もう片方は。
住処を失った竜達は地を揺るがすほどの数となり。
「...あいつらも本能のままこの地から離れようとしているのね...」
イリミールの走っている崖に他の竜達も数多くいて、
久しぶりの太陽の光を浴びながら移動していた。
(あのガキんちょの骨ぐらいは拾っといてやるわ、せめてもの情けよ...)
そしてイリミールは振り返った。
「なんだか北のほうからどんどん暗くなってくけど、今はまだ昼ぐらい...
だよね...?イリミール...?」
その時アルディア達はどこかの草原にいた。
「...嫌な空気...休憩はもう十分。さっさと行くわ」
アルディアの言葉にイリミールも北を見ると確かに暗くなっていて、
そう呟くと身をかがめ、背にアルディアを乗せた。
「...」
イリミールの様子にアルディアも気付く。
「...あのじじいの加護を使うけどこれは怖いものとかじゃないから
ビビんないでよね!」
アルディアへ話すとイリミールは何かを唱える。
「...これは...!トーダスのと同じ!」
エルヴィスタ戦の時にアルディアはアスルペの毒からトーダスに加護で
守ってもらった事がある。
その時に自分の体をうっすらと何らかの模様の入ったものが包んだのだが、
イリミールの加護はそれと全く同じだった。
「...トーダス...?あんた、彼と会ったの...?」
イリミールは驚いた様子で動きを止め、アルディアを見つめる。
「いや、トーダスもホワイトトゥルーの竜だから!」
アルディアは普通にそう言うも、その言葉にイリミールはもはや
怒っているように見えた。
「あんた、ホワイトトゥルーの意味を分かって言ってるの...!?
...だとしても何で生きてるの...?
もう頭が痛い、けど今は時間がないからあとでゆっくり聞かせなさい!」
イリミールは勢いよく飛び立ち、アルディアは一瞬落ちそうになった。
(...あれ...怒ってる?
ホワイトトゥルーは唯一王家に抗っている勇気ある騎士団。
そのリーダーであるヘリサさんやトーダス、グレムさん達だって
僕の誇れる仲間だ!)
アルディアはその想いを今も大事にしていた。
「...眩しい...あんた、しっかり掴まりなさい!落ちる...」
突然イリミールはフラつき、少しずつ地へ急降下して行く。
(体が重くて...焼けそうなぐらい熱い!あたいの翼も加護もなんで...)
何故か自分の翼の制御もできない、それは突如真下から出てきた輝く柱を
見てしまってからのことだ。
「イリミール!あれは...」
アルディアはその輝くものを見ようとする。
「見るな!!!」
自分はあれを見たら体がおかしくなった。
ならばアルディアにも悪影響を及ぼすであろうということにすぐに気付いた。
そのまま崖のほう、その奥の森のほうに落ちていこうとしていたが、
「...イリミール...!」
アルディアはバランスを崩し、彼女の背から落ちてしまった。
「ガキんちょー...!」
アルディアを助けようとしたかったはずだ。
だがそれでも体は言うことを聞かずに落ちていく。
イリミールの瞳には崖の左側にある大きな滝にアルディアが落ちていくのが
見えた。
「...滝壺からうまく出られれば...。
それよりもあたいだって大変なんだから...!」
イリミールは顔を正面に向けると目の前には尖った石、鋭い石も多い
崖の頂上で、このまま落ちれば間違いなく彼女の肉体には多くの傷が
つくであろうと予想がつく。
(...外側の傷なんて時間が経てば治るわー...)
だが体が言う事を聞かず、重く、今焼けるような痛みに襲われていた彼女には
擦り傷がつこうとなんとでもなかった。
そしてついに彼女の肉体は地を擦り、下腹部は切れて多少血が出ていた。
「...体内の血が...破裂しているみたい...に熱くて...痛い...」
イリミールは立ち上がる事ができなかった。
それは腹の擦り傷によるものではなく、理由の分からない痛みによる
ものだ。
「...ごめんよ、ガキんちょ...神の血を受け継いでいようと所詮
こんなもん...生きていれば痛みを感じるん...だわ」
そのままイリミールは気を失ってしまった。
目が覚めるとどこか洞窟の中にいた。
「...痛みは消えてる...けど重いわー...」
そう呟きながら辺りを見回し、驚愕した。
「イリミールさん!ご無事でっか!わてら倒れてるの見つけて
心配でここまで運んだんどすえ!」
その洞窟もアイアス達の時同様、竜達の避難所のようになっていた。
おそらくあの輝く柱から逃げてきたのであろう。
だがアイアス達の洞窟よりは小さく、湧き水もない。
「...あんた達はあたいと同じアースドラゴンやグリーンドラゴンね...
