始まりの月。
生命溢れる大地を感じ。
「...僕は小さい頃によく森で遊んでたからこういう時にどうすべきかは
大体は分かるはずだ...」
アルディアは草原を踏みしめながらまずは何をすべきか考える。
「まずは食料と寝床...どこかいい場所がないかな」
キョロキョロ見渡す。
すると草原の奥の森、右側に林、左側には川がある。
「イリミールは優しいよ、こんな恵まれた場所に僕を降ろすなんて」
呟きながら最初に森へ向かう。
だが地鳴りが聞こえ、
(...え、なんだ...?)
それは真下ではなく、真後ろだった。
(...竜...!?)
竜の群れが移動していて、とてつもない勢いでアルディアのほうへ向かって
来ている。
(...僕が狙いか...?...いや、あの口の構造では肉は噛み切れない、
草食竜なら草を求めて移動してるだけなはず...!)
最初は自分を餌とするために追いかけているのだと思ったが、
その竜の容姿を見て違うと気付く。
アルディアが少し逸れた場所で止まると竜の群れは青年を無視して
駆けていった。
(大体80匹はいるがグリーンドラゴンじゃないみたいだ...
彼らが草食であるなら彼らを餌とする生き物もいてもおかしくない。
もっと注意していかないと...)
アルディアは自分にまだ甘さがあることを悟り、今まで以上に警戒しながら
動く。
キュルルルル~
と突然お腹が鳴った。
(...食べ物も自分で探さなきゃならない、慣れないけどやるしかない!)
アルディアは立ち止まると今いる草原に所々木の実のようなものが
ある事に気付いていた。
(母さんは野外でお腹空いたときはまずはその食べようとしているものを
自分の手の甲に汁がつくまで擦り、1分経っても汁がついた手の甲に異変が
起きなければ食べられるものだと言っていた)
母の知恵を思い出しながら子も真似てみる。
(...匂いはすごくおいしそう...これは何も起きないだろう...)
その木の実を手の甲に擦り付け、汁が垂れた途端にアルディアに魅惑の匂いが
嗅ぎ取れた。
それから我慢しながら1分ほど待つ。
すると、
(...猛烈に熱い!!!...痒い、痒い...嘘だ、こんないい匂い
なのに食べられないって!?
...あー!痒いーーー!!!...こんなものが口に入ったと考えただけで
背筋が凍りそうだ...)
アルディアはあまりの痒さに草原に倒れ、転がりながらその痒みが治まるの
を待つ。
「...え...?」
目を瞑り、耐えていたアルディアの手の甲が突然冷たくなる。
驚いて目を開くと、
「...だいじょぶぅ?」
「おにいたんたん!」
「へんなかおー!」
「かゆそー...」
「きもちわるいからだだね」
口に出したのは5体ほどの小さな小さな竜達だったが、その周りには
10体ほどの5体の竜よりも大きな竜達がいた。
おそらく5体の竜はまだ幼竜だろう。
「こら!人間をからかうんじゃない、すいませんねー。
って竜語は通じないのだろうか?
さすがに全ての人間が竜言の愛を持ってはいないだろうしな、困ったな...」
その大人の竜が悩んでいる間、幼竜達は仰向けになっているアルディアに
乗りかかっていた。
「...竜言の愛を授かっているかは分かりませんが一応聞こえてますよ...?」
突然のアルディアの言葉に驚いた幼竜達は一斉に大人達の後ろへ隠れ、
大人の竜達も驚いた様子でアルディアを見つめていた。
「...授かっていないのにわたし達と話せるはずがないでしょうに、
それよりもお体は大丈夫ですか?
初めてこんなところに人間がいて、しかもあの毒草にやられて痒がって
いるものですから近くまで来てしまいましたよ。
わたしたちは弱い竜ですのでどうかこのまま見逃してください...」
その竜は自分達も食べられると思ったのかアルディアへ頭を下げた。
「...いえいえ、あなた達を食べる気はないのでお気にせずに...」
そう言うと突然ある事を思い出す。
(母さんは確か自分が困ってるのなら優しい竜達に頼る事も必要って
言ってたな...)
生きるために母の知恵をフル活用する。
「...もしよければ食べれるものとか安全な場所を教えては頂けますか?」
その言葉に竜達は小声で何か話し合いを始めた。
(...うーん...さすがに人間である僕にそこまで教えないか...
この竜達だって初めてあった人間を信じれるわけもなく、僕に食われる前に
他の竜に食ってもらおうと考えているかもしれないしな...)
と思っていたアルディアに驚く言葉が耳に届く。
「...これから暗くなるのでこの地を理解していない者には危険です。
どうか安心してわたし達の巣まで来てみては?...あ、わたし達は
グリーンドラゴンなので人間にとっては狭く感じるかもしれませんが
その点だけ我慢して頂けるのならわたし達がよく食べる草や木の実や
虫など人間でも食べれるであろうものを用意できますので」
その竜の言葉にアルディアは一瞬固まる。
(...どうしよう、ムカデとか出されたら...どうしよう、カエルとか
ミミズとか出てきたら...どうしよう、どうしよう、おいしいのかな...
どうしよう...さすがに拒むのは申し訳ないし...これもあの竜達の
好意なら素直にありがたく受け取るか...虫自体食べたことないけど
臭そうだ...ぐちゅぐちゅしてないかな...けど人間は料理を覚えたのだって
一種の贅沢で、元々人間になる前はそういう虫だって食べてたかもしれない
んだからさすがに死なないよな...」
アルディアの頭の中は虫の事でいっぱいだったが、
「...一晩、よろしくお願いします!」
もう暗くなり始めているこんな時間に寝床など探せていないのだから
今はその好意に頼ろうと思った。
「これから1時間後に死んだとかはなしだぞ?グレム」
場面が変わるとアイアス達もグアースド大陸の浅瀬まで着いていたが
アルディアの通った場所とは違うようだ。
「...わ、分かってますって!」
グレムは焦ったように元気に返事をする。
「ダモスやアルディアがいないからって悲しむなよ?イア姫」
次はイアへ問う。
「どうしてイアまでそんな心配されなきゃいけないのですか、アイアス様。
イアは強いので一人だって生きていけますわ、アイアス様」
イアはアイアスにであっても見下すような目はやめない。
「なら元気でな、皆。
強く生きて、強く耐え、強くあれ」
3人へ告げるとアイアスは背にアルマとダモスを乗せながらどんどん
空へ上昇していく。
「アイアス様も負けんなよー!」
「アイアス様ー!アルマ様!ありがとうございました!」
「お子様と会えなくても悲しんではだめですよ、アイアス様!」
アイアスへグレム、サクリ、イアは叫びながら手を振る。
すると氷姫は同じ氷竜族でもザイスとは迫力が違うような甲高く、野太い声
で咆哮し、アルマとダモスも手を振り、咆哮を終えるとアイアスは飛び去って
行く。
「...悲しんじゃだめなのはイア様のほうですよ!...ですよ!...ですよ」
アイアスの姿が見えなくなっても最後まで響いていたのはダモスの声。
それを聞いたイアは嫌悪の溢れた顔で噛みしめていた。
「...それにしても俺とイアちゃんだけ注意されてなんでサクリだけ
ねーんだよ!?」
問うグレムとそれを聞いたイアの瞳はサクリの心臓を
突き刺しそうなほどの威圧感だ。
「...え?私本当に何も知らないですよ!?
...お二人様、非常に非常に怖い顔ですが...」
アルディアの上陸から数時間後、反対側の浅瀬から3人のサバイバルは
真上に輝く月と共に始まろうとしていた。