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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
災厄のパズル
54/123

行為。






 この世界もたどり着く先は皆同じであっても、全ての人に同じ道は

用意されていない。

全ての場面での一つ一つの選択を正しい答えとするために正義を

貫こうとする人もいれば、たどり着くべき場所に向かう道が闇に

覆われている人も少なからずいるのが現実で、ひと時でもその道を

歩んでしまう事だってその人にとっての正義であり正しい答えなのだ。






 「アルディア様も可哀そうに...本当に嫌な世界だ。

正しい血筋が偽物の血筋により偽物扱いされている...

アルディア様もアルマ様もただ平和に暮らしていただけじゃないか、

もし罪人の末裔だとしても彼らが悪事を働いたわけではない...

命を奪ってなんになるんだ」


ザイスは目を閉じながら妹の前で話していた。


「うんうん、あたしもアルマ様達可哀そうーーー...」


レイラは俯きながら涙が止まらないようだ。


「...こんなんじゃだめだ、もし僕達がこの世界に不満を持っていても

このままでは何も変わらないんだよ。

どんなに不満があったとしても弱いからとか権力がないからって言い訳や

思い込みで妥協している竜達もいれば人達もいる...だがそれは世界の

権力者や力で統治する者達の目には映らない...それどころか周りにいる

仲間達にさえ届かないんだ。

なんでか分かるかい、レイラ?」


ザイスは真剣な表情で妹に問い、それをレイラは真面目に聞いていた。


「誰もめんどくさがったり、臆して意見や不満を伝えないからだ。

声を上げようとすらしないで同志を集めて逆らおうとしているのは

今ではアルディア様やライド家の騎士兵達だけ。

でも悲しいことにまだまだ数が少なく奴らからすればいつでも掃討できる

と思っている、その結果がこうやって意見をしてくる者の命を力や数で

ねじ伏せようとする行為だよ...そして彼らでだめならとますます平凡な

農民や自分に力はないと思い込んでいる者達は抗うことをやめる。

そして逆らう者もいない、張り合ってくる者さえいない、僕達は世界にとって

ただの奴隷同然に生きるしかなくなる。

それを奴らはいい意味で解釈してこの世界に誰もが満足していると思わせて

しまうんだ。

それでも僕にはこの世界を、アルディア様達を救いたいと思う心がある、

ケヴィンには仲間を想いやれる心があって、それについてくる者達がいた...

そして王家の少女には竜である僕の心にさえ響かせてくれる想いのこもった

声があった!

少女にだってあったんだ...なら人にだって、竜にだって相手の心に自分に

とっての大切な想いを、これだけは譲れないって想いを伝える事のできる力は

あるはずだ!それだって個々の持つ強き力といえると僕は思う。

ならそんな力をどうして大事な場面では出さないんだ。

想いや声は何のためにある...こういう時にそれぞれにとっての大事な想いを

伝えあわず、自分の心に封じ込めてしまうから当たり前に自分達にとって

生きたいと思える世界にはならないんだ。

怯えてちゃいけない...一人一人が譲れない信念や覚悟を持って抗って

いくべきだ。

どんどん権力者達の思い通りの世界になっていく、残酷な世界になって

いくのを僕は見過ごす事なんてできない...。

レイラ、お兄ちゃんと声をあげよう...相手の心に想いを届かせる事のできる

声を」


ザイスは妹から何を聞き、それが彼にとってどれほどの事かはまだ

分からないがあの戦場でせっかくケヴィンに助けてもらった仔竜の命が儚く

散ってしまった事を思い出すと、妹へ言った。


「あたしも力になる!お母様達を追うー?」


妹の発言にザイスは笑みを見せると、


「もちろん!」


そう返答するとすぐさま飛び立つ。

それに続いて妹、レイラも兄の後を追って飛んでいった。






 「やあ、ダモス様。ご機嫌はいかがですかい」


場面が変わるとあの拘束部屋のような場所だ。

目の前にはギルという男がいて、ダモスは呼吸が荒い。


「...まだまだ元気はあるはずでしょう?

