それぞれの。
その巨大な影は災いとなり、その地に降りかかる。
(月がない...そんなことってあるの...?
さっきまで月の光が見えていたはず...ならこれは...)
サクリの視界の見える範囲に月は出ていなかった。
(...この影はいつから...昼間は太陽が出ていた...月は一体どこへ...)
考えながら何か強烈な緊張感に襲われる。
(...なんだろう、ゾクゾクする...怖い...)
彼女は冷や汗を流し、心臓の鼓動が早くなっていた。
(これ以上何も起きないでほしい...)
サクリは目を閉じ、心の中で祈る。
するとどこからか物音がする。
それは地を突き上げるような地鳴りで崖の岩が崩れ落ちていくような音も聞こえた。
(...どういう...あっ...)
突然サクリを月光が照らす。
それと同時に月を隠していた影が動き、エルヴィスタを見下ろすと地鳴りの
する方向から大量の敵が溢れていた。
(...こんなの...そんな...!)
自然と涙が溢れてくる。
それが何を意味するのかは彼女にしか分からなかった。
場面が変わる。
(...もう何もできない...)
固まっているイアを見て、近付いてきたクルーシア兵達の中の一人が
容赦なく腹に剣を突き刺す。
(...愚かね...)
彼女は遠のく意識の中でそう思いながら微笑した。
グレムも動けなくなっていて、クルーシア兵達は近付いてくる。
(...こんなとこで終わってたまっかよ...!
アルディア様に合わす顔なくなんじゃねーか!)
グレムは全身に力をいれるもピクリとも動かない。
目の前まで近付いてきたクルーシア兵達はグレムをあざ笑うような表情で
見つめる。
(...なんだよ...気持ちわりーな...)
グレムは睨み返すとそれが気に食わなかったのか、一人のクルーシア兵が剣を
手にし、グレムの右膝を深く刺した。
どんなに痛くとも声が出ない。
「...頑張るねー、あんちゃん!へっへっへ」
その男は遊ぶように何度も突き刺すと左膝をも刺した。
グレムは痛みを堪えながら憎悪の宿った瞳を男へ向ける。
「...おっかねえ人形だー、おやすみ」
男はそう言うとグレムの腹めがけて突き刺した。
(...地獄で待ってっかんなー...!)
そう思うのと同時に意識が途絶える。
辺りの倒れてる者達の大半はホワイトトゥルーの騎士兵達であった。
「...おい!一ヶ所に集めろ、たのしいたのしい公開処刑でもしようぜぇ」
クライズは近くにいたクルーシア兵へ言うと持っていた剣を座りながら
研ぎ始める。
そしてその周辺へアルディア、イア、ヘリサ、ダモス、グレム、ブルード、
ケヴィン、ジニーの首を縄で縛り引きずってくる者達がいて、クライズの龍が
1体ずつトーダスとザイスを咥えてくる。
いつのまにか龍の額の目は閉じていた。
「名のあるライド家はこれで全てかー?」
鎧が血だらけになっている男が兵達に確認する。
騎士兵達は壊滅的な状況だったがクルーシア兵はまだ100人以上、
かなりの数がいた。
「...アルディア・ライドとヘリサ・ベーレは有名で、ヘリサ・ベーレの
側近がこの間クライズ様の倒されたロイや、テリー、ブルードという男達だと
噂で聞いていたのでこれで全てかと!」
兵は答えると後ろへ下がっていく。
「クライズ様、準備が整ったようです」
鎧の男はそう伝えるとクライズは腰を上げた。
「縛った奴から一人ずつ俯せにしろ!切れやすくなるように首を濡らしてからな!」
そして切れ味を確かめるように剣の先を撫でる。
「最初はそこのー、あれだ、長ネギよこせ」
クライズは馬鹿にするようにそう言い、周りを囲んでいたクルーシア兵達は笑った。
「俺の顔を傷つけた罰だ...この首ぶった切ってやる...」
クライズは兵達が俯せにして首を濡らしたのを確認すると剣の先をグレムの
首に当てる。
「...いい光景だ、こんな汚ねえ首なんか手土産にもなんねえ、なぁっ!!!」
クライズは言い終えると剣を振りかざすが、
カツン
と突然の物音に剣を持つ手から力が抜けた。
「...なんだ?...誰か見てこい」
クライズは転がってきた石ころを見て、兵達へ言うと鎧の男が10名ほどの
兵を連れて、音のするほうに駆けていった。
「...生き残りはいねえんだろうな?...あ、義勇兵の方々もご無事な方が
多くてよかった...。これで脅威はなくなりました、クルーシアに平和が
訪れますよ」
義勇兵のほうを笑顔で見ながら言った。
「...ですが...もしこの戦いで奪った命にも...その...家族とかがいたら、
生きているご家族がこの戦いのことを知ったらわたし達を恨みませんかね
...?もしわたしだったら息子が殺されたりしたらそりゃ恨みますし...
