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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
災厄のパズル
46/123

重き想い。






 神の悪戯による運命の分岐。






 「...はぁはぁ...」


ヘリサの突き出した剣から力が抜けず、一人の男の腹に深々と刺さっている。


「...ヘ、ヘリサさ...んっ...!?」


ダモスは背後の剣を手にする者の顔を見ると、それは間違いなくヘリサだった。


「...どうして...こんな...」


ヘリサは俯き、表情が見えない。


「...アルディア様をよくも...!!!!!」


そう言って顔を上げた彼女は涙を流し、鼻水も流れ、子供のように泣いていた。


(...わたしが何をしたと...いうんですか...)


ダモスに彼女の言うことは理解できず、全く心当たりがない。


「...お願いですから、もう私達の前にイアさん共々姿を見せないでください」


その発言にダモスは目を見開き、彼女のその言葉の重さを理解した。


(...何かの間違いです...よね...?)


ダモスの視界が揺らぐ。

眠るように彼は意識が遠のいた。

彼に背を向けたヘリサはふらふらとクルーシア兵のもとに向かっていく。






 場面が変わる。


「...アルディアさん...?...アルディアさん!!!」


イアは倒れてる者のそばまで近付き、名を叫んだ。

だが応答はない。


「...血の量が...イアの魔法でだめなら自分の死の運命を受け入れるしか

ないわ、あとはあなたの自然治癒力次第」


そう言いながらアルディアの心臓らへんに手をかざす。

すると手のひらから何か光るもの、普段イアの扱う雷撃のようなものが

細い糸状になってアルディアの体の中に入っていく。


「...!?...傷口の細胞が...!!!」


イアは何かに気付くと驚愕な表情を浮かべ、かざしていた手を彼の体から

離す。

そして立ち上がり、彼女は思った。


(...アルディアさん...あなたは本当にライド家なの...?)


イアの表情はどこか複雑で何か疑問を浮かべているような様子だ。




 突然、後方から肌寒くなるほどの風が流れてくる。

その瞬間、


「キュルルルーーーゥ!」


と何かの鳴き声がして振り向くと、竜がいた。

それはついさっきまでまやかしだと信じていたあの竜だ。


「...まやかしではなかったの...!?」


イアは分が悪そうな表情を浮かべた。


(奥に倒れているのはアルディア様...!?この少女が彼を殺したのか...

見逃すわけにはいかないじゃないか)


ザイスは目の前の少女に敵意むき出しで威嚇する。


(...アルディアさんを見てから表情が変わった!?

ライド家を知っている竜、もしくはアルディアさんと会ったことがある竜...

の可能性が高くて雷撃を理解していそうなそれは間違いなく王家が大嫌い...

だとしたら...イアの敵ではないのよ?)


イアは持っていた鎖鎌を地に置き、地面に寝転がった。


(来なさい...あなたに敵意はないわ)


そう思い、目を閉じる。

すると竜の足音が聞こえ、それは少しずつ近づいてくる。


(...この少女は一体何を...?だが少女だろうが王家である以上逃がすわけには

いかない)


ザイスは何かを諦めたような表情で近づいてくる。


(もし君が王家じゃなければ逃がしてあげれたのだが、奪ってはいけない命を

奪った君の罪は非常に重すぎた)


少女の目の前まで来ると勢いよく、首元に食らいつく


はずだった。

だが食らいつこうとした瞬間、少女の目が開き、その目の奥には自分と同じ

悲しみが潜んでいるように思えた。


「...さっき間違いなく雷撃をあなたに向けて放ったのはイアよ、申し訳ないわ、

竜さん。でもね...イアもすごく悲しいのよ...?この人はイアもお友達で

あなたは賢いから雷撃を扱う者がどういう身分か理解しているのでしょう?

イアは確かに王家よ...現クルーシアの姫、メドリエ・ネイラーデの娘。

それは間違いなく、偽る気もないわ。

けど今のクルーシアはイアも大嫌い...権力がそんなに偉いことなのか...?

一つ一つの命を駒のように扱う、そんなクルーシアは本当に強いと言えるか?

...あなたも悲しい目をするのね...ごめんなさい、話が長すぎたわ。

イアはあなたと敵対する気は微塵もない...だけど一つだけ我儘を言わせて

もらってもいいのなら......どうか無力なイアに...誰も守れないイアにお力を

貸してちょうだい...?」


その少女はいつのまにか泣いていて、その涙は底を知らず。

そんな少女が敵である


(...はずはないだろう...なんて馬鹿なんだ僕は...どんな権力があって

雷撃を見ただけで...少女の内側の部分を知りもしないで...どうして

敵だと決めつけることができたんだ...。

同じじゃないか...それでは王家のあの女達と変わらないじゃないか...。

人が愛おしくてたまらない...ケヴィンも誰もが自分を弱いと決めつけている

...そんなはずがないだろう。相手の心に自分の想いを届かせることのできる

者達が弱いはずなんて...ないだろう...)


神龍やアスルペ達、特別な龍以外の竜達はドラゴンテレパシーや竜言の愛が

なければ人と話すことはできないが、人の言語は理解している。

少女の心に語り掛けることのできないザイスは心底悔しく、


(...ケヴィンや君達のような強き人間に貸せる力が僕にあるというのなら

思う存分君達の翼となろう)


イアの目の前で氷竜の甲高い鳴き声が周囲を包み、広げた翼の羽一枚一枚が

月光に照らされ非常に輝いていた。

それはまさに希望そのもののようでイアもついうっとり見惚れてしまうほど。

そしてこの行動がザイスにとっての証明、少女と共に抗っていくことの証明

であった。






 「おい!...グレム!俺だ、ブルードだ!...しっかりしろ!」


場面が変わると、ブルードはグレムに問いかけていた。


「...ブルード!イアちゃんは敵だー!サクリを刺しやがった!!!」


何か余裕のない表情でグレムは返答した。


「...なに!?サクリは無事だ!...お前は何と戦っている...!?」


ブルードは不思議そうな表情でグレムを見ている。


「...ここにいんだろ!イアちゃんだよ!!!」


グレムには確かに生々しい傷が増えている。

だがその姿は見えない。

今周りにはグレムと自分しかいないとブルードは思っていた。

この場所はアルディアや弓隊のいた丘に近いところで、ブルードはついさっき

サクリの護衛を完了し、そこから近い場所で何かと戦っているグレムの様子を

見に来たようだ。

少し遠くのほうではサクリとブルードについてきていた騎士兵20名ぐらいが

クルーシア兵と激しい戦闘を繰り広げているのが見えていた。


(一種の幻術か何かか...ならその根源を叩かないとだめらしいな...)


ブルードは考えるとどこかへ駆けていった。






 場面が変わり、上空で激しい戦闘を繰り広げている龍達がいた。


「...アスルペ様...ヘリサを返してください...!!!」


トーダスにはアスルペが口にヘリサの胴体を咥えていて、その彼女からは

赤い滴が滴っている光景が「見えて」いた。

トーダス自身も傷がついていて、縛って抑えているクライズの龍「シャーダク」

はトーダスが縛る力に集中できないためにか今にも解放されそうだ。

アスルペは舌なめずりをしてトーダスを見ると不気味な笑みを浮かべていて、

その尾からは毒が出始め、体を風が包みつつある。






そして、トーダスは何かがプツンと切れる音が聞こえた気がした。




 次話、彼らの運命を決定づける残酷な審判が、災いを運ぶ音色と共に

幕を開けようとしていた。


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