真実を見つけ出すために。 ~外伝~
知りすぎた幼児に生きるべき未来は閉ざされる。
「ダモス、鼻くそみたいな顔してるわね」
ここは王城内の廊下らしき風景だ。
どこかの部屋の前を見張る兵士二人、小さきイアが話しかける片方の
兵士は若きダモスだ。
「...イア様...そんな言葉使ってはまたメドリエ様に怒られて
しまいますよ...わたしが吹き込んだみたいに思われてしまうので
『鼻くそ』なんてやめてください!もう少しお上品に『お鼻から出た
黄色い球体のような顔』とせめて言っていただけるとまだ、まだ...」
ダモスも考え込んだ様子でイアへ言うも、
「おい、ダモス!それも下品には変わりないぞ、この馬鹿者が...イア様、
『鼻くそ』も『お鼻から出た黄色い球体のような顔』も下品なお言葉は姫に
なるイア様は言ってはなりませんよ。
ダモスに対して名前をつけたければ...そうですね、なんだろうな...
「醜い豚」とでも呼べば皆も納得するでしょうな」
もう一人の兵はダモスよりも年上のようでダモスの先輩だと思われる。
この頃はまだ「闘将」の風格がなく、少々肥満体型で気の弱そうにペコペコ
していてまだ入隊して2~3年ほどの様子だ。
そしてダモスの発言に先輩兵士は怒鳴るとイアへそう教えた。
「...イア、母はあまり外に出るなと言ったはずだ。
さぁ帰ろう、おいで」
突然廊下の階段を下りてきたメドリエはイアを探していたようで、
イアに気付くと手招きし、その間ダモスともう一人の兵は敬礼していた。
「...醜い豚!」
イアはメドリエにそう叫ぶと勢いよくどこかへ駆けていく。
「...」
その叫びを浴びたメドリエの表情は非常に不気味だ。
ダモスは先輩兵士の顔を見ると冷や汗をかきながら心臓がバクバク
なっているのが聞こえ、おそらくメドリエにもその音が聞こえていたの
ではないだろうか。
「...醜い豚とはクルーシアで流行っているのか、見張り兵達よ」
メドリエは口を開くとダモス達に問う。
だがそれは「達」ではなく、間違いなくその目線は冷や汗がダラダラと
垂れ、肩まで伝って濡れていた先輩兵士の顔を凄まじいけんまくで
見つめている。
「...あ、い、いや...わたしも初めて聞きました...」
ダモスはその様子に口を開くもすぐさま自分の口の手前まで
メドリエは手を伸ばしてきて口を閉じるようにとダモスの口に
人差し指を立てた。
「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
その緊迫した状況に耐えられなかったのは先輩兵士のほうだった。
彼は突然頭を抱え、涙を流しながら叫んだ。
「...おい!!!この者を『あの部屋』に連れていけ!
我が娘に汚らわしい言葉を覚えさせおった」
メドリエは廊下内、ダモスしかいないはずだが大声で叫ぶ。
すると10名ほどの兵が駆けつけてきてどこかへ連れ去っていく。
「...メドリエ様、あの者はどうなるので...?」
ダモスはおもわずメドリエに話しかけてしまう。
「貴様ほどの身分で我にたやすく話しかけられるとでも思っているのか?
...だがまだ若いか、今回は大目に見るが次はないぞ。
あの者のようにいい歳してマナーもなっていないものは我は受け付けん。
若いのなら多くの経験をして、多くの失敗をしてみるがいい。
その多くの失敗は無駄にはならずに必ず活きるものだ。
失敗をせずに成功ばかりしてしまうのは我は不幸であり孤独だと思う。
そういう者達は常に最上位であり続けなければならないのだからな。
だからといって失敗してしまうとその理由に気付けない者達が多く、
自分のいいところだけしか気付けない...本当に哀れじゃ。
だが失敗を多くしていた者達は一つずつ自分の何がいけないのか
修正していけばいいだけなのだ。
それに気付ければ未来は簡単に変えられるものだぞ?
経験は見てるだけでは得ることができない、自分でやらねばならぬ。
貴様もこんな退屈な生き方が嫌なら戦場に出てみろ、我が話しといてやる、
次のエルヴィスタ戦の最前線でどこまでやれるか試せ。
まだまだライド家は多い、奴らを倒して我に忠誠を示すのだ。
...期待しているぞ」
と言い、メドリエは去っていく。
(退屈なのはわたしが悪いのではないと...わたしのすべきことを
決めつけてくる奴らが悪いのだな、メドリエ様...。
ならばわたしを中心に世界が動くように力をつけるまでだ...!)
おそらくダモスが闘将と称されるようになったのはこのメドリエの言葉に
よるものだった可能性が高い。
彼は入隊してからずっと見張りとして日々退屈だった。
自分も戦場に出てみたい、様々な事をこなしてみたい、だがどこでも
新人のやる事は先輩が決め、中々チャンスは回ってこないもので、
そうなった場合、やりたくもない事をやらなくてはいけないのは退屈だ。
退屈な時間、少しでも無駄な生き方をしたくないのであれば力をつけ、
自分もできるということを証明しなければならない。
力をつければチャンスも回ってくる、チャンスは自分で掴むものだが
若い者にチャンスを与えたメドリエも姫として当時からかなり優秀で、
この時にはダモスの力を見極めていたのであろう。
「...らい・でぃあぷと、らい・あいず、らい・うぃんぐ、
らい・ず・くろー、らい・...らい...これ以上は読めないわ!
読書は終わり!醜い豚が来るまでにさっさと出ていかなくちゃ!
...ん?」
書庫の中でイアは絵本を読んでいた。
「...これは何かしら...?」
絵本をしまおうとした拍子にどこかのページに挟んであったのか、
1枚の紙がヒラヒラと床へ落ちた。
拾って見てみるとそこには多くの貴族達が写っている。
真ん中にはメドリエやイアの父であろう男性もいた。
「しゃしん...かみなり...どらごんの...これも読めないわね」
その続きの漢字を「もし」当時のイアが理解していたのであれば、
その時点で彼女の命は「醜い豚」に消されてしまっていたであろう。