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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
災厄のパズル
44/123

本当の。






 信じるものが正しすぎた故に。






 「あぁ...母さん...やっと」


アルディアはその女性の後ろ姿に安心感を覚えると体の緊張がほぐれ、

膝が地についた。

その女性が引き連れていた龍が少しずつアルディアに近付いてくる。

だが怖くはなかった。

きっとその龍こそ、母のパートナーである有名な氷龍アイアスだと何故か

そう信じれる確信があったからだ。

確かにその姿は間違いなく本で覚えた氷龍アイアスの特徴と類似している。


 どこか威厳のある瞳を持ち、その龍が歩いた後は冷気が地を凍らせ、

腹部や羽には氷の大陸に対応すべく羽毛が生えそろっていて、尾は

氷を纏った刀のように鋭い先端となっていた。

アルディアの周囲にいた敵の大半は彼女の冷気によって一瞬で凍らされた。

間違いなくアルディアにはその光景が「見えていた」。


「大丈夫か、大変だったな」


その龍と目が合うと声が聞こえた。

それはドラゴンテレパシーとは別で、アスルペのように言語を話している。

やはりアイアスもまた特別な存在であったようだ。


「...僕が弱いばかりに...」


アルディアは安心感からか体は動かず、涙が止まらなかった。

アルマだと思われる女性はずっと背を見せている。


「それは仕方のないこと。今まで少しも強くなろうとしなかったのだろう?

そんな人間如きが戦場で見様見真似で弓を扱う以外に何ができる?

この結果はリーダーであるお前が弱いからだ、ライド家。

逃げていればここで死ぬことはなかっただろうに」


アイアスの発言にアルディアは一瞬思考が停止した。


(ここで死ぬ...?)


「何のことか分かっていないようだな。

お前が死ぬんだよ、アルディア・ライドは今ここで死ぬの。

それに対して何か文句でもあるの?」


目の前の龍の言っている事がアルディアには理解できなかった。


「...僕には何を言ってるか...母さんも、アイアス様もいてどうして

負けるの...?既に敵の大半は凍り付いてるじゃないか!」


そう言って周囲を見渡したアルディアの視線の先ではヘリサが、イアが、

ダモスも、グレムも、サクリ、トーダス、ブルード、騎士兵達は皆戦って


いなかった。


(...皆!?...え、なんでだなんでだ、どうしてどうしてどうして)


アルディアの頬を冷や汗が伝い、その視線は明らかに動揺していて、今にも

精神がおかしくなりそうだ。


「だから言ったろ、お前が弱いからだ。

弱いから誰もついてこない、ついてこようとしない、守られない、守ろうと

さえしない、皆お前に呆れているんだよ。

いつもいつも言い訳ばかり、口ばかり達者で、何も未来は変えられない。

お前が強ければ母も呆れなかったであろうに。

いつも私にお前なんて産まなければよかったと愚痴を言っていたのを

お前は知らずに生きてきて、呑気なもんだよ。

生きてて邪魔っていう私たちの結論なんだ、お願いだから死んでくれ

アルディア・ライド」


龍は青年の額に鼻が触れる距離でそう言い放った。

視線の先にいるヘリサ達は俯きながらクルーシア兵と共に並んでいた。

そして数十分前までは味方だったはずの彼らの視線は非常に鋭く、

アルディアの心に突き刺さる。


「僕が弱いから弱いから弱いから誰もついてこない...迷惑だったんだ

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

産まれてしまって、生きててごめんなさい!!!!!」


ふとアルディアは近くに落ちていた矢で片方の腕を2度、3度深々と突き刺す。

その腕は瞬く間に血が溢れるが青年にはもう痛覚さえどうでもよくなっている。


「そんなんじゃ死ねないよ、死ぬ覚悟も持ってないのかい...ライド家なのに。

最後ぐらい覚悟ってもんを見せてみたらどうだい?

かつてのライド家は勇敢で死さえ恐れなかったと有名だったではないか」


アルディアは目の前にいる龍の声さえ耳に入らず、何を言われなくても

ずっとひたすら腕を刺していた。

片方の腕はもうほぼ使えないであろう。


「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」


ついに感覚がなくなったのか左腕はぷらんぷらんと揺れ、次はわき腹を

深く突き刺す。


その瞬間、強烈な痛みでアルディアの意識は途切れた。






 場面が変わる。


(おかしい、絶対おかしい、イアの勘は絶対に当たる......ならこの状況は....)


イアは目の前にいる竜と睨み合っていた。


(アルディアさんに危機が訪れれば間違いなくヘリサさんや騎士兵達、勿論

イアだってダモスも駆けつけるわ...なのにどうして誰も近づかないの...?

...見えていない......もしもこれがイアにしか見えていない場合...おかしいのはイアの

眼ってことね!!!)


少女は目の前にいる竜をまやかしと確信する。


「ライ・アイズ!」


イアは何か呟く。


(これは小さい頃、お母様の書庫にこっそり入って覚えたライ系統の魔法。

何か幻術やまやかしで視界が奪われ窮地に陥った状況でもイア達王家の扱える

雷撃は神から受け取った神自身の力!それ故にどんな強力なまやかしでも

一瞬で見切れる万能の力よ)


イアの瞳に雷撃が流れるような模様が入る。

その瞬間、目の前にいた竜は消えた。






だが、その代わりにか闇夜の中で一人の青年が血だらけになり、

倒れている光景が見えてしまった。




 その光景こそ、本来まやかしであってほしいものだと少女は思った。


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