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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
始まりは希望と絶望から
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二人の運命。






 「クライ...バショ...。タス...ケテ...」






 夢から目が覚めると天井が見え、ベッドの上にいた。

その声はどこか暗い場所で光を放っていた気がしたが、どこか懐かしい。

それにしてもどうしてここにいるのか...昨夜の事が思い出せない。

ベッドの近くにあるテーブルの上には2つのコップが置いてあり、

つい数分前に人がいたかのような雰囲気だ。

おそらく誰かに助けられたのであろう。


「借りを作ってしまったようね...この家のご主人様が戻ってきたら

何かお手伝いでもできればいいのだけれど」


少々子供っぽいイアにもそれなりに礼儀は整っているようだ。

こう言ってしまうと彼女から30分ほどお説教されそうだが、

その程度のイメージしか沸かないほどまだイア・ネイラーデという

この少女には謎が多いままだ。




 10分ほど椅子に座りながら待っていたが誰も来る気配はない。

 窓から外を見ると太陽が昇っていて、棚には多くの本が綺麗に並べてあり、

読みながら待つことにした。


 本の多くは神話や伝承にまつわるものが多かった。

こういう類はイアも好む。

本の持ち主とは趣味が合う気がした。


 すると、急に肉を詰め込んだ袋を両手いっぱいに抱えながら一人の女性が

血だらけで家に入ってくる。


「起きたのね、おはよう。私はアルマ。

かすり傷をしてたみたいだから消毒して、軽い手当てだけしといたわ。

大した振る舞いはできないけど疲れてるのなら気が済むまでここにいて

いいのよ、大人しい男の子も一緒でよければだけどね」


そう優しい笑顔を見せた。


「ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません。

手当てまでしていただきご厚意に感謝します。

何かお手伝いできることあれば何なりと使ってやってください」


それに対し、アルマは新しいコップを用意すると飲み物を注ぎながら、


「手伝いなんてしなくていいのよ?傷だらけで意識のない人を助けただけで

貸し借りなんて私は作らないわ。好意だと思って受け取っておきなさい。

飲み物どうぞ、そういえば気になったのだけれど...どうして木に

拘束されていたのか聞いてもいいかしら?」


そうコップを渡しながら言った。

イアは心が温かくなるのを感じ、偉大な言葉を頂いた気がした。

アルマは親切で助けた事に貸し借りなんて必要ないとそう言ってみせた。

そう言える大人はどれほどいるのか...。


「イアは生きる理由を探し求め、旅をしているイア・ネイラーデという

無力な女です。

昨夜は近くの湖で休息していたところを数名の男女に襲われ、

隙をみせてしまった結果がお恥ずかしい話ですがあのような

姿で拘束される事に至りました」


イアは顔を赤らめながら話す。


「戦いの最中に隙を見せるのはだめよ...そうなる理由もあったようね。

...荷物は盗まれた?青いフードをかぶっていなかった?」


アルマは鋭かった。

何か心当たりがあるように話し、当てる。


「リュックをいつも背負っているのですが...持ち去られてしまいました。

青いフードで顔を覆っていました、一人の女を除いては」


それを聞いたアルマの表情が一瞬険しくなったのをイアは見逃さなかった。


「せっかくのご縁ですし、もっとあなたの事が知りたいわ。

雑談でもしましょうか!若い人と話すのは私も久しぶりだから嬉しいわ」




 それから夕方まで女達の賑やかな雑談が続き、月が見え始めてきた頃、

一人の青年の声が家に入ってきた。


「ただいま、母さん。おっと...昨日の少女か、こんにちわ」


イアはキョトンとした顔のまま、会釈した。


「僕の名はアルディア・ライド」


青年はそう名乗り、助けられたこの家はアルディア達のものであった。


「アルディア、大長老様にイアさんの事紹介してきなさい。

久々の客人って何かご馳走してくれるかもしれないし、

私達は貧しいから食事もお口に合わないかもしれないから。

...憎い相手でも今はあの人の家のほうが何もしらないイアさんに

とっては広い一人部屋もあって、一番いい選択肢だと思うわ。

せっかくだからあなたも部屋が空いていたら泊まってきなさい。

ただ一つだけ約束して、

『早朝には必ずあなたがイアさんの部屋に迎えに上がりなさい』


母はアルディアを近くで招き寄せ、耳元でそう言うと一つの約束をつきつけた。

イアはどうしたらいいか、アルディアのほうをチラッと見る。


「んじゃひとまずこの村の大長老様に挨拶にいこうか」


アルディアは手招きし、イアと家を出る。




 大長老の家に向かう途中、イアが口を開く、


「この村はのどかでいいですね」


話題に困っていたアルディアに気付いたのか、彼女は周りを

見渡しながら言った。


「今は平和だね、昔は荒れてたみたいだけど...」


 初めて自分に話しかけてくれる存在にアルディアは内心感謝するも、

自分の素性を知らないからであり、彼女も素性を知ったらきっと

離れていくと疑ってもいた。


「今は...ですか。

何があったかイアは部外者なのでそこまで聞かない事にします。

お母様は優しくて、いい方ですね」


彼女は意外と礼儀がある。それを忘れてはいけない。


「母さんは偉大で強い心だと思った。だから弱さも見抜けなかった...」


アルディアは微かに悔しそうな顔を浮かべる。

何かあったのだろうかとイアは思ったが、彼女は問わない。


「人は誰しも弱い面はあるんです、あっていいんです。

それを一番身近な人が支えてあげればいいんです。

弱い面を誰も助けてくれなきゃ、心のない生ける屍にでもなってしまいますよ。

あ、イアは強い子ですよ?強い面しかないので1人でも生きていけます」


そう言ったイアにアルディアは笑みを見せた。

それから間もなくして、


「着いた」


集落の奥深くまで進むと目の前には森の中の集落の中で唯一2階のある、

それなりに広い家があった。


「大長老様ーいますかー?」




 返答はない。

この家は10部屋程、客人用の部屋があるのだがそれを除いても広く、門の鍵は

開いている。

 家の玄関より右側には小さな小屋のようなものが建っていて、小さな窓からは

明かりが見え、中に大長老様はいるか、物音を確認しようとドアに耳を澄ませる。

さりげなくイアもアルディアの真似をしてドアに耳を押し付けた。






「...今日の深夜、あの忌々しいライド家に火を放ち、槍を突き刺せ。

わしはすぐさま大長老として助けにいくふりをして、

一家を森の深くへ連れ出す...あとは貴様らの仕事じゃ。

女、子供がどうした...あの血はわしらには不要じゃ。

一族を裏切った者の血、家族など...なんと汚らわしい...。

子を守る親は必死に命乞いするじゃろう...楽しみじゃ、あのアルマの

命乞いほど笑える事などないわな。

じゃがあの家系は龍を扱う...それが今まであの女を処刑できなかった

理由じゃ。竜ならまだしも、龍の怒りなぞ食らったらわしらは集落

もろとも凍死させられてしまうわ。

それに対抗すべく協力者を集落に住まう全ての一族から集めろ。

逆らった者は処刑じゃ、いいな」




 気付けるものはいつも僅かで、気付いた時にはすでに遅し。


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