塗り替えられていく未来。
見えてきた悪夢の中で。
「...あちらの龍がメドリエ様のお力になりたいとのことです」
警備兵がメドリエに話しながら王城のほうから歩いてくる。
「言語を話す龍...心当たりはないが...わかった、下がってよい」
メドリエは警備兵へ言うと下がらせ、警備兵はメドリエに一礼してから
小屋のほうに戻っていく。
「言語を話す龍よ、よくぞ来てくれました!
...そちらの方は契約者ですか...?
ひとまずこんなとこで話すのもなんですし、城内の広場へ行きましょう」
龍と老人へ言うとメドリエは手招きした。
「...とりあえずお名前を聞いてもよろしいでしょうか?
私はメドリエ・ネイラーデ。このクルーシアを束ねる王の妻です」
場所は王城前の広場に移る。
広場にある噴水は月の真下にあって、月光のせいかとても綺麗だ。
「...僕はフェディオ、こちらの老人はヨゲスだ。
貴方のことは強き姫とよく噂で聞いていて、とても会ってみたかったのだが
こちらも色々と邪魔が入ったりで会う機会がなかったこと謝りたい。
会えてよかったよ、こんなに美しい姫だったとは...ぜひともお力になりたい
ものだ」
暴食が兄と言った者はフェディオと言う名だと明らかになった。
「...初めて聞く龍の名...ご無礼でしたら申し訳ありませんわ。
それで他に目的はないので?」
相変わらず黒で覆われた衣類が不気味だ。
それはヨゲスと目が合った瞬間、彼に一瞬の恐怖を植え付けるほど。
「...ならわがままかもしれないが聞いてもらおう。
僕はつい最近、このヨゲスに永き眠りから覚ましてもらってね、
その永き眠りにつかせるように仕向けた、忌まわしき一族...僕の記憶が
正しければ王家も敵対関係にあるはずの『ライド家』を1匹残らず根絶やしに
してやりたいと思っていて、目的が同じなら助け合えば戦力は増えるであろう。
そうだよね、皆」
フェディオという龍は突然周りを見渡しながら語り掛けるように言った。
だが今はメドリエとヨゲス、フェディオしかいないはず。
「...こ、これは!?」
何もなかった場所に少しづつ半透明なモノ達の実体が周りに現れる。
「死の墓場」から連れてきた者達はどこかに隠してきたのではなく、
見えていなかっただけでずっとついてきて「いた」のだ。
後ろのほうには竜のような生き物もいて、それを見たメドリエの口角が上がる。
「...そういうことでしたのね、それを初めに言ってくださればよろしかった
のに、なら明日の朝皆に紹介しましょう、この素晴らしい仲間達を」
メドリエの瞳は歓喜に染まっていた。
「...そういえば王家の者がライド家に奇襲をかけるという噂は聞いていた
から、僕の弟や家族達にそのクルーシア兵を援助するように行かせたよ。
なんでもあの幻龍の噂もちらほら耳にはしていたから...
けど今頃到着してるんじゃないかな、吉報を待つとしよう」
メドリエはふいに笑うと、
「...明日フェディオ様、ヨゲス様、そしてお仲間さん達の寝床やお部屋も
早急に作るように指示します。
その幻龍とやらのことも詳しくお聞かせくださいね。
とりあえず今日は空いているお部屋や、テントで申し訳ないですが一夜を
お過ごしください、王と話して今日は私も休みますんで」
メドリエはそう告げると一礼し王城へ戻っていく。
王家は願ってもない戦力増強を喜ぶことだろう。
場面が変わる。
「...ア、アルディアさ...ん...そんな...よくも...」
アルディアの臓物を食らうその竜を見て、イアの瞳に憎悪が宿る。
「ライ・ウィング」
彼女が呟き、鎖鎌から雷撃が放たれる。
それは首に当たるが竜はびくともしない。
「...くっ!...ライ・ズ・クロー!」
鎖鎌が纏う雷撃が3本の爪のような形になって竜を襲う。
「...キュルルル」
羽に当たると竜は低く唸った。
その口から血が滴るのをイアは見た。
「どうして...イアだけ?アルディアさんに気付いているのは...」
イアは竜と睨みあいながら疑問を浮かべる。
これだけ人数がいるのに誰もアルディアを助けようとはしないで、
目の前の敵に夢中であった。
(老人達をひとまず安全な場所へ降ろそう...)
