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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
災厄のパズル
76/123

紡がれた意志。






 彼らにとってイリミールはただの幼竜同然に過ぎなかった。





 

 「僕が怖い?...ビクビクしちゃって可愛いね、君何歳?」


その龍は笑いながらイリミールへ話す。


(...あたいは813歳よ、ゼラール・ド・ヴァリー...もう一体の)


彼女の思考は遮られ、


「...素直にこっちにおいでよ、いい子にしてたら怖い思いはさせないから」


その龍はどんどん近付いてくる。

龍が近付いてくる分だけイリミールは後ずさりするが、

後ろにはトーダスが佇んでいてヘリサは目の前の龍の後ろで

こちらを見ていた。

そしてその様子に気付いたのか、列になっていた大軍から

何人かの兵と何体かの龍が奥からこちらへ近付いてきている。


(...ガキんちょ...)


と何を決心したのかイリミールは突然目の前の龍の真下を潜り抜け、

ヘリサの抱えているアルディアの衣類を噛み、奪うことに成功した。

そのまま彼女は大軍を避けるために前方へは進まずに林の見える左へ

進路を変えて逃げ出す。


「...なんでどいつもこいつもそういう事するかなー...」


イリミールの右斜め後方からさっきの龍の声が聞こえ、彼女は振り向く。

すると鋭い3本の爪がとてつもないスピードで迫っていた。


(こんな大草原じゃ追いつかれる...!)


そう思ったがとある事を思い付き彼女は振り向き、その龍を見つめる。


「お?やる気ーーーっ!?」


龍は喜んでいるのか唾液を垂らし、笑みを浮かべながら彼女へ

爪を振りかざす。


「あたいだってアースドラゴンよ!意志は揺るがない!!!」


その叫びを聞いた龍やヘリサ、トーダスの動きが止まった。


「...おぉー、すごいね!気に入ったよ!ねぇねぇ、これどうやったの?」


彼らの体には何重もの草が巻き付いており、容易には外れない。


「草木があたいに力をくれるの!あんたには分からないでしょうね!」


龍の目の前まで近付き、そう呟くとイリミールは駆け出す。


「...こんな屈辱何千年ぶりだろうな...まだ体の感覚戻ってないかな」


イリミールの後ろ姿をその龍は睨み続けていた。




 「ガキんちょ!あの林に入ったらあんた一人で逃げな!

あいつは大罪龍の一体、あたいのあんな攻撃じゃ時間稼ぎにしか

ならない...きっと追ってくるからあたいはあいつらを何とかして

あんたを追わせないようにしておくから...!」


走りながら背のアルディアへ話すもイリミールは余裕がない表情だ。


「...ちょっと待って、まずなんでイリミールはヘリサさん達から

逃げてるんだ...イリミールは僕に何をしようとしてるんだよ...?」


青年の返答は彼女に多少疑いを持っているように感じ、その言葉は

悪い意味でイリミールの心に響いてしまう。


「...お願い、お願いだからただ逃げてほしい...。

そりゃあんたからすれば突然現れた竜に過ぎないわ、信じろなんて

当然言わない...けどお願いだから...」


イリミールは涙を流すも背のアルディアは気付かない。


「...逃げる意味が分からないって!」


アルディアの突然の叫びにイリミールは転倒してしまう。


「...イリミール!ごめん...イリミー...あっ!?」


起き上がらないイリミールに近付いたアルディアは彼女の涙に

気付く。


「...どっか痛い!?...ごめん、僕が大きな声出したから...」


彼女の肉体を優しく撫でながらアルディアは呟く。

すると地へ倒れていたイリミールに


ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!


という地が揺れる音が聞こえてきて、理解した。


「...逃げな!!!」


後方を見ながら叫んだイリミールの様子にアルディアも後方を見て、

その事を理解する。


「...イリミール、ヘリサさん達は仲間なんだ!

僕やの家がイリミルの集落で襲われそうになった時に僕を助けてくれた

のがヘリサさんとトーダスなんだよ...!

