアルディアに話していた。


「...あ、えーと...アルディア、敵、違う...アルディア、

あなた達の、仲間、いい奴、分かる...?」


アルディアも何とか自分達が敵ではない事を伝えようとする。

イアは苦笑いしながらアルディアの様子を見ていた。


「...アウデアサン、ナーマカ、イーヤーツッ...?」


ぎこちないが彼女とは間違いなく会話が成り立っていて、「彼女」だと

思ったのは胸が膨らんでいたからだ。

もしかしたらこの民族は男も膨らむのかもしれないが現時点では

アルディアとイアは目の前で話している存在を「女」と認識した。


「...他の、人達にも、アルディアさん、仲間、いい奴、伝えてほしい」


周りの原住民達へ指差しながら何とか伝えようと必死だが、

この状況で敵だと思われれば危険なのだからそれも当然だ。


...


しばらくじっとアルディアを見つめた後、彼女は他の仲間達へ

何かを話し始めた。


「...アルディアさん...『いい奴』はちょっと余計だったわね、

非常に腹立ってしょうがないわ」


突然イアが口を開く。


「...実際彼らが仲間として接してくれるのなら俺だって彼らを仲間と

して接するつもりだし、間違ってはないはずだよ...!

...それにしてもイアさん無事だったんだね...よかった」


アルディアの自分を心配してくれていたかのような瞳にイアは、


「...イ、イアは一人でも生きていけるといったはずよ!

心配されても別に何とも思わないわ...本当なんだから!

...それよりもアルディアさん、『俺』って言ってたかしら?

頭でも打って話し方を忘れちゃったの...?」


照れくさそうに返答し、アルディアの口調が変わった事に気付くと

彼を馬鹿にするかのように言った。


「確かにイアさんは雷撃も扱えて、俺と出会う前から一人だったから

心配されるほど弱くはないか...弱かったのは俺だけで、その弱かった

自分...偽りで生きてきた自分を捨てるためにもう素直に生きていく

ことにしたよ」


アルディアの言葉にイアはどこか寂しさを感じ、


「...そ、そうよ、イアは一人でも大丈夫なの...強い子だから。

そして...アルディアさん、自分を変えようとするのは勝手だけど別に

口調とかは変える必要ないと思うわ」


と俯きながら言うと突然アルディアはイアへ顔を近付け、イアは顔を

赤らめる。


「俺は生き方を変えたい。

...そういうかなり大事で、重みのあるものは些細な事や簡単に手放せる

ような必要じゃないものから変えていかないといつまでも変われないと

思うんだ」


ふとイアは涙がこみ上げてくることに気付く。

強がってはいてもやはり心も実際はか弱き少女なのだ。


(...そこまで変えてしまったら...変わる前のアルディアさんを知ってる

身近にいたイアや他の皆だってただ遠くの存在になってしまったと感じる

だけなはずよ。

...あ、アルディアさんはまだ知らないのね...ホワイトトゥルーが...。

何もかも知ってしまったイアには何も残らなかった...仲間さえ...

けどイアの知ってるアルディアさんだけは...。

仲間ってなんなの...イアは...共有し合いたい、あなたの心も支える覚悟

だってある...なのにアルディアさんは...イアは...一人じゃ)


涙を堪えるために瞳を閉じながら願っていた、が突然頬に何かが触れる。


「アルディアさん...?」


彼はイアの頬に左手を当て、彼女の瞳を見つめた。

間違いなく涙に気付いたであろう。


「俺は俺の正しいと思った行動をし、言葉を放つ。

それで俺が変わったとしても、それでもついてきてくれる仲間が欲しいんだ。

そこまで理解してくれて、そばで支えてくれる存在を俺は見捨てたりは

しないから」


青年は少女の心を理解した。


「...アウデアサン...ナーマカワナーマカ...」


その声が聞こえてきた瞬間、イアはふと状況を思い出して木の陰のほうへ

行くとうずくまった。


「...は、はい...そうですね、あなた達の、仲間の、仲間です」


アルディアは冷静に返答し、どんどん周りの原住民はその場を離れ始めて

いた。


「...シノトキ...タウケル...」


おそらくだが「死の時、助ける」と言っている。

何か困った時は助けてくれるのだろうとアルディアは思い、

来た道へイアを連れ、戻ろうとする。






(...イアさんもきっと同じなんだ。

何かを期待されて生きるとそれはただの重荷でしかない。

彼女もきっと辛いはず...期待を背負って、一人で生きてきたんだから。

もっと早くその心に触れられればよかった...いや、分かっていた。

だけど自分ではどうすることもできないなら何も言わないほうがいいな

って...心のどこかでそう思ってた...ごめんなさい...。

...人の上に立つ存在になろうとしているのなら、もう仲間にあんな表情

なんてさせてちゃいけない)


少女の涙は青年に心に重く、刻まれた。




 見たくなかった涙、させたくなかった表情、昔の自分と重なった少女。

だが今はもう母に縋っていた頃の自分ではない。

頼り、支えを必要としている者をかつて母が自分にしたように

心で救わなければならないのだ。


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