場面が変わるとザイスは前方の地上で戦っている者達を見ながらそう思い、
そこから少し離れた場所でアスルペから託されたケヴィン達を降ろした。
(戦うも逃げるもあなた方次第、そしてどちらもあなた方が選んだのなら
正しい選択なはず...どうかご無事で)
ザイスは降ろしたケヴィン達を見つめながら心の中でそう告げると、
戦場へ向かう。
「...戦える者は戦おうじゃねえか...!怪我人や女共はどこか隠れとけ!
行くぞ、ジニー!」
ケヴィンはジニーと共に駆けていくと、それを見た男達も戦場へ向かった。
女達は手を合わせながら祈っていた。
「...あれはアルディア様」
アルディアが弓で敵を倒しているのを見つけたザイスは、その近くの敵の数を
減らそうと戦い始める。
すると、突然、
「バチバチバチーーーっ!!!」
と雷撃が首元や羽に当たる。
「...キュルルル」
雷撃を纏う鎖鎌を持つ少女を見て、ザイスは威嚇した。
(雷撃は王家の象徴...敵である証拠)
ザイスはその少女を敵と確信する。
場面が変わる。
「...くっそ...いてえけど負けてらんねえ...!」
グレムは血だらけになりながら戦っていた。
肩、腕、腹、太もも、ふくらはぎ、頬に深い切り傷のようなものができて、
非常に痛々しい。
「あの野郎...ぜってー倒す」
グレムは1歩ずつ確実に目的意識を持ちながら仲間を倒していくクライズへ
近づいていた。
だが、ふいに視界に入った真横で戦っているイアを見ると彼女はツインテールの
女性の腹を鎖鎌で刺して、持ち上げている。
その顔はサクリだった。
それを見たグレムの剣を持つ手に力が入り、足早に近づき始める。
「...イアちゃん...冗談であってくれ、頼むからやめてくれよ...
俺だって信じたくねえんだ...この戦いはクルーシア兵と繋がっていたって
ことかよ...?」
イアはグレムに気付くと彼女を刺していた鎖鎌を勢いよく引き抜き、血を払う。
するとグレムは一瞬で間合いを詰め、イアへ剣を振りかざした。
場面が変わる。
「少しづつ劣勢になっていってる...?
どうし...あ、アルディア様...!?」
ヘリサは敵を倒しながら劣勢になっていることに気付き、
辺りを見渡すと、ダモスがアルディアの首を掴み持ち上げている光景が
目に入る。
持ち上げられているアルディアは力が抜け、揺れていた。
「所詮クルーシア兵...これも貴様らの陰謀だったということかー!!!」
ヘリサは相手していたクルーシア兵を手早く仕留めると涙を流しながら
勢いよく、ダモスへ向かっていく。
ドスッ!!!
とした感覚と共に血は溢れだし、彼女の剣は凄まじい勢いでダモスの背を
貫いていた。
場面が変わり、
「...わたしたちは負けない!アルディア様のために!イア様のために!」
と叫ぶダモスは返り血だらけで、周りも鮮血で溢れかえっている。
ふとダモスは前方のほうで弓矢で敵の首を射抜くアルディアに視線がいくと、
彼は生首を持っていた。
(...中々えぐいですね、アルディアさ...ま?...え、それは...イア様...?
...ちょっと待ってくれ...どうして...!!!」
ダモスは膝から崩れ落ちる。
すると突然背に強烈な痛みを感じ、腹を見ると背から刺さっている剣の
先が自分の血で真っ赤になっているのが見えていた。
場面が変わる。
(数が多い!)
サクリは近くの敵を倒しきると、周囲を見渡す。
「...待って...なんで皆戦ってるの...ヘリサ様...なんでダモス様を...?
