呑まれた瞳。
出始めた月さえも告げる序章の光。
「...雑魚な隊長のいた騎士団の割に中々やるじゃねえか、
ぶっ殺してやった隊長さんもてめえぐらい強かったのか?あ?」
クライズとグレムはかすり傷のようなものが増えてはいるが、実力は
ほぼ同じであった。
「...言っとくが俺はその隊長さんとやらをも超える男だぜー!?」
クライズはグレムに力で押されると、一瞬体制を崩しながら
(...っ!?...くそが...!)
と思いながらも倒れた先に落ちている矢に気付き、
「...下ががら空きだ!」
とグレムの足めがけて矢を突き立てようとする。
「...ちょっ!」
グレムはそれに気付くと舌打ちをして、すかさず距離を取った。
「...反抗期かよ?...そろそろ終わらせようぜ」
クライズへ言うと剣を鞘に納める。
「...俺を抜刀術でやるってかあ?...ハハハ」
クライズはその姿を見て笑うと、抜刀の構えを見せる。
二人は見つめ合ったまま、少しも動かない。
2つの剣がぶつかり合い、甲高い音が周りに響く。
勝負は一瞬だった。
だがどちらも倒れない。
「立ってられるのは褒めてやっけどよお!隊長の後を追って散れ!」
クライズは振り向き、グレムへ言った。
「...てめえこそよく立ってら...っ!?」
グレムも振り向き、返答しようとしたが途中で言葉が出なかった。
いや、出せなかったのだ。
「...体が動かねえ...何の小細工をしたーーー!?」
グレムは動くと体に痛みが走り、膝をついたまま動けなかった事に
怒りながら問う。
「...てめえらはただの馬鹿でしかねえんだよ!
まあ、これは龍からの授かり物みてえなもんだけどよ。
あのライド家のぼっちゃん、アルディアちゃんは本当に馬鹿だ...
ライド家なのに俺の龍を見て何も感じてねえみてえだしな...呆れんぜ!
騎士団も大変だなー、あんなお子ちゃまの子守はよー。
んじゃな、弱者の騎士兵」
クライズは動けないグレムに近付き、馬鹿にしたような目つきでそう告げると
トーダスのほうへ歩き出した。
「...トーダスはつえーからな...大丈夫だよ...な...?
それよりもこんなとこで身動きとれねえのはやべー...」
グレムとクライズが戦っていた場所は一騎打ちかのように周りで戦ってる者も
思い、近付かなかったためにスペースは空いていたが今は少しづつ
周りで戦う者達も増え、いつ狙われてもおかしくはなかった。
「...戦況は劣勢...か?」
グレムは周りを見渡すと冷や汗を流した。
場面が変わる。
「...エルヴィスタに向かう気かいな...」
アスルペは前方の地上を歩いている2体から視線を外せないでいた。
「...んっ、...アスルペ様?
...あれは...神龍デスミラー様と...神龍ムーンイーター様!?」
ザイスは目を覚ますとアスルペの視線の先を見て、言う。
「...いや、あれはもう呑まれている、暴食と色欲だよ」
アスルペは目を閉じ、悪い状況だというような表情だ。
「...ザイス、アイアス達の居場所に心当たりはないか?」
ザイスへ問う。
「...フードの者が行くような場所...その人が誰か分からない以上
何も言えませんが...母上はアルマ・ライドの故郷であるイリミルの森を
好んでいました」
ザイスは悩んだ表情で答えた。
「...だがな...ザイスの妹もいるうえに数十匹の竜まで普通連れて行くか...
おそらく何か訳あってアイアスの力が必要な人...またはアイアスに憧れて
た人の仕業だろうが...それにしてはクルーシア兵の襲撃を分かっていたか
のようにサリーシャに現れたのが気にかかる...まずは奴らを止めねば
アルディア達が危ないか...トーダスはあの3つ目龍と戦っているようで
守りの加護は使えなさそうだな、今は毒は出せないか...。
ならせめて我が風でこれ以上エルヴィスタへ近づかないようにしよう。
ザイス、ケヴィン達を頼む。
アルディア達が戦っているから援軍として連れてくといい、そしてザイスも
その場で戦っててほしいのだがね?」
そう言うとアスルペはザイスへ背にいるケヴィン達を託し、風を纏い始める。
「...了解しました、ご無事を祈ります」
ザイスは暴食と色欲の真上を飛んでいった。
「...さて、遊ぼうか」
そう言ったアスルペを巨大な竜巻が包んでいた。
「ここだね、ヨゲス」
場面が変わると「死の墓場」を抜けた不気味な者達がクルーシアに到着した。
位置的には「死の墓場」とクルーシアはかなり近い位置にあるのだ。
「王の姿をー見ればすぐにーでもクルーシアー兵達がー寄ってくるー
と思いますーよ!」
ヨゲスという如何にもゲスっぽい老人はそう返答すると、
「...そこで止まれー!!!」
アスルペが少し前に警備兵達を倒した門の近くで声がする。
「ここは王城、メドリエ様に用があるのか?」
その声の主は門から出てくる、警備兵だ。
「メドリエ様のお力になりたいのだよ」
そう言うと暴食がお兄ちゃんと言った龍は敵意のない事を示す、
龍ならではの服従の姿勢を見せる。
「...言語を話す龍...しばし待たれよ」
警備兵は王城のほうへ走っていった。
この時龍とヨゲスの一人と1体だけで、「死の墓場」にいた不気味な軍隊の
姿はなく、どこかに隠してきたのだと思われる。
場面が変わる。
「アルディアさんは大丈夫かしら...」
返り血でローブの染まったイアは辺りを見渡す。
そして彼女は「見てしまった」。
巨大な竜巻の起きている方向から飛んできた竜がアルディアの内臓を
引きずり出し、貪っている、その光景を。
彼女の瞳は「未来を変える力」を持つ悪夢を映していた。