あなたのため。
起こってほしくない事ばかり起きてしまう人生に。
「...紅眼のシャーダクを王家の者が引き連れていたと...?
そんなことはあるはずがない!だってあんちゃん、そしたら今もこの世
のどこかで一体の罪龍が既に復活を果たしているということだぞ...?」
老人は椅子に座りながら真剣な表情だ。
「罪龍も何も...僕は分かんないですよ!
だからどうしろと?僕に止めろというんですか!?」
アルディアはソファーで仰向けになりながら声を荒げる。
「...あんちゃんに止めろとは...。
違うが、すまん...言葉を間違えたな...」
老人は謝ると両肘をテーブルにつけ、顔を両手で覆った。
「いつもいつも母さんの子だからって何もかも押し付けられますが
迷惑なんですよ...罪龍を止めろとか何しろ、あーしろとか全部
強い母さん達やアスルペにでもお願いするといいですよ!!!」
よほどイライラしてるのか、アルディアは今までにないぐらいの声を
老人へ放つが何か様子がおかしい。
老人は目を見開き、口をうっすら開けながら疑問を浮かべた表情で
こちらを見つめていた。
「...あ、あんちゃん今何て言った...?アスルペだと...?
人間の友達か...?まさか幻龍ではないよな!?」
老人は突如立ち上がるとアルディアの胸ぐらを掴み、険しい表情で
問う。
「...え、ちょ!急になんですか...!アスルペ・テミルスですよ」
アルディアは嫌そうな顔をしながらも返答した。
「...なんてこった...!こんなことなら拾うんじゃなかった...。
あんちゃん、あれな...あれだ、殺すとか勝手に死ねとか言ったが
あれは無効な?いいか?もう無効だからな?
...で、お前さんは何の使命を授かったんだ...?」
老人はアルディアを放し、言い終えるとアルディアのほうを見る。
だがアルディアの耳に老人の最後の言葉は届いてなかった。
「...無効...ですか...?
なら出ていきます、今までお世話になりました。
さようなら」
そう言うと立ち上がり、ドアへ向かう。
だが老人はいち早くドアに寄りかかり、
「...だめだ、行かせん」
と瞳を閉じ、言った。
「...どいてください!」
目の前の老人へ言い、その体をどけようとした瞬間、
ドンドン
と突然老人の寄りかかっていたドアから音がしてアルディアと老人は
少々驚くも、
「こんばんはー!少々お時間頂けないでしょうかー?
ご老人様ー、いるのは分かってるんですよ!」
と突然30代ぐらいの叫び声が聞こえた。
「...お前さんの知り合いか?」
老人は小声でアルディアへ問うもアルディアは首を横に振る。
「こんばんはー、どこのもんかも名乗って頂けないのですか?
最近物騒で怖いのにこんな年寄りに何用ですかなー?」
老人はアルディアを部屋の中心へ行かせ、その声へ返答する。
「...失礼致しました!わたし達はクルーシアの者ですが最近あった
戦いにより罪人の生き残りが逃げたと報告を受け、近辺の調査を今日から
始めたのですが、あなたの畑で若い男と一緒に耕しているのを近くの
女性が教えてくれましてね...30秒ほどでいいのでお家の中を
調べさせて頂きたいのですよ!本当にそれが終わったらすぐさま
立ち去り、ご迷惑はおかけしませんと約束致します!