よく生きてたわね!」
その竜達はアースドラゴンとグリーンドラゴン。
一部の神龍達が率いる竜には2種存在し、たとえばグラウンド・アースが
率いている竜達の中のアースドラゴンというのは神であるアースの血を
継いでいる正統な神龍の直系であり加護が使え、大柄でずっしりとしており、
力も生命力も強く、肉体による突進もかなりの威力だろうが主にトーダスの
ように草木や土から周囲の情報を得たり蔦や木々を攻撃手段にしていて、
永い時を生きれるがその存在自体は少ない。
そして永い時を生き、人と契約や誓いを成しえれば龍へなる事も可能な存在で
まだ登場はしていないが緑癒のドライズが代表例だ。
グリーンドラゴン。
それは神により命を創られた竜達でアースの血を継いでいるわけではなく
人と比べると人の足から腰までしかないほど小柄で、加護はなく、
アースドラゴンには劣り、好戦的でもないが傷付いた人、竜問わず
アースから授かった大地の力で回復させたり、癒すのが得意な数多くいる
竜達だ。
寿命は100年程で永くは生きる事ができず、人と契約や誓いを成しえても
龍にはなれない。
ちなみにイリミールは既にアースの孫だと判明されているが、トーダスも
大きさや加護を使っていた場面がありアースの血は継いでるとこれでほぼ
確定してもいいだろう。
「...イリミールさんがずっと起きなくてわてら心配で心配で...
もしそのまま亡くなってしまったらアース様に顔向けできんさかい...
ずっと見守ってたんでっせ!」
さっきからイリミールに返答している竜は1体の雄のグリーンドラゴンだ。
「...あ!糞じじいも心配だけど...ガキんちょ!...あなた達、
これはあたいからの命令よ、滝近くで人間の男を探しなさい!
まだ若く、ひょろひょろしてる奴よ!」
その言葉に周囲の竜達、50体程は困った様子で顔を見合わせる。
「...そ、それがイリミールさんをここに連れて2週間ほど
経つんですが...あの奇妙な棒が消えたと喜んで外に出た仲間達は
皆1時間程で死んでしまって...まだわてらもこわーい!」
奇妙な棒とはあの輝く柱の事でだろう。
目の前の竜は突然オネエ口調で言うも周りはしらける。
「雄のくせに...きもっ!きもきもきもきもきっもーーーお!!!
...にしてもあれから2週間...ガキんちょが死んでなければいいけど...」
イリミールは多少体は重いが翼を動かしてみる。
「...まだ外には出ないほうがいいわ、あたいが許可するまで
禁止、分かったわね」
本当は今すぐにでもこの洞窟を抜け出し、アルディアを探したい。
だが洞窟内では間違いなくイリミールがリーダーだ。
ならば自分を慕う竜達を死ぬ危険があると分かっていながら外には
出せなかった。
「...イリミールさん、朝でっせ」
そして約2週間後、時々何かが崩れる音や倒れる音がする程度で
洞窟の中は安全で、擦り傷はもう完全に完治していた。
イリミールが体を起こすと洞窟の入り口には奥からでも見えるぐらいに光が
差し込んでいてそれは竜達に期待を抱かせた。
皆、腹を空かせていてやせ細っている竜もいれば、奥のほうで餓死している
竜もいて約50体いた竜のうち生き残っているのは半分である25体
程。
「おはよー、あたいが先に確かめるわ」
竜達へ言い、洞窟の出口へ近付く。
近付くにつれて光は増し、空気はおいしく、風が心地よかった。
出口付近の草木は焦げておらず光に照らされ、風により華麗な踊りを
見せているようにイリミールの目には映り、周りには倒れている木々が
多少あるくらいで付近も安全だ。
「...ここの大地は負けずに今日も力強く生きようとしている、
ありがとう。
それだけであたいは十分...。
...あんた達、あたいはもうここにはもう戻らない、あんた達も今すぐ
この大陸から離れて違う住処を見つけておいたほうがいい。
あたいはガキんちょを助けたらグアースド大陸へ行く!
行く場所がないなら来なさい、きっと糞じじいも生きてそこに向かうはず」
竜達へ言い告げるとイリミールは駆け出す。
今はまだ体が重く、飛ぶと落ちてしまうと考えた彼女はその四肢で
アルディアの元まで向かっていたのだ。
グアースド大陸。
それはクルーシア、エルヴィスタ、イリミルの森、迷いの砂漠、サリーシャ
などがあるこのウォアータス大陸から多少南にあり、レイディアの地図上で
は中心で、ちなみにウォアータス大陸はレイディアの地図上では最北端だ。
そして、ついにイリミールは滝から多少流されたであろう場所で
一人の倒れている青年を見つけ、スピードを上げて近付こうとするも
1体の竜が舞い降りてきた。
そしてイリミールよりも先にその青年へ近付こうとするその姿には見覚えが
ある。
(...従兄の...トーダス...!?)
その背に乗っていた女性は降りるとアルディアの頬を撫で、
それを見たイリミールは尾を振り回し、牙を剥き出しに威嚇しようと
していた。
イリミールと彼はどういう関係なのか。
そしてトーダスの背から降りた女性...それは彼と契約している
あの彼女以外考えられなかった。




