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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
災厄のパズル
58/123

価値を勝ちとる。






 彼女が放つ一言の重み。






 「...うー...」


うっすらと目を開くと視界が揺れている。

目の前には青い光景、そして雲が見えた。


「...ここは...どこ?」


彼女は体を起こそうとすると、


「目覚めたか、騎士兵の女。

だがへたに動くと地に落ちるから今はじっとして休んでいなさい」


周囲を見渡すと間違いなく空を飛んでいて、彼女は龍の背に乗っていた。

その龍はかなりの巨体で首元には黒いフードをかぶった人物が

座っていた。


「...あ、助けてもらったこと深く感謝致します。

ですが私はライド家の希望であるアルディア様を支える騎士兵の女です、

身分さえ分からない者には従えません」


彼女はサクリであった。

腕や太ももに深い傷跡は残ってはいるがすでに処置はしてあるように

みえる。


「我らがクルーシア兵と名乗ったらお前はここから落ちるのか?

実際今は王都クルーシアへ向かっているのだしな」


ふとあることに気付く。

それはその龍が話し、笑っていることにだ。

サクリは竜言の愛を授かってはいない、なのに聞こえるのはアスルペと

同様に目の前で話している龍も特別な存在だと。


「頭の整理が追いつかない...まずあなたは何故話せるのですか?

アスルペ様の友達かなんですか?」


サクリの問いを聞いた龍は一瞬目を見開く。


「...今なんて言った...?アスルペとは、まさかとは思うが幻龍

アスルペ様のことではあるまいな?」


その龍の返答にサクリも目を見開く。


「...いや、えっと...その、幻龍アスルペ様のことで間違いないかと

思います」


サクリは何故目の前の龍がアスルペを知っているのか疑問で、


(...アスルペ様は名の知れた龍だから知っていてもおかしくはないの

かな...?)


と考え込む。

飛びながらも龍の長い首が振り返り、サクリの様子を見ている。


「いくらライドの血を引く騎士兵でもお前らはアルマ達とは違う

分家なはず。

どこでアスルペ様の名を知った?

最近の若いライド家は龍の勉強までするようになったのか?

アスルペ様を知っているのはアルマやレイコ達直系のライド家だけ。

だが今皆もう死んでしまっていて教える者もいないだろう?」


龍はサクリへ問い続け、サクリは自分がライド家だと知っている発言に

警戒するもアルマの名が出てきた事に驚愕する。


「...その前にまずどうしてあなたがアスルペ様やアルマ様の名を

知っているんですか?ならばアルディア様のこともご存じなのでは...?

そして何故クルーシアへ向かっているか答えてください。

私は元々アルディア様を隠し、生かせるためにならこの命喜んで捨てる気で

いました...だからあなた方がクルーシア兵で私を捕らえて帰る気ならば

この空から落ちて死ぬ事なんて少しも怖くないですから!!!!!」


サクリのアルディア様との発言にフードの人物の全身が一瞬ピクリと反応し、

目の前の龍達が何者か、そして自分にとっての敵か、知るために

彼女は声を荒げた。


「...大人しそうな見た目の割に心の奥には決して揺るがないモノが

灯っているようだな。

謝ろうか、少々意地悪しすぎた。

そしてアルマに代わって礼を言おう、アルディアが隠され生きているとは

思わなかった...あとで探しにいこう。

私の名は氷龍アイアス、アスルペ様の名を知っているのなら我の名も

知っていてほしいものだ。

そのフードの人物は....アルマだが今は口がきけず、姿も公にはできん。

森でお前が血だらけになりながら6人ぐらいのクルーシア兵と戦っているの

を見つけて助けたがその直後気を失ってほっとけないから連れていく

ことにした。

余程疲れていたのだろう、一応私の娘達のところで眠らせておいても

よかったが娘は知識が足りず、息子もお前同様倒れていたのを見つけ、

まだ気を失っているだろうからな。

説明できる者が私達しかいなかったのだ」


サクリは全身鳥肌が止まらなかった。

氷龍アイアス、そしてアルマ・ライドが目の前にいることに。

だが先程龍は間違いなくアルマも死んでいるように言った発言が多少

気になったがわざと隠していたのかと捉えた。


「...ぶ、無礼をお、お、お許しくださいいい...!

