聞かないほうがいいコトも。
老人がアルディアへ手伝わせる「死ぬかもしれない事」とは。
「...にしてもあんちゃんは何で死にたい?」
老人とアルディアは太陽の真下で畑を耕していた。
「僕は生きてはいけない存在だったんです、産まれなければ母さんにも
仲間にも誰にも迷惑かけなくて済んだんです」
アルディアは何でこんな事をさせられなければならないのかという
表情を浮かべながらも手を動かしていた。
「だとしてもあんちゃんの母さんは産まれてきてほしいって望んだはず
だろうが、親に望まれない命なんてあってはならない。
俺も年取ったけどバカ息子の事はいつでも頭の隅にある。
もう何年も帰ってこなければ、あいつは自由人だからこれから帰ってくる
かも分からん...それでもいつだって無事に元気に生きていると思えば、
わしも元気になれる...親とはそういうもんだ。
...おっとー、これから死ぬような奴に話すことじゃなかったな、
失礼ー、失礼」
老人はうっすら笑みを浮かべ、嘲笑うかのような表情でアルディアを見た。
(このおじいさんは一体なんだんだ、これじゃ僕は奴隷じゃないか...
さすがにこんな死に方は嫌だ)
アルディアは手を動かしながらも今している事に疑問を浮かべる。
「死に方さえ選ぼうとしてるのか?...とんだ我儘だな、お前はそれほど
偉いか...罪人の末裔でアルマ・ライドの息子である事がどれほど偉い?
所詮人だろうが!自分を特別扱いしてないか?違うか、あんちゃんの
お仲間が甘く接していたんだな?お前に自分は偉いんだと感じさせる
ように引き立てていたんだろう...一人でも生き抜けない糞餓鬼が
そんなんではクルーシアの糞共と何にも変わらない、味方が増えれば粋がる
世間知らずな生き物、同類だな」
老人の言葉にアルディアは眉間にしわを寄せ始める。
「...そんなことない!粋がってもいないし、それでは嘘つきじゃない
ですか!!!」
アルディアは声を荒げ、老人を見ながら言った。
「...まだ分からないか...?あんちゃんは嘘つきだ、いつだって嘘で
逃れ、嘘で生きてきた。
俺は知ってるぞ、あんちゃんは何故小さい頃から嘘をつ」
老人の会話はすぐさま遮られる。
「やめてください」
アルディアの脳内にトーダスとエルヴィスタで見たアイアスの言葉が
再生される。
だが老人も負けず、
「くのか、それは」
アルディアは顔を手で覆いながら、叫ぶ。
「...やめてください!やめろ、やめろ、やめろ!!!!!」
老人は呆れ顔でアルディアを見つめるが、どこか哀しい表情だ。
「...それがあんちゃんの本性だ。
何を隠している、何を隠すために嘘をつき始めた」
アルディアは顔を覆ったまま地に膝から崩れ落ちる。
覆った手の隙間から滴るものがあった。
(この人はなんなんだ...いかにも小さい頃からの僕を知っている
ような発言をして、一体何なんだよ!!!)
そう思いながら老人のほうを見ると目が合う。
「知っているさ、あんちゃんのことは小さい頃から。
お前の命を望んだのは母であるアルマだけではない、俺もその一人だ」
その発言さえももうアルディアの頭の処理は追いつかない。
「...そんなあんちゃんが死にたいと言っているのならアルマがいない
以上、その命を望んだ俺にも責任がある。
ならば殺すのも自由じゃろう?
だがその前にお前が長年隠し続けてきた「コト」を知る必要がある。
もし死んでからその「コト」が必要になっては遅いから、
それまで死ぬことは許さない、目の届く範囲においておく」
老人は言い終えるとアルディアへ戻るぞと手招きをした。
(...この人は誰なんだ...)
疑問はありながらもアルディアは老人の後をついていく。
「...お兄ちゃん!!!...お兄ちゃん...!!!」
場面が変わるとどこか洞窟の中のようで幼い声が響く。
「...目を覚まして!」
その声に、瞳を開ける。
「...レイラ!!!」
すると彼を呼んでいたのは1体の氷龍で、目を覚ましたのはザイスだ。
ザイスが目を覚ましたのがよほど嬉しかったのか号泣している。
ならば目の前にいるザイスを兄と呼ぶ氷龍は彼の妹であり、その名を
レイラというらしい。
「...僕は...一体、ケヴィン達はどこだ!!!」
ザイスはふと合流したケヴィン達の安否が気になり、涙目の妹へ問う。
「...元々近辺でお母様達とオーパーツを隠せる人目につかないような
場所を探していたんだけど、隣町で休んでいたらエルヴィスタで
ライド家の騎士兵とクルーシア兵達が激戦を繰り広げているって噂が
すぐに耳にはいって、出向いたの!
もしかしたらアルマ様の息子さんもいるんじゃないかって、けど
アルマ様の息子さんはいなくてお兄ちゃんがいたから他の倒れていた
騎士兵達と助けようとしたんだけどちょっと邪魔が入ってお兄ちゃん
以外は助けられなかった...。
それで今お母様達はあたしにお兄ちゃんを任せて、クルーシア兵の根城、
王城へ取り戻しに行ったよ!
お母様達は強いから大丈夫だよ、お兄ちゃんお腹すいた?」
妹の言葉にザイスは一瞬言葉が詰まる。
クルーシアへ向かったと。
アスルペでさえ一苦労したその場所、そしてあの雷撃を放つ女に
母は勝てるか...いや、強さは十分理解しているが、どうしても
何か引っかかるものがあった。
だが妹には心配をかけれないと、話題を変えようとする。
「...お腹は空いていないけど...あ、レイラ!そういえば母上達って
ことはやっぱりアルマ・ライドは生きていたんだね!アルディア様も喜ぶよ」
そう言ったザイスは安心した表情を見せる。
だが、
「お兄ちゃん、これから言う事は誰にも言っちゃだめーってお母様に
言われてるのー!だからこれはお兄ちゃんがお母様に言われるまで
あたしが言ったって言わないって約束だよー?」
そう言い終えるとレイラはザイスの耳に口を寄せ、洞窟内でも
響かないほどの声で話した。
しばらくして話終えたのか、レイラが離れると
ザイスの瞳から涙が止まらなくなっていた。
(...そんなことってあるのか...)
アルディアの長年隠し通してきた事とザイスの妹から聞いた事。
そのどちらも共通して彼らに涙を流させた...それほど深い真相とは...。