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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
始まりは希望と絶望から
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連鎖は終わらない。






 「大丈夫...あなたは今のままでいい」






 この状況でムーンイーターならきっとそう言うはず。

 そして確信した事2つがオールクラウンにとっての希望であるなら、

そうなるにはどうするべきか。


ここからは一つもミスをすることは許されないが,何をするかは簡単だ。

抗えばいいのだ。

王は抗った結果、「暴食」に敗れる事が怖かった。

だから抗うことを諦め、違う道を歩もうとしていた。

だがそれでは「正解」にはたどり着かない事はもう嫌というほど分かった。


「絶望を喜ぶなんて王しゃまはどんなご趣味をしているんで

しょうかあああああ!?その憎たらしい笑顔...

2度と浮かべられないようにしてあげるんだからあああ!!!」


そう不気味な笑顔で言い放つと「暴食」はその巨体から

広範囲に闇を拡げ、「紛い物」を王へと向かわせる。


「霊魂を自我もない生ける屍へと変えてしまうのか...

無理やり操られて悲しかろうに。

こんなことを本心でしたくないであろうに...我は分かっているぞ。

...だから今だけは受け止めさせてくれ。

いや、受け止める事しかできない無力な我を許してくれ...憎むがいい、王を。

我も今の無力な我自身を憎む...だが暴食はいつかきっと報いを受ける時が来る。

その時には無力だとは言わせない!!!

強き王として、この行動に至った事を必ずや後悔させてみせるからな!!!」


それは哀しい表情から放たれ、王は王を憎んだ。

そして自分の巨体を包む闇を振り払おうとはしなかった。


 いつのまにかデスミラーが王の後ろで笑みを浮かべ佇んでいる。

まるで「暴食」の言葉を待っているかのように。


 間もなくしてやってきたもの、それは終わりか、始まりか。

王の巨体を闇が覆いつくし、鱗も羽も全てが漆黒に変わると同時に、

「暴食」が口を開いた。


「気分はどうでしゅかねえええ!?王しゃまあああああ!!!

もっとその可愛らしいお顔を拝見していたいのですがあああああ、

タイムリミットが近づいているようなのですううううう!

死にゆく苦しみをこれからたくさん味わってくだしゃああああいっ!」


「暴食」の叫びとともに大鎌状の角が前方から、

後方からは地獄へ繋がっているかのような鋭利な牙が数百はあるであろう、

巨大な口が迫ってくる。

 だが体は動かない。

振り払わなかった紛い物達が纏わりつき、王の動きを止めているのだから当然。


「これでいいのだ。

どうせなら我が逃げる気になれないように、もっと締め付けてくれ」


王は最期を受け入れるかのように、どっしり構えている。

何か秘策があるのだろう。

ここで最期を迎えてしまったら希望も何も残らないはずなのだから。


「無力な王しゃまは無様に消滅しろやああああああっ!!!」


その言葉は固い鱗も易々と両側から千切り刻むような音で掻き消される。




 それから7分近く経った頃、巨大な何かが倒れた衝撃で地が割れた。


「.....哀れなもんよ....えええ」


薄れゆく意識の中で微かに声が聞こえる。


「.....7...前にあの...の子さえ...なきゃ...に心を食われ

...なんてなかっ...のに...えええええ...」


何の話をしているのか、途切れ途切れでよく聞こえない。


「嫉妬...さえ...王しゃまの命...必要は...たんだ...ねえええ」


 嫉妬。

その2文字が聞こえたが、それは全龍オールクラウンが取り込み、

他のどの罪龍達よりも現れるはずがない存在だ。

気になっても何を言ってるかは聞き取れない。


「...」


耳を澄ませていると突然、ラークの少年の声が聞こえた気がした。

王を迎えに来たのだろうか。


(守る事も罪...それは我の間違いであったよ。

大切な人がいるのなら、その人を守ることは一つの使命だ。

...少年よ、君の元へ我を導いてはくれないか?)


それが神龍の中の王と呼ばれし、全龍オールクラウンの最期の記憶であった。


少年は王を天へ導いてくれたのだろうか。






 そして場面が変わる。

ここは森の中だろうか。


 一人の青年が木陰で本を読んでいる。

黒髪で身長は平均ぐらいか。

雰囲気は物静かで爽やかなイメージが漂う。


「アルディアー?」


と、突然現れた母親らしき女性がそう呼ぶ。

彼の名はアルディアというらしい。


「今行くー」


青年が立ち上がり、本を持つと一言、


「また来るね」


と木のほうへ向き言い、呼ばれた方へ走っていった。

青年の姿が見えなくなると、


「行っちゃった」


どこからか声が聞こえた気がした。




 少し歩くと集落が見え、森の中にしては灯りが多く、賑やかだ。


「ただいまー!」


集落の入り口付近にいるお年寄りに挨拶をした。


「おかえりや、アルディア。今日も読書かい?」


そう返答をした老人は片目がなかった。


「まーね!自然の中で読書は心地いいよ」


そう言うと老人の顔が険しくなり、


「あまり遠くまで行き過ぎると「迷いの砂漠」へ誘われるから、

気を付けるんじゃぞ。

あそこに一歩でも足を踏み入れてしまえば同じ光景が延々と続き、

抜け出せなくなるらしい」


「分かってるよ!そんなに遠くまで行く気もないから安心しててよ!

もう子供じゃないんだから。もう帰るよ、またね」


呆れ顔でそういうとアルディアは早々に一人で家へ向かった。

老人は母親に、


「あの子は物静かすぎる...同年代の子はみんなで遊んどるが

アルディアはいつも一人じゃ。

出生の事もだが、わしは不安事ばかりじゃな...唯一の取柄は不気味な程に

傷の治りが早いこと...分からん子だ」


寂しそうな口調でそう語った。

それに対し母らしき女性は、


「出生のことは言わない約束ですよ。

あの子は生まれた時から物静かなんです。

それもまたあの子の個性ですよ。

晩御飯の用意があるんで私ももう行きますね、おやすみなさい」


と笑い、そう話した。

話し方からすると母親で間違いないだろう。

老人の親子を見送るその瞳は細くなり、口角が上がっている。




 家につくと母親が、


「アルディア、大長老様がまた心配していましたよ。

たまにはみんなと遊んで来たらどうかしら?」


と優しく声をかける。


「大長老様は僕が災いをもたらさないか、きっと不安なんだ」


それを聞いた母親は厳しい口調で、


「アルディア、今から大事な事を話すわ。

それがどういうことか、成人も近いのだし自分の心でしっかり受け止めなさい。

あなたと私のご先祖様達はかつて龍と共に名を馳せた事があったの。

子孫である私達はその誇りを忘れずに生きてきた。

けどその誇りが穢れてしまう出来事が起きてしまうの。

一族の長年住んでいた場所、「ラーク」に数百のトロールが攻めてきて、

一族と竜は共闘して戦ったのだけどトロールは体も大きく、武器も強い。

戦況は劣勢でも誇りを持ってたご先祖様達は女、子供、そして幼い竜を

我らの血を絶やしてはいけないと逃がしたわ。

その時に一族のとある男がフードをかぶり女達に混じっていて、戦う男達を

見て、


『お前らはバカだな。守ったって神龍様にはどうせ笑われるんだぜ』


と言い放ち、ラークにある全ての門を閉じてしまったの。

運命に抗わずに一族を見捨てた人物、彼は最後にこう言っていたそうよ






『守る事は罪だ』って」




 何千年の時を超え、懐かしき「それ」と似たワード。

その出生に隠された残酷な悲劇とは。


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