一人ぼっち。
一人ぼっちの2人は今はただ力が欲しかった。
自分を必要としてくれる人を守れる力が...。
「いつでも何かあればここに来ても構いません、歓迎しますからね」
早朝、アルディアは竜達に感謝と別れを告げた。
「...ありがとうございました、その際はよろしくお願いします」
竜達が見送る中、歩き出す。
(...いい竜達だったな...。
誰かと触れ合うのは久しぶりだったから、たった一晩お世話になった
だけでも別れは寂しい。
けど今はあの竜達だって毎日を幸せに過ごせるとは限らない...
彼らに何かあった場合、僕がせめてどうにかしてでも救えるような力を
つけなきゃ永遠の別れにだけはなりたくない...)
幼い竜達と遊んだ時間、大人の竜達に教えてもらった事。
それを忘れないように、楽しかった時間も心の中にしまいこみ、
(...まずは寝床と食料、水は川があっちにあったから...
そういえばダモスさんは僕には弓か...蛇腹剣っていう武器が合うかも
しれないって言ってた。
弓は木々次第では作れるけど蛇腹剣...っていうのは初めて聞いた。
形も分からないな...ひとまず弓も作って敵に襲われても自分で自分の
身は守れるようにしよう!)
前方に見える森へ向かう。
だがその森では昨日の夜に...。
(...結構長かったな...いい材質の木があればいいんだけど)
森の入り口付近まで来て、周辺の木を見渡していると、
(...折れてる!?)
右側のほうでは多くの木々が倒れており、何かが通ったような跡や
少人数が争ったような跡があった。
(...これならなんとかいけるかもしれない...)
約3時間後。
(小さい時によくおもちゃの弓を作った経験がここで役だった!)
アルディアが作った弓はエルヴィスタで戦った時の弓のように立派な
ものではないがある程度の狩りや人が相手であれば十分すぎるほどの
殺傷力を持っていそうだ。
矢はかなり細い分、突き刺さるというよりは貫通してしまうのでは
ないかと思うほど。
明らかにアルディアの作った矢は「弱らせるため」のものではなく、
「殺す」ためのものといえるだろう。
(...自分が弱いといい事なんて何もない。
戦いの場面では相手を上回るしかないんだ...それがどんな戦いであっても)
矢をどう持ち運ぶのかと思えば彼は蔓で矢を入れるための籠まで編んでいた。
(...寝床はゆっくり探せばいいか、夕方までまだまだ長い。
今はまだ9時にもなってなさそうかな...?)
その体内時計はほとんど合っていた。
早朝の5時ぐらいに竜達の巣から歩き出し、ここまでで約3時間であろう。
「...んぅ...」
場面が変わるとイアはどこかの木の上で寝ていたようだ。
「...昨日のあの女は本当にしつこかったわ...イアは睡眠不足よ...」
ぶつぶつと呟きながらも辺りを見渡し、安全を確認する。
「...ねぇ、小鳥さん...世界って複雑ね?
敵だと教えられていた者が味方といえる、味方だと思っていた者が敵である。
主だのって言ってたのにその主に隠し事をしてるのよ?
イアは...イアはもしダモスが隠し事をして裏で悪い奴らと繋がってたら
すぐにダモスを殺してしまうかもしれないわ...だって哀しいもの...。
どんなにうざく、しつこく構われてもイアを慕ってくれていた人達が
そうだったらイアは許さない...イアを信じてくれていた時間はイアが
イアを信じてくれていた人達を信じている時間と平等に時は進んでいるのよ?
...イアの想いを返してって絶対なるわ...もしあの男の子があの女性の
素性を知ったらどうなるかしら...狂うか、それだってあの女性にとって
の正しい道であるのだと理解し、ぶつかり合うか...。
...小鳥さん、お腹空いた!5分以内に逃げないと丸焼きにして食べちゃうわ、
これは本当よ?嫌なら早く逃げなさい」
イアを見下ろしていた小鳥へ話す。
よく見てみるとイアが寝ていたのは大きな鳥の巣だ。
小柄なイアが丸まって寝るには丁度いいようだが卵はなく、
今は繁殖期ではないようで1羽の鳥しかいなかったのが幸いだった。
ヒューッ
と突然2分ほど経った頃に風が吹くと小鳥はどこかへ飛び去っていく。
「...せっかくの餌を逃がすなんてイアも甘いわね」
呟きながら降りるとどこかへ歩き出す。
「イアは優しいから彼の心だけ救ってやるんだから。
きっと人の上に立つ者でしか分からない不安だの悩みだからイアは適任!
