先人達の。
恐れを無くさねば未来は変わらないと。
(...イア様...)
ダモスはあの部屋に踏み込む。
忠誠を誓った少女が、少女ではなかったのか。
それともあの憎い女の嘘なのか。
その答えはあの部屋のモノを知らねば分かるはずもない。
「王家の血は神から頂いた物により独自の進化を遂げたのだ。
イアはまだ未成年ゆえにこの状態だが我や他の王達はそれを取り込み、
使い方も理解している、貴様の目にはその生き物が何に見える?
イアに忠誠を誓っているというなら当然受け入れられるのであろうな?」
メドリエはダモスの耳元で呟く。
ダモスの視線の先のイアはどうなっているのか...それはダモスでさえ
言葉に詰まるものであった。
「...どんなに姿が変わろうとわたしはイア様を救う!
わたしの心は常に主のものだ!!!」
メドリエを払いのけるとダモスは叫ぶが、周りのクルーシア兵の視線が
深く刺さる。
それは間違いなくダモスへの疑いの目だった。
「...なら貴様はずっとライド家の元でもイアのそばにいたはずじゃ。
それでも気付かなかったのか?
そんな貴様にあれを救えると...!?
口ではいくらでも言えるがはたしてどう行動する?
ここはクルーシア、周りは雷柵が囲んでいて飛ばない限り逃げられないが
な!」
メドリエは大袈裟に言い放つと大きな声で笑い、数名を除いて他の
クルーシア兵達も馬鹿にしたような目でダモスを見ながら笑い始める。
(...くっ!)
ダモスに今できることは何もなく、噛みしめながら抗いの瞳を周りの
者達へぶつけるしかなかった。
「...メドーリエ様ー!大変ーでござーいます!!!」
突然独特の声が聞こえ、今いる部屋の扉のほうをその場にいる全員が
見る。
そこには一人の老人が気持ち悪い笑みを浮かべながら立っていた。
「...これーは、これーは、あなたがー闘将ーダモース様ですーね?
っとそれよーりもメドーリエ様!何百匹ーもの竜達-がここ目指しーて
向かってーきているーらしいですー!!!」
その老人はダモスの前を横切り、メドリエのそばまで来て話した。
(...どっか違う大陸の訛りか...?)
ダモスはその話し方が気になるも、それよりも頭皮や姿に目がいった。
「...貴様、これを狙っていたのか?
竜が助けに来ると分かってわざわざ捕まったと、残念だがもうただの竜など
怖くもない!!!」
突然のメドリエの叫びにダモスは我に返る。
その叫びにより部屋の明かり、電気が消え、その部屋の機械の動きさえ止まると
老人以外のクルーシア兵は足早に部屋から出て行った。
(...竜...?アスルペ様とヘリサさんの竜しかわたしは知らないが...
トーダス君がヘリサさんや皆を助けるために来るついでにアスルペ様も竜を
引き連れて来てくれたのか...!?)
ダモスは考えながらふと思う。
明らかに目の前の女が危険な状態であった。
その目は充血していて、息が荒い。
「...少し前にも攻められたのだが...調子乗った竜共め。
ヨゲス様、その男を拷問部屋に入れて看守のギルを探しといてくれると
助かります。
我はクライズやフェディオ様達と力で生意気な竜達を懲らしめねばなりません」
老人へそう告げるとメドリエも足早に部屋から出て行った。
すると突然視線を感じ、老人のほうを見ると目が合う。
「...何ですか...?」
ダモスは不気味なその老人へ問う。
「うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!」
突然ダモスの顔すれすれまで近付き、奇声のような叫びを放つとダモスの
視界が揺らぎ、ふらつく。
「ヒーヒーヒーヒーヒーーーーーーーーーーー!!!!!」
話が通じないのかとダモスは疑問を浮かべるもそれは老人の笑い声だと
そう気付いた瞬間ダモスの意識は途切れた。
「...君は...?」
場面が変わると農家の牧柵付近にアルディアはいた。
「...いつまで経っても糞ガキなのね!!!本当呆れちゃう!!!」
その女性の声を放っている者は間違いなく目の前にいる竜である。
「...あんたがくよくよしてるからどんどん世界は悪い方向へ
進んでしまって、それはもう救えないほどよ!?
