叶わぬ願い。
神龍様、もしこの願いを聞いてくれているのならお願いだから...。
「...仲間を...助けてください...」
そう言った彼は月の照らす中、どこか森の入り口のようなところで
うずくまっている。
遠くにはエルヴィスタの門の入り口が見えるがほとんどが赤く染まっていた。
「...どうしてこんな事に...体が痛くてたまらない...僕死ぬのかな...
死ぬって怖いよ、母さん...ごめん...。命を懸けるってこれぐらい重い意味を
持つんだ...今頃理解したんだけどさ、全部僕のせいなんだ...皆に甘えて
しまっていた...アスルペが来ると思っていた...けど僕が弱いから足手まとい
だったんだ...生きてて恥ずかしい、もう死にたいよ...」
顔を上げた彼はアルディアだった。
だが頬には傷ができていて、腕と脇腹には矢が刺さっていて、まずい状況だ。
「...あの時...僕が母さんみたいに強ければ...」
アルディアはその数時間前に起きた出来事を思い返す。
数時間前、クライズがクルーシア兵に前進の合図を出し、突撃してきた。
「...アルディア様ーーー!」
ヘリサは敵の相手をしながら少し高くなっている丘の上から弓兵達と一緒に
応戦するアルディアを心配していた。
(思ってた以上に弓の扱いは上手いけど...敵の数は多い...
陣形的にはアルディア様達のいる弓兵達の前で剣士達が食い止め、
そこを高くなっているあの丘から矢で射貫く...戦法は悪くないはずだが
グレムやサクリちゃんのいる最前線部隊の体力が持つかどうか...
月が出始めたら暗闇で弓兵達も苦しくなる...ならそれまでに敵の数を
どうにか減らすしかない...)
その周辺は土煙が立ち、剣のぶつかり合う音や矢の風を切る音、
肉体を切りつける音や肉体に刺さる音が絶えない。
そしてどんどん赤く染まっていき、どんどん人が倒れていく。
「...うまくやれてるかな...ヘリサさん、ダモスさん、イアさん...皆は
無事だろうか...」
ヘリサは数人相手で戦っていて、苦戦しているようだった。
それを見たアルディアは弓を振り絞り、その中の一人に狙いを定め、矢を
放つ。
(...あ、アルディア様ありがとうございます!)
クルーシア兵数人はふいに一人が倒れたのを見ると矢が刺さっているのに気付き、
ヘリサは少し遠くにいたアルディアと目が合い、心の中で感謝した。
そして隙を見せている敵に斬りかかっていく。
(...よかった...イアさん達は...)
イアのほうを見ると彼女は雷撃と鎖鎌を絶妙に扱い、敵を倒していた。
ダモスも騎士兵から譲り受けた剣と体術で敵をなぎ倒していく。
さすが闘将と恐れられた男だった、鎧はなくとも戦い方を熟知している。
グレムや騎士兵達も善戦していて今は自分に襲い掛かってくる敵を
倒そうと気を強く持つ。
「子守は結構だ、この傷をつけた罪は重いからな、てめえも死罪だぜぇ!?」
場面はグレムとクライズが出会ったところだ。
両者、敵意剥き出しで睨みあう。
「...負けたら俺の弟子入りさせてやっかんな、こいよ」
グレムがそう挑発し、クライズは一瞬で間合いを詰めると剣がぶつかり合う。
「...武器はこれだけじゃねえぇんだぜー?」
クライズは剣を押し合う中でグレムの腹を蹴ろうとした。
「...食らうか!馬鹿もん!...って姉貴なら言うんだよなー」
グレムはそれに気付くと馬鹿にするように一旦距離をとった。
「...あぁ...めんどくせえええ」
クライズは眉間にしわを寄せながら言い、それを見たグレムはニヤリと笑う。
場面が変わる。
アスルペ達はエルヴィスタがもう少しで見えるとこまで来ていた。
「アスルペ様はアルディア・ライドとは契約はなされないのですか?」
ザイスが問う。
「...契約とはザイスが思ってるほど重いものなんだよー、今はアルディアに
何かあった場合アルディアの命の責任はまだとれないからしたくはないな。
私は自由奔放だし、最近は色々と用事で忙しいから彼が危機の時にそばに
いれる自信がない...必ず守れると約束ができないから今はまだする気はない。
そうだなー、神龍達に会いに行った後なら私からアルディアに言ってみるよ。
ムーンイーター、デスミラー、オールクラウン以外の神龍達の安否が
今は最優先だ...もし全ての神龍達が7大罪龍に乗っ取られてしまったのなら
私やアイアス、他の強い龍達が集まったとしても救うことはできないし、
...レイコがいない以上、『オーパーツ』と『鍵の子』の在処も私達で
見つけて、管理しておかねばならない...最悪の事態に備えてね。
っと長々と難しい話をしてしまったがすまんのう、ザイスや」
アスルペは話し終えるとザイスのほうを見る。
「...って寝てんのかね!!!
...初めてツッコミというものしたが人間達はこういう使い方をしていたはず
だから間違ってはいないのだろうな、最近の時代は楽しくて仕方ない、
昔はお堅い人ばっかだったからなー、さてアルディアの事も心配だし
急ぎたいが...ザイスは寝てる...ってか寝ながら飛べるのか...
興味深いな、アイアスから教わった術なのかいな...私も勉強せねば」
アスルペは興味深そうに寝ながらもついてくるザイスを見て笑っていたが
突然、
「...ヴァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」
と前方のほうで爆音がして、土煙の中から巨大な何かの影が2つ地中から出て
きていた。
「...まさか...そういうジョークはいらないんだがね...」
アスルペの表情は一瞬で険しくなる。
場面が変わればアルディアが汗をかきながら弓矢で敵を迎え討っているが、
突然かなり遠くのほうから大きな音が聞こえて、少し高くなっている丘の
上から前方を見る。
そこには大鎌のような角を持った巨体な「何か」と鋭利な牙が数多く
生えそろっている不気味な口を持つ巨体な「何か」がエルヴィスタのほうを
見つめていた。
「...味方...?だといいな...」
アルディアも険しい表情になる。
アスルペとアルディアが見た2つの影。
それは世界を災厄へと導く序章を告げるモノ達であった。