今日も実験を続けますよ」


ギルはダモスの顔を見ないようにしているのか、ずっと機械のほうを

見ながら話す。


「...ギル...頼む、イア様を探してくれ...」


ダモスは苦しそうに話す。


「...またそれですか!!!もう弟子でもなんでもないんです!

またメドリエ様に忠誠を誓ってくれるのなら...いいですが」


機械から目を離さないギルの言葉が遮られる。


「...分かった、忠誠を誓うと...約束しよう」


その言葉にギルは思わずダモスの顔を見る。

嬉しいのか今にも泣き出しそうだ。


「...ほ、本当ですか!?...メドリエ様のいる前で忠誠を誓えますか!?」


ギルはガラスにへばりつき、ダモスへ問う。


「...約束は破らない...だからイア様を頼む...」


ダモスは涙を見せた。

その涙の意味とは...。


「けどどこか分からないんですよ!!!」


ギルはどこか悲しげな表情で言った。


「...おそらくだが幹部しか知らない、部屋があったはずだ...」


その言葉にギルは目を見開く。


「...あの部屋に入れと...?」


目を見開き、口をポカーンと開けた表情でダモスを見つめていた。


「...入れないのか?」


ダモスの言葉にギルは腹を抱えて笑い出す。


「...あの部屋に少しでも興味を持って入った者達は皆死体となって

見つかってるんですよ!!!

なんでか分かりますかい...!?メドリエ様の雷撃の餌食になるんです!

焼き殺されろとでも言いたいのですかい!?」


声を荒げてダモスへ叫び、近くにあったボタンを押した。

すると、


「...うぅ...呑まれる...わたしはダモス・へデヴフィン...

主はメドリ...違う!!!イア様...」


ダモスは心が乗っ取られるような感覚に襲われる。


「...このロリコンが...イア様まだ20にもなってないはずですよね!?」


ギルは舌打ちをし、馬鹿にするような目でダモスを見た。


「...メドリエ様に忠誠を誓うって言ってたし、これ以上傷つけんのは

やめておきますよ...確かメドリエ様は今城内にいないはずなんで

あの部屋見てきてやりますよ!」


そう言うとギルはその部屋から出て行った。




 「なんだかんだいってあのオッサン強いから使えるんだよなー、

だけどイア様なんて本当にいんのかい...」


ギルは部屋を出て、長い廊下を歩き、階段を下り、地下のような場所に

入っていく。


「...気味悪いな、おっかねえよ...母ちゃん...」


コウモリが多くいたり、蜘蛛の巣に引っかかったりしてギルは

腕をさすりながらおそるおそる近付いていた。


「そこのクルーシア兵よ、どうした」


突然地下に響く声にギルは驚いて大声を上げながら尻餅をつく。


「...誰だ!なんだってんだ、驚かすんじゃないよ!

屁こきそうだったっての...」


ギルはそう言いながら辺りを見渡すと蟹股になり屁をなんとかこらえると

再び歩き出す。


「待て待て、どうしたと聞いているだろう...せっかちだなー」


その声に再び驚くとついに屁が出てしまう。


「ばかやろー!出ちまったよ!お前は誰でどこにいるんだ!」


顔を赤らめながら問う。


「...君からは見えやしないが、君のことは丸見えだ。

だけど別に邪魔する気はなくてね。

ただの暇つぶしに声かけただけさ」


その返答にギルは頭をかしげる。


「意味分かんねえよ、今忙しいんだ。すっかけねえでくれないか」


そう言うと歩くスピードを上げ、その場から離れようとした。


「...僕を無視するということか!!!!!」


その声が聞こえた瞬間ギルの意識は途切れ、倒れた。






「...屁どころか、糞もちびってるじゃん」


沈黙な地下にその声だけが響く。




 それぞれがそれぞれの理由のために。


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