それは敵であっても許せないことでは...?あっ...無礼をお許しください!」
義勇兵の中の一人がクライズへ問う。
(...黙れよ、命にも価値ってもんがあんだろ...あいつらは生きるに値
しないんだよ、あー、めんどくせー)
クライズは笑顔を作りながらそう思った。
「それは生き残ってしまったライド家が自分達がいけないんだと理解すれば
いいだけですよ?
そういう連鎖はどっちかが断ち切らないといけない...そうなった場合
明らかにライド家のほうが罪が重いなら奴らが死んで償うべきなんです、
奴らに生きられると我らクルーシアの者達は生きていけないんですから。
...では再開しましょう」
義勇兵の者は一礼すると下がり、兵達がグレムの首を濡らしなおす。
「...これはこいつらが生きてきた分を死で償うという証明の行動だ!
皆、彼らの勇気に拍手を!」
クライズの言葉に兵達から拍手が起こる。
(...潔く散れや)
クライズは剣を振りかざす。
...
だがまたもや邪魔が入る。
いや、何か聞こえた気がしたのだ。
(何だ...近付いてくる...)
それは地鳴りのように聞こえたが、間違いなく近付いてきていた。
兵達にも聞こえているようでその場にいた者達は剣や弓を手に、構える。
「...お、お前は...!そんな...ならあいつはフェイクってことかよ...!?」
それは何故か森の奥、兵達の見える場所で立ち止まった。
クライズはザイスを見ると噛み締め、近付いてくる何かの姿が見えると
誰もが同じ事を思っただろう、氷龍アイアスが2体いると。
「愚かな者共、息子達を返せ」
だがその声の主は間違いなく氷龍アイアスそのものであった。
「...いい機会だぁ...誰か捜索隊を呼び戻せ、ここで仕留めてやらぁ!」
クライズは冷や汗を流しながらも口角は上がり、喜んでいるようだった。
「...私を仕留めるだと?
人の分際でよく私の前でそんな発言が口から出せる。
それよりもまず私がいる場所にその存在が必ずあることに気付いたほうがいい。
気付いたうえでその発言をしているというのであればそれは愚かすぎる行為だ、
せっかくだから思い知るといい...私達との格の差を。
私達の息子に手をかけた時点でお前らは十分大罪だろう...なぁ?」
氷龍は後方を振り向き、そう言い放つとその体からは少しずつ冷気が地を伝い、
自分を仕留めようと向かってくる多くのクルーシア兵達の元へとてつもない
スピードで襲い掛かる。
「...誰に言っている...?いるってのか...!?いや、冗談だろう...!
氷龍アイアスの契約者と言ったらアルマ・ライドしかいないがあいつは
既にあの世にいるはずだろ...!!!何も臆することはねえええ!!!」
場面が変わり、しばらく経った頃にアルディアのもとへ人影が近づいてくる。
周りにはクルーシア兵達の姿は見えず、森奥まで追っていったようだ。
その人影の存在はアルディアにとって幸か不幸か...。