で...ですがアイ、アイアス様のこ、こともご...ご...ご存じでした!

あ、...わ、私はサ...サク...サクリとも、申します...!」


珍しく彼女は動揺する。


「無礼も何もないだろう、所詮私も一つの命で偉くはない。

私は偉いと自覚し自分を崇める者へ厳しく接したり、人の分際で人の命の

審判も行う愚かな人間共は大嫌いだ。

そういう者達に人の上に立つ資格はないし、それに私はお前に服従を示せ

とは言っていない。

お前が無礼なことをしたくないと思うのは勝手だがそうしたいと思う相手は

お前達騎士兵の隊長が服従を示した唯一の主、アルディア・ライド、ただ一人、

彼だけで十分だ。

他の奴ら、たとえどんな龍であっても力量がどうのこうのって言い訳で

頭を下げたり無礼がどうのこうのっていちいち気にすることはない。

主以外にぺこぺこしてちゃ疲れるよ。

先日の戦いも結果としてはクルーシアに敗れたとはいえ価値があるのは

お前ら騎士兵とアルディアの抗いだ。

あれ以降世間では真似事しかできない連中が『ほら、負けた』『素直に

従っておけばいいものを』だのなんだかんだ文句を言っているがそんな奴ら

は抗おうとさえしないのだからお前らの行動に文句なんて到底口を出せん。

行動さえしない奴らはおのずと口が達者になる、逆に行動する奴らは

何をすべきか理解し、どこに価値があるのか理解しているから無駄口を

言わなくなる。

人数、力量で勝利が決まるのではない、価値が勝ちを決めるのだ」


アイアスは背のサクリの緊張をほぐそうと笑みを浮かべながら

話すが普段クールな彼女は笑うのが苦手らしくひきつっている。

その様子にサクリも多少笑い、落ち着くが何より涙が止まらなかった。

自分の行いは無駄ではなく、バラバラになってしまった仲間の行動も

無駄ではなく意味のあることだと理解してくれている人もいた。

それが名のしれた強き氷龍アイアスならなおさら彼女は自分の行動が

正しいと証明できたことが素直に嬉しかった。


「...ありがと...う、ござ...います...!」


サクリは泣きながらアイアスへ礼を言う。

すると号泣している彼女にフードの人物、アルマがハンカチを渡した。

もう言葉さえ出ずにサクリは頭を下げた。


「ただ簡単に希望とは口に出さないほうがいい。

実際戦い方さえまだ分からない、お坊ちゃまだ。

生きていること、その命自体が希望だと言うのならこの世にもそういう

存在は溢れかえっている。

だがアルディア・ライドのように何かを成さねばならない存在は

そんな溢れかえっている連中の中の1割程度だろう。

そしてその中の9割が希望だと証明できずに命を終わらせていく。

アルディアも今回はお前に助けられたがこのままでは何も成せない。

お前が接してきた中で本当にアルディア・ライドは希望と言えるか?

お前はアルディアに何を見て、何を感じ、何を思った?

アルマでも成せない事をアルディアができるはずもないが

アルマ以上のものをお前の信じる彼は持っていると言えるか?」


アイアスの口調は優しいがどこか儚げな瞳でサクリを見つめながら言った。


「...確かにアルディア様は弱いです。

いつでも殺そうと思えば殺せそうでした。

武器も見様見真似でしか扱えず、貧弱で、泣き虫です...。

ですが唯一アルマ様の持っていないモノがありました。

...それは人を想える心です。

アルマ様はいつもエルヴィスタが襲撃されると助けてくれて、

常に最前線で一緒に戦ってくれました。

弱いところも見せず、怪我をしても必要ないのよと言って、

手当てもせずすぐに家に帰ってしまうんです...だからこそ強いと私は、

いえ...私達は思ってしまった...。

そう思ってしまうと人ってどうしてもアルマ様は手の届かない存在...と

気を遣ってしまって日常で話す機会や身近な仲間のように接することが

できなくなって...私は寂しかった...。

もっとアルマ様を知りたかった...もっと理解してあげたかった...

