幸か不幸か。
アルディア達、クルーシア兵、両者にとって予想を超えた悲劇がこれから
始まろうとしていた。
「トーダス、後はよろしく頼むよー。私はちょっと急用を思い出した」
日の出に照らされ起きたトーダスにアスルペは言った。
それを聞いたトーダスはキョトンとした顔でアスルペを見つめながら、
(いつも突然なんだよな...アスルペ様は)
そう思いつつも、
「了解しました...いってらっしゃい」
と返答した。
「ありがとう...。では行ってくるがなるべく早く戻るよー」
言い終えるとすぐさま翼を羽ばたかせ天へ舞う。
「突然なのだ、事が起きるのは...」
飛びながらアスルペは小さく呟いた。
場面が変わると大勢の軍団が森を抜けようとしていた。
(...あれから3週間、いやもう4週間経つが...まだあの村に
奴らはいんのか...少なくともあの付近にいてくれれば急げば
運よく間に合うか...バッタリ出くわしてくれればこっちにとっては
好都合なんだがなー)
クライズは軍団の先頭にはおらず、軍団の真上、あのシャーダクと呼ばれる
不気味な龍に乗りながら向かっていた。
(...そういえば...!あそこの付近にオーパーツが眠ってたっけなー、
奴らが逃げてたらそれ奪って帰ればうるさく言われる事もねえか...
アルマも死んだしライド家はもう弱い竜しか扱えない......だよな...?
なんだ...何かが引っかかる...もし...アルマに子がいたら...何千年前の事も
あいつらが...もし...もしまだオーパーツの場所を知っていたら...
......まずい...!!!)
クライズは突然、焦ったように、
「おいっ!!!竜を持ってる者共は俺について来いっ!!!
モタモタすんなっ!!!このくそ共がっ!!!
...クルーシア軍と民間人の義勇兵達はペースを上げて最短距離でなるべく
向かってくださいっ!!!...さっさと行くぞっ!てめえら!!!」
と叫ぶ。
ライド家はかつてオーパーツを扱った一族。
それを学んでいたクライズは自分達にとって不都合な事態が脳裏に
浮かんだ事に焦り、龍の背から叫んで竜を扱える者とクルーシア軍を
差別するような態度、言動で扱った。
その光景を見ていたクルーシア軍、義勇兵達は、
(また、始まった...)
とでも言うような表情をしていた。
「オーパーツって使えるんですか?」
場面が変わると分かれたグループで行動していて、
ふとアルディアは疑問をヘリサへぶつけた。
「もちろん壊れたりしていなければ使えると思いますよ!
ですがオーパーツ自体かなり古いので期待はしないほうがいいかと...」
アルディアは興味深そうに頷く。
「アルディア様、オーパーツに関与しているであろう一つの子守歌が
エルヴィスタには昔から伝わっていますがお聞かせしましょうか?」
後ろを歩いていた騎士兵がアルディアへ話しかけた。
「子守歌...聞かせてもらってもいいですか?」
アルディアの返答に騎士兵は頷くと、
「光が散りゆき、闇が生まれし時、空っぽの器に違う存在が生まれたり。
その剣が彼らの心の臓を突き刺すのであれば、そこに迷いなき意思は目を覚ます。
その槍が彼女らの頭を射るのであれば、そこに魅惑なる母性は目を覚ます。
その銃が彼らの肺を撃ち抜くのであれば、そこに深き知識は目を覚ます。
そして、その矢が彼の想いを貫くのであれば、そこに偉大なる瞳は希望を取り戻す
...という歌でタイトルは『あなた達へ』と言われています」
騎士兵が言い終えるとアルディアは無言で考えていた。
「...難しいというか...深すぎて僕の頭じゃその歌に隠されている想いに
たどり着けない...」
独り言のように呟いた。
「...あはは!私でも分かりませんしきっとその歌を考えた人しか真意は
分かりませんよ、いくらアルディア様でも!」
聞いていたヘリサは笑った。
「それもそうですね...その歌を考えた人と話してみたかったな...!」
アルディアは残念そうな顔を浮かべる。
「ですがその歌はいつ、誰が作ったのかも分からないんですよね、ただ
伝わっているだけでも既に5000年以上は経過しているらしいですけど」
騎士兵の言葉にアルディアは驚愕し、ヘリサは無言で頷いた。
「5000年...でもそういう人々が何気ない暮らしを送っている中でも
伝わるものっていいなって僕は思います。
なんていうか...存在の証明というか、その場に確かに生きていたって証
を残せたら僕でも嬉しいですから!」
その言葉を聞いたヘリサや騎士兵達は誰もが共感した。
「私達がホワイトトゥルーやエルヴィスタというホームを守り続けるのと
一緒ですね、生きていた証...無念に亡くなってしまった皆と間違いなく
過ごしていたかけがえのない時間を、生きていた証明を残すために
私達は戦い続ける...覚えているよって...忘れてないよって!
皆の事を想いながらずっと...あ、ごめんなさい!涙が...止まんないや」
ヘリサの瞳からは涙が溢れていた。
騎士兵の中にも涙する者がいて皆思いやりのあるいい騎士兵達だと
アルディアは思った。
「それにしてもかなり荒れたな...何があった...?」
場面が変わるとアスルペは暗く、不気味な場所を飛んでいる。
「死の墓場...確かに雰囲気は出てるが霊魂が...デスミラーは役目を
サボってんのかいな...」
アスルペは「死の墓場」にいた。
「死の墓場」とは王都クルーシアを超えた最北端の険しい場所にあり、
人は誰も近付かない。
「あれは龍...ん?.....あれはっ!?」
アスルペは何か倒れている龍に気付いた。
「.....お前は...オールクラウン!?」
アスルペが見つけた龍、それは暴食達にやられた王そのものであった。
「...そういう事か...だから...私が呼び起されたのだな...何か危機が
起きたのだろうとは思っていたがお前がこうなるとは...思いもしなかったよ」
アスルペは王に近付くと話しかけたが勿論返答はない。
と思っていたが、
「おろろろろろろろーーーーーーー!?
王しゃまのお友達でしゅかねえええええええ!?」
突如、後ろから声がした。
その声の主は王を...。
何も知らないアスルペを不吉な影の大群が今にも彼女を覆いつくそうとしていた。