...ただ裏口や煙突から逃げようとしてもこの家の周りは既に仲間と囲んで
いるので馬鹿な真似はしないようお願いしたい、わたし達も無駄に
人を殺めるようなことはしたくないので!」
クルーシアの名に老人は嫌そうな表情を浮かべ、
「そうでしたかー、では少々お待ちくだされ。
孫が今お風呂に入っているもので連れてきますのでどうか手荒い真似だけ
はご勘弁をー」
老人はいかにも年寄りっぽくドアの奥にいる者へ叫ぶとこっそり鍵をかけ、
アルディアのほうへ近付いてくる。
「...あ、僕出ていきますんで芝居とかしないほういいですよ。
そしたらすぐに死ねますし」
と言い、アルディアはドアのほうへ向かうも右腕を掴まれる。
「...何があっても行かせん。
実際本当に死ぬ気があれば俺の隙を見て舌を噛み切ったり、ナイフや
包丁で自殺なんぞ出来たはずだ。
だが死に方さえ選ぶのはあの糞共と同じでそんな死に方は絶対させん。
あんちゃんのそれはただの寂しさや哀しさで心が閉ざされた状態だ。
...必要としていた人に必要とされなくなるのは辛いよな...」
老人は何かに気付いたようにアルディアを見るとアルディアも
ハッと何かを忘れていたような感覚を覚える。
「お前さんが正しいと思ってきた生き方はそれはお前さんにとっての
正義であり、譲れないものだから自信を持っていい。
だがな、その中で気付かないうちに相手を傷つけてしまったり、
気付かないうちに迷惑をかけてしまうことだって生きていれば
そんなのは何回もあるんだ...そして相手だってお前の見えないところで
違う人に気付かないうちに迷惑をかけたり、傷つけてしまっている。
本当にお前さんを必要としている人物はわざわざお前さんにしつこく
死んでくれとか邪魔だとかは言わないはずだ。
だってお互い様だろ?そういうのは仕方ない事なんだしよ。
ただお前さんの正義を悪く思うような奴らやただ生きてるだけなのに
命さえ狙ってくるやつらもたくさんいるのも現実だ...でもお前さんを
必要とするであろう者達も数多くいれば、これから先お前さんが生きること
で間違いなく増えてくると俺は断言できる。
...世界は広い、お前のその小さな目に映っていないだけだ。
俺のだちにもお前さんが生きてるって事喜んでる奴らが何人もいるぜ?
それに武器の扱いもあやふやなまま戦えばそんなの弱くて当たり前よ。
練習する時間があれば真面目なお前さんはきっちり覚えるまで練習
してただろ?
俺は分かるぞ、ただ経験と時間が足りな過ぎたんだ。
初戦で何百人も倒せる奴なんていな...あ、アルマぐらいしかいないんだ
からお前はお前なりの正義を貫いた結果がこの現状でも俺はそれが立派だと
思う。
だって弱いのに逃げずに大軍に抵抗したんだ、かっこいいだろうが。
諦めずに背を見せなかったお前さんは弱いんじゃない、分かったか?
それにお前さんの見たアルマやアイアスを俺は信じない。
アルマはお前が生まれるのをどれほど喜んでいたか知ってるか?
何回もここに来てずっと話相手をしてやったり、腹パンパンにしながら
サリーシャまで行ってアイアスと一緒に氷竜共に自慢してたって言うぜ?
そんな人がお前に死んでくれなんて言わないと俺が会ったアイアスや
アルマとの少しの時間でも俺にそう信じさせるには十分すぎる」
老人の言葉は優しくアルディアの心を包み、
「クルーシア兵さん、お待たせしてしまい申し訳ないのう。
今孫が来るのでわしも外へ出ますわ」
と言うと老人はテーブルの上に置いてあった水晶のような物に
何か呟くが小さな声でアルディアには聞こえず、
言い終えてアルディアのほうを見ると、
「...今から少しの間奴らが怯むはずだ、その間にここからなるべく
遠くへ走れ!
後ろを振り向かずに前だけ見て走るんだぞ!」
アルディアは涙を堪えながら聞くも、老人はどうするのかと
疑問な表情を浮かべる。
「俺の事心配してんのか?大丈夫だ、俺は。
にしてもいい顔になったな...生き返った顔をしてるよ。
お前さんが生きていることが希望な奴らだっていんだ、だからよ...
もしあんちゃんが過去に囚われたり、大きな事を成しえなきゃいけない
って思って生きる理由を見失ったってんならお前さんを必要としてくれる
人のために生きてやればいいじゃねえか。
それ以上にかっこいい理由なんてそうそう見つかんねえぜ?
...それがそいつらにとっての生きる理由にも、希望にもなる。
だからそいつらと出会うために今を生き抜き、未来を共に創ってけ」
そう言いながら老人はドアを開け、出て行く。
すると、
バリバリバリバリバリバリーーーーーーーーーーーッ!!!!!
と轟音が屋内に響き、家が崩れ始める。
一目散にアルディアは裏の隙間から脱出し、走り始めるとクルーシア兵は
アルディアの向かう方向と逆側を見つめていた。
だが気になるも数人はついてきていて、老人と約束した以上今は後ろを
振り向けなかった。
ある程度距離の離れた農家の牧柵のようなところまでたどり着き、
逃げ切れたか確認しようと後ろを振り向く。
3人ほど後をついてきていたが、それよりも奥の老人の家があった場所で
クルーシア兵を威嚇している巨大な1体の龍がアルディアの目に映ってしまう。
すると突然、
「早く来なさい!糞ガキが!」
と女性に呼ばれた気がした。
アルディアの見た1体の巨龍、そして謎の女性は一体...。