母さんが僕を助けてくれるようにヘリサさんに手紙を送って、

それにヘリサさんは応えてくれた...そんなヘリサさん達が...。

イリミールはきっと誤解してるんだ」


ととてつもない速さで迫ってくると龍とその後ろをついてくる

1体の竜、その背に乗っている1人の女性を見ながら言った。


「...それが本当ならアルマも馬鹿な女ね...」


イリミールのふいのその呟きが青年を怒らせてしまった。


「...それは、それは本音...イリミール...。

なら僕が証明すればいいだろ...?ヘリサさん達と話してくる」


俯く青年は立ち上がると向かってくる龍の方向へ歩き出す。


「...だめよ、絶対行かせないわ...行かせるもんですか」


イリミールも立ち上がるとアルディアの首元の服を噛み、背に乗せよう

とする。

確かにアルディアからすれば過ごしてきた時間はイリミールよりも

ヘリサ達のほうが長く、共にいる目的も分かっていて信頼できるといえる。

ホワイトトゥルーにはグレムやサクリ、ブルード等他にも今は亡きロイや

テリーなど心から信頼できる強く、一緒にいて楽しい仲間達がいるの

だから。

イリミールの場合は突然現れ、アルディアをこの大陸から逃がそうと

している事だけでその後も仲間でいるのか分からず、もしその後に

見捨てられるというのなら現時点でアルディアにとってはヘリサ達

と共にあることのほうが未来の事も考えると当たり前のことだろう。


「...ほら!行くわ...よっ!」


アルディアはイリミールの背に乗せられるも転がるように彼女の背から

落ちて、ヘリサ達が来るまで待つ気だ。


(あんなのにあたいじゃ敵わないのよ!...お願いだからお願いだから...)


イリミールは時間が経つにつれてその焦りもどんどん募り、


「...やぁ、さっきは楽しかったよ。

ありがとう、女の子...そして君がアルディア・ライドか...

僕の兄貴もきっと喜ぶんだけどなー、本当に2人共一緒に来る気はないの?」


ついにその龍が姿を現す。

もう少しで林の中に入れそうでイリミールはせめてもう少し先で

転倒すればよかったのに、と嘆く。


「ないわ」

「ちょっとヘリサさんと話させてもらってからでもいいですか?」


龍の目の前にいる1人と1体は違う返答を出し、イリミールは舌打ちを

する。

トーダスとヘリサも遅れて現れると、


「もちろん...ヘリサ!」


と目の前の龍は後ろにいた女性を名指しする。


「...アルディア様!」


その姿は間違いなくヘリサであり、疑う余地はない。


「...ヘリサさん、これはどういうことですか?

どうしてヘリサさん達はあの大軍やその龍と知り合いで、

どうしてイリミールからさっき逃げてたんですか?」


アルディアは問う。

その間もイリミールはニヤニヤしている龍やトーダスを威嚇している。


「...えーっとですね...単純な話です。

まだアルディア様にも話してなかったのですが『ホワイトトゥルー』は

エルヴィスタ以外にも拠点があり、1つの大陸に1つ必ずあるんです。

その全てを束ねているヨゲス様という方が我らのリーダーであり、

あの大軍やこのヴァリー様は他の大陸から移ってきたホワイトトゥルーの

仲間ですよ!

...エルヴィスタの私が率いていた仲間達の中でもその事を知っている

のはほんの一握りで大半はただ人を救うことや騎士兵に憧れて

ホワイトトゥルーに入った者達も多いんですがね...たとえばグレムや

サクリちゃんもそうですが騎士兵として地を守ったり、悪い敵を倒すって

いう目的は同じでしたし、そういう意味ではうまく利用されてる事に

気付かず勇気ある死を迎えた事は彼らも幸せに思っていることでしょう。

ヨゲス様のパートナーであるフェディオ様は結構厳しいので私達に

理由を知らせずに暗殺や抹殺を命じる敵も多くいるので、もし打ち明けても

本当の意味でホワイトトゥルーを知った彼らはきっとついてきては

くれなかったでしょうし...。

...まぁそれで数が足りないので「死の雨」はアルディア様もご存知ですね?