そしたらイリミルの集落のアルマ様達の家が襲われた時ももしかしたら

アルマ様は私達を頼ってくれたかもしれなくて...そう思うと後悔で

涙が止まらなくなってしまって...。

それでもアルディア様は弱さをも私達に見せてくれました。

あ、それがいいこととは当然思いませんが一緒に成長していける、

一緒に苦楽を共にできる事、それが少なくとも私はすごく嬉しい。

年齢や経験なんて関係ない、そう思ったのは主の行動が私達を救った時

でした。

今回の戦いの前にもエルヴィスタが攻められたのですがアルディア様の

選択によって無駄な命を奪わずに本当の悪だけを逃さず、倒せたんです。

それがどれほど難しいことか...普通に戦ってしまっては本心がライド家に

ある者まで犠牲にしてしまうことだってある...それでもアルディア様の

行動によって救うことができて、アルディア様は自分で自分の選択が正しい

と証明してみせました。そのおかげもあってか罠の犠牲になった仲間は

いてもぶつかり合って犠牲になってしまう命を最低限減らすことができ、

そしてその証明によってアルディア様は成長していると実感できたり

普段から接していれば楽しいこと、辛いこと、苦しいこと、成長、

その全てを仲間と実感し合える。

それがリーダーであるべき存在に必要なもので、仲間を強く結び、

信じ合えた暁に揺らぐことのない希望となると私は信じています。

それにアルディア様は『騎士兵だから命を懸けるのは間違いだ』

って言ってくれたんです。

騎士兵でも生きるために戦い、助け合う...その言葉が有難くて、

心が温かくなって、アルディア様に仕えたいって思わせてくれるんです」


優しい笑顔で話したサクリにアイアスは何を感じたのか、一度目を閉じる。

そして開くと、


「...クルーシアが見えてきた。

囚われている騎士兵を救うにはお前の協力が必要不可欠なのだが

どうする?」


クルーシアが上空から見える距離でその場に止まるとサクリのほうを

見ながら言った。

ふと思い出す、ブルードとの会話。


(こんなところで泣いてたらアイアス様達を困らせてしまう...

そうよね、ブルード?

待ってて、今から救ってみせるから。

だから...ヘリサ様、グレム達と皆で無事でいて...!

そして生きて会えたら私はきっと泣いちゃうからさ...また男らしい、

ごつい人差し指で拭ってよね)


サクリはその思いを心にしまい、決心する。


「私でお力になれれば是非とも協力させてください!」


強き意思の宿った瞳を目の前の龍へぶつけた。


「さすがだな、サクリ。

だが今回は命を捨てるために来たのではなく、囚われている仲間達を救いに

きただけだ。

助け出せたらすぐにでもここ離れるからそう覚えておけ。

...さてまずは先に私とアルマがクルーシアの正面の門から入ってく、

それからすぐにおそらくクルーシア中騒ぎになり私達の元へ向かってくる

だろう...そして全ての軍や警備兵が周囲に集まったと思ったらその周り

だけ氷で覆って彼らを出れないようにして私達が相手をしておく。

覆ったら合図としてお前の元に少々冷気を送るが凍るほどではないから

安心して門から入り、王城内を調べるといい。

無駄な争いは避け、騎士兵達を救出するだけでいいからな」


アイアスは優しい表情でそう念を押すとサクリは頷く。


「では行こうか」


アイアスは急降下する。

だがその間に何度かサクリを影が包むが飛んでいるアイアス以上に

高い建物があるのかと天を見たサクリの目に入った光景。

それは、






いつのまにか数百匹はいるであろう氷竜の群れがアイアスよりも高い場所

から王都クルーシアめがけて急降下していた。




 出始めた月に照らされ、輝く氷の肉体を持つ竜達の影。

それは既に王都へ宣戦布告しているようだった。


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