あんたがくよくよして嘆いていた数日間はあなたを守ろうと必死に抗って
散っていった仲間達の数日間だったの!!!
分かる...!?
起きてしまったことはどんなに振り返ってもやり直すことはできないの!
過去を振り返る余裕があったのならその時間を少しでも未来のための行動に
費やせばよかったのよ...!」
突然見知らぬ竜に怒られ、アルディアはポカーンと口を開けていた。
「...どう生きていいか分からなかった...何をしたらいいか分からなかった。
ただの寂しさで本当に死ぬ気なんてなかったんだっておじいさんの言葉で
やっと気付いて...何年無駄に生きてきたか分からない、けどこれからの
人生は僕を必要としてくれる人のために生きたいと初めてそう思えた...。
...本当はもう揺らぎたくないって何度も思っても何かあるたびに
揺らいでしまって...弱い自分が大嫌いで嫌になる...」
アルディアは老人の家のほうを見ながら話すも涙を堪えてるのはすぐに
竜も気付く。
「...別にいいんじゃない、揺らいでしまっても。
どんなに強くても心なんて脆いから揺ぎそうになる人は数多くいるけど
それは支えてくれる人がいるから強くいれるの。
けどあんたはグ...あ、あのじじいに拾われるまで一人だったから...
そりゃ親や仲間に死んでくれなんて言われたらあたいだってそんなん泣くわ!
号泣するわ!死にたくなるわ!
だったら必要としてくれる人や求めてくれる人を見つければいいだけじゃない。
あんたにも声はあるでしょ...必要としてる奴らがどれほどいると思ってんのよ。
けど今の時代、ライド家を匿うのは竜であれ人であれ王家によって罪とされて
殺されてしまうからただ名乗り出れないだけで、あんたが力をつければ
王家に一緒に抗おうとしてくれる奴らが間違いなくそこら中にいる。
だってリーダーが雑魚じゃあたいでも嫌だわ!逃げたくなるわ!
見捨てたくなるわ!
今のあんたに命を託しても一瞬で王家に灰にされてたまったもんじゃない。
自分の弱さを理解しているあんた自身、それは一番よく理解しているはず。
ましてや人なんて他人の真似ばっかで自分から事を起こせるのなんてあんたら
騎士兵達しかいないでしょ、それに比べて竜は氷竜達も王家に攻めに行ったって
話聞いたし真似事なんてしないうえに結果に求めるものが真似事しかできない
連中とは違うの!
お願いだから数や力でねじ伏せてそれを勝利だという王家の糞共みたいには
ならないでね?
とりあえずまずはじじいに言われた通りあんたをこの地から遠ざけるわ!
仕方ないからあたいの背に乗せてやるけどはしゃいだり、発情しないでよね!
あ、そういえばあたいの名はイリミールよ、ぼさっとしてないで早く
乗りなさい!」
あの出来事以来、老人に拾われるまで一人だったアルディアには
当たり前の出来事でしかなく、支える者もいない今心が揺らいでいまうのは
仕方のないことだった。
「いかにもイリミルの森に棲んでそうな名前だね?」
アルディアが背に乗り、竜は羽ばたき始める。
翼を持っているということはトーダスと同等の位の竜だと思われ、
花びらのような線の細い肉体が白と黄緑色、薄いピンクで妖精のように綺麗だ。
その背でアルディアは笑いながら話した。
(...当たり前じゃない、あんたは昔のことを忘れてしまったの?
あたいのじいちゃんは神龍グラウンド・アースでイリミルの森の
あの1本の木はパパの肉体の一部だったのよ...?)
イリミールの想い...それはアルディアとの「あの頃」に詰まっていた。