その影響で使われなくなったこの大陸の土地に多くの仲間を集結させ、

新たなホワイトトゥルーの本部にしようとヨゲス様はお考えです。

今この大陸から逃げようとしてる竜やこの地以外でも未だ封印され眠っている

強き龍達も仲間にするというヨゲス様はお優しいですよね。

強い者や龍達を従えて私達にとっての素晴らしい世界に変える...

争いもなく、何も不自由のない世界...素晴らしいと思いません?

...それであの竜から逃げてた訳はでしたね...アルディア様、しばし

お耳をお貸しください」


突然ヘリサはアルディアを物陰に連れていき、イリミールは

追おうとするも前方にヴァリーと呼ばれる龍、後方にトーダスが

彼女を行かせぬとばかりに遮る。


「...あの竜はですね、恐ろしい龍の血を継いでいるんですよ...。

その龍は額に2つの角があり、巨体です。

ライド家の血を絶やそうと一族と共に探し出し、追ってきては

残酷に殺して食らうんです...なのできっとあの竜もアルディア様を

狙っているのではないかとヒヤヒヤしていました...本当に無事で

よかった...。

ですがアルディア様が説得して頂けるのであればヴァリー様もお優しく、

お仲間にしてくれると思いますよ?

ただその場合はアスルペ様やアルマ様、イアさん達とは縁を切って

もらいます。

...彼らはヨゲス様やフェディオ様の宿敵ですので...」


ヘリサの最後の呟きはアルディアの耳には届かないが

アルディアは思い出す。

老人の家付近にいた龍は同じく2つの角があり、巨体で

アルディアを救ったとは言っても家まで運んでいる時は確かに

ずっと探していたような発言をしていた事を。

ヘリサに抱きしめられると本当に彼女は自分を心配してくれて

いたんだとなんとなくだが信じれる理由には...ならない。


「...どうしてかな、ヘリサさん。

ヘリサさんの話の中に僕が生きたいと思える未来は浮かばない...。

想いをぶつける争いはなくてはだめなんだ。

自分の正義を信じて進めばたどり着く先は多く、様々な道がある中の

一つの道を歩むことになる。

なんとかたどり着いても似たような正義を掲げた者達がたくさんいるはず。

そうなった場合どれが本当に正しい正義かぶつかり合う時が必ず

あるはずです。

その時に妥協してしまえば嫌な思いを抱えたまま他人の正義に無理に

合わせなくてはならず、譲ってしまえば自分の正義を信じていなかった

事になり自分の信じてきたモノは時代の流れと共にいつしか僕達の心から

も消えていく。

だから何か起こった場合に何が正しいか思い出すまでに時間がかかり、

何が正しいかを理解している強き者が行動しなければきっと忘れたままだ。

...それはこの世界に住む者達の大半...僕もとある老人に出会うまでは

間違いなくそうだった...。

だからそうなる前から一人一人が自分の信じる正義を敵にも味方にも

伝えるべきなんです、見せるべきなんです。

誰もが他人の正義に納得してしまうほどの信念しか持っていないから

こうなるまでこの世界は何も変わらなかったんだ。

...僕のために生きてくれていた人達の分も僕は僕を必要としてくれる人の

ために生きます...さようなら、ヘリサさん」


アルディアはヘリサへ言うとイリミールのほうへ戻る。

ヘリサはアルディアの後ろ姿を見つめながら拳を強く握っていた。


「...イリミール、ホワイトトゥルーはだめだったよ...」


アルディアが彼女の耳元で言ったのはただそれだけだった。


「...遅すぎよ...もうどうすんのよ...」


彼女は焦ったような顔をしながらも返答すると、






「僕と契約すればいい」


目の前の青年のその言葉に彼女の思考が一瞬止まった。



 仲間の死を何とも思わず嘘をつくような彼女ではなく、

ただ生かそうとしてくれていたその彼女のために彼は今を生きる。


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