...戦争の謎だって知れてないのにこれ以上ライド家を減らされて
しまったら協力者がいなくなっちゃうわ」
目の前に落ちている1本の木。
それを手に取り、
「...鞭はさすがに悪趣味かしら...吹き矢...はイアにはダサいし...
無難に鋭い短剣ってとこね」
どうやら武器を作るようだ。
(...生きる上で必要な事、それは意志と力。
イアはアルディア・ライドを支えたい、そのために彼を守れる力を欲する。
...そして意志と力さえあれば場所、時間なんて問わない。
あとはイア自身の覚悟があれば『それ』を成しえるための歩むべき道は
心の中で開かれていくもの。
もしその道が見えないのならそれは自分の成長が足りない証拠。
自分の成長と共に道だって成長してどんどん続いていくんだから、
道は開かれていても自分が追い付けなければ歩めないものなのよ)
孤独を知っている2人は一人でどう生きていくか、それを理解していた。
それから約1カ月後の出来事。
(...ザイス、レイラ...どこにいるんだ...早くお前達の顔が見たい...。
頼む...)
どこかの白銀の世界。
アイアスは崖の上で夜の月を眺めているがダモスとアルマの姿は見えない。
「このままではまずい...日に日にアイアス様の冷気はどんどん進んでいる。
この大陸の生態系に影響を与えてしまう前にザイス様とレイラ様を探さねば」
彼女を陰から見ていた一部の氷竜達、14体はこれ以上待てない様子だ。
アイアスは仲間に弱音は吐かず、弱い面をも見せないが彼女の周囲の
冷気は時間が経つにつれ暴風となり、今この時間も氷の面積はどんどん
広がっていた。
子とすれ違ってからもう少しで3カ月になるだろうか、冷気は彼女の内面を
表していた。
「今いるのは何体だ...14体か、なら2体ずつの班に分かれて
各大陸に散らばろう。
もうこの大陸に全ての氷竜族を集めるべきだ!
他の奴らに気付かれないように誰にも言うんじゃないぞ。
一番危険だと思うウォアータス大陸には俺一人で行く...皆、死ぬなよ...」
陰にいた竜達の1体が周りの竜達へ話すと先に歩みだす。
「...俺達も行こう...これだって日頃の恩を返す気持ちを持てば
何も怖くない...。
アイアス様が悲しむ姿なんて見たくないだろ...!」
そして竜達は全方位へ別れながらそれぞれの向かう場所へ歩み始めた。
(...よし!)
場面が変わるとアルディアは狩りに成功したようで矢の刺さった野鳥を
捕えている。
約1カ月で弓も上達したのであろう、かなり手際がいい。
(...仕留めた後に大げさに喜ぶ人がたまにいたけど自分もしてみると
意外と心地いいものだって気付いた...。
そういえば本とかの主人公が大事な場面で何か熱いセリフを言ってもそれが
かっこいいとは繋がらない時ってたまにあったなー...。
こんな事は絶対言えないや...とかかっこつけすぎだなって。
そういう主人公補正とかってありそう...だったんだけど今になって思うよ。
...それは違うんだって。
自分ができないものを他人だってできないと思い込むと他人が「できた」って
事を認めたくない、否定したいって僕も思ってたよ...。
絶対他にも同じように思ってる人いるけど...そんなのただの憧れからくる
嫉妬心でしかない。
したければしてみればよかったんだ、こんな当たり前の事だけど心地いい。
やれないだのできないだの...自分じゃだめそうなら初めからやんない...
そんなのだっさいよ...!)
その場でアルディアは腹を抱えて笑った。
(...どんなに簡単に成しえられる事だって成しえようとしなければ
成しえる事なんて当たり前にできないじゃんか...!
真面目な人間ぶったかっこ悪い自分なんて捨てて、本当の僕がしたいと思った
事をどんどんしていこう。
本当にかっこいい人間は自分に素直に生きれる人だ、それはきっと人生が
物語る。
僕も僕をやめ...
あ、もう僕...じゃないな...俺だ...これもあの老人は見抜いてたのかな)
自分にできない事を成しえた人に嫉妬するのはかっこわるい事。
真面目ぶって生きても自分の心に嘘をついている限りかっこわるい生き方。
かっこよく生きたいのなら自分の心に偽りなんて必要なかったと。