グレム何してんの...わかんない、わかんないよ...!」
サクリは襲ってきた敵を倒しながらもその光景に不安で涙が止まらなかった。
場面が変わる。
「許可なくその先は行かせんのだ、すまんのう」
馬鹿にしたような口調でアスルペは暴食と色欲に向かい風になるように
暴風を浴びせていた。
それは風でできた壁のようになっていた。
「...あああああああうじゃいでしゅねええええええええええええ!!!
うじゃいじゃいじゃいじゃい!!!!!
私達を引き留めるのでしゅねえええええええ!
お兄ちゃんに手伝ってもらってえええあの時殺しててて食ってやればあああ
よかったでしゅ!!!!!」
暴食達は一歩もその場を動けないことにイライラしていた。
「お前たちもまだ覚醒期に入ってないから助かるよー、まだ『鍵の子』
さえ見つけられずに能力も使えないのだろう?人からすればそれだけでも
脅威だが私にとってはただの大きすぎる赤ん坊にしか思えんよ」
アスルペはエルヴィスタのほうを見ながらそう話す。
「あ、があ、ぎ...あなた本当にあたし達が何の策も練らずに来たと
思っているの?」
突然暴食以外の声が聞こえ、アスルペは驚きながら正面を向く。
「...ついに声まで出せるようになったか、色欲...デスミラーも
もう本格的に心が呑まれたな」
色欲が声を発したのだ。
「あなたみたいなのと話す気はないわ、あっちも結構順調みたいだから
いい事を教えてあげましょうか。
あなたが墓場で見た龍は何体でした?」
色欲は舌を出しながらどこか誘惑するように問う。
「...あの時は貴様ら2体がいたのだろう...それよりも私も雌龍だから
誘っても子は成せないよ。7大罪龍の子なんか成す気もないが...」
アスルペは色欲の舌を不愉快そうに見ながら答える。
「何が幻龍よ...あなたまでこんなに馬鹿な」
色欲の会話が途中で途切れる。
「...うぅぅぅぅぅぅぅぅぅあすぅぅぅぅぅぅぅぅうあぁぁぁぁぁぁぁ!!!
じゃまぁぁぁぁぁれ...アス....ぅぅぅぅぅぅぅぅぅるぺぇぇぇ!!!」
色欲は目を見開きながら暴食のほうを見ると、
暴食は焦ったような表情をしつつ、「それ」を口にした。
「...アス...ル...ペ!」
突然、暴食はアスルペの名を呼ぶ。
「やめなさい!あなたは暴食!」
色欲は暴食へ叫ぶが、それを見たアスルペが色欲の口に暴風を流し込み、
苦しませた。
「...ムーンイーターか?」
何かを訴えかけるようなその瞳はどこか悲しそうで、それは「暴食」の瞳では
ないように感じた。
「...ア...ルペ!オーォォォォォ!!!アスル...逃げ...さい!!!
オウゥゥゥ!!!嫉妬...が!!!王があああぁぁぁぁぁぁ来る!!!!」
その声ははっきりとアスルペの耳に届き、その言葉の内容も一瞬で理解できた。
墓場で会ったのは暴食と色欲...そして屍となった王もだったと。
「...そんな...まさか...!もう嫉妬が芽生えたと!?どこに来る!!!?
...暴食と色欲は囮か!!!」
ムーンイーターへ問うと、一粒の滴を流した彼女はエルヴィスタを
見つめていた。
(アルディア...何も考えるな!
王の惑わしの幻影は相手の一番大事なモノに影響する...私はそこにいない、
母であるアルマもいない!...気を強く持て!!!)
アスルペの心の叫びは聞こえずともほぼ同時にアルディアは戦場で龍を放つ
一人の女性の後ろ姿を見る。
「...母さん!?...やっぱり生きていたんだ、母さん!!!」
つい最近生存を確信したアルマ・ライドがこの場に現れたら、息子である
アルディアは間違いなく信じてしまう。
向かってくる龍、それは母のパートナーであるアイアスに違いない。
そう思いたかった。