道化達。
一つの集団がその目的へ歩みを止めない。
「本当にヴェラーなんていんのかよ?」
アルディアが先頭、ダモスとイアが両脇、ヘリサがその後ろで
騎士兵を引き連れている道中でグレムが目の前にいるヘリサへ聞く。
「いないと皆がいなくなった理由が分からない...。
ただ道に迷ったとかそういうわけでもないだろうからバラバラになっていた
私たちを一人ずつ連れ去ったのかもしれないし、ヴェラーが何か
そういう能力を持った生き物なのかもしれないけど私も見たことさえ
ないから判断はうまくできない...私が皆の安否を確認しつつ
探せれば...」
ヘリサは悲しそうな表情を一瞬見せた。
「あーあ、これだから女ってのはめんどくせえんだよな!
姉貴だって人間なんだから自分の事で頭がいっぱいな時ぐらいあんだろー、
だからそん時は自分の身は自分で守らなくちゃなんねえし見つからねえ
仲間だってそれぐらい分かってっから誰も姉貴を責めねえよ!
皆強いからなー、ぜってー生きてる。
大怪我してもイアちゃんの魔法があれば大丈夫だろうし、とりあえず
頑張って生き抜こうぜ!サクリなんて刺された箇所3日で治ってんだぞ」
グレムの言葉でヘリサはふと気付いた。
あの戦いでかなり深く刺されたサクリは元気についてきている。
「そういえば私もイアさんと初めてあった時、イアさんとダモスさんが
お互い認識できないまま戦ってダモスさんが足に大怪我したんだけど、
それもあっという間に治ってたな...」
ヘリサは思い出しながら話す。
「イアちゃんってダモッさんに勝てんのかよ...やべーな」
グレムは驚愕の表情で先頭集団にいるイアの後ろ姿を見つめ、
「頼もしい戦力なので敵になってほしくはないですね」
グレムの隣にいたサクリが話に割って入る。
「大丈夫だよ!...きっと大丈夫。
だから今は警戒を怠らずアルディア様に仕えましょう」
ヘリサの言葉にグレムとサクリは、
「へーい、姉貴!」
「承知致しました」
と返事をすると間隔を取り、ヘリサの後に続く。
「お父様!!!...クライズ今帰還いたしました!」
場面が変わると、どこか城内で王の息子と名乗ったあの男が父を探していた。
「可愛いクライズ、こっちに来て報告してちょうだい」
彼の後方で女の声がした。
振り向き、視線を合わせると彼女は微笑んでいた。
「お母様!」
クライズはその女性をお母様と呼んだ。
それはイアの母であるメドリエ・ネイラーデだということでもある。
「それでアルマは本当に死んでいたのかしら?」
彼女は自分の部屋の椅子に座り、クライズを正面の椅子に座らせると早速問う。
「はい、アルマ・ライドは死んでいるかと。
彼女はいつも最前線で戦っていたと耳にしていたので僕も騎士兵達の多い
場所へ出向いたのですが姿は見えませんでした。
なので号令をかけていた隊長と思われる男を倒し、その場を去ろうと
思ったのですが...」
クライズは話すべきか悩むことがあった。
「...ですが?...何のことなの?...クライズ!!!」
不思議に思った彼女は彼へ問うが応答がなく、机を思い切り叩いた。
「あっ」
クライズはその音でハッと気付き、
「あ...その...闘将ダモスと名乗る男が...イア姫と一緒にいるようで...
何故かライド家と共にクルーシア兵を迎え討っていました...」
メドリエは勢いよく椅子から立ち上がった。
「...今なんと...イアが生きている!?
ダモスがイアを匿ってライド家へ寝返ったとでもいうのか!!!」
彼女は憎悪に満ちたような表情で机の上にあったものを薙ぎ払い、
周辺のものを殴り、蹴り、鏡へ額をぶつけたり自我を失ったように
暴れまわった。
「お母様...お体が...」
駆け寄ろうとしたがその姿に一瞬恐怖を覚えた。
額や手の甲、足の爪の周辺から血が溢れていた。
「...行きなさい。これから領内にも裏切り者に対して懸賞金を出す」
彼女はクライズに背を向ける。
「お父様に報告してから休みます。では失礼します」
クライズは部屋から出ようとドアノブへ手を差し伸べた。
ビュン!!!
ふと頬を何かが掠め、ドアを見るとナイフが深く突き刺さっていた。
振り向くと彼女は不気味に笑っていた。
「何か勘違いしてないかしら?
イアとダモスを殺しにいきなさいって言っているの!!!
龍と全軍引き連れていけばイアとダモスであれ討ち取れるはずよね!?
殺した証に首を持って帰ってくるまで帰還を禁ずるわ!!!
本当にライド家は災いしか運んでこないわね...
ママは疲れた...クライズ...いい子だからママを悲しませないでちょうだい。
返事は...?」
いつのまにか彼女は目の前に立っていて、耳元で囁いた。
「...はい、お母様...!」
彼女はその返答を聞くと笑みを見せながら扉を開けると彼の背中を強く押した。
振り向くとメドリエの表情には憎悪が戻っていてクライズを見つめたまま、
勢いよく扉を閉めた。
「くっそ...!全部あいつらのせいだ...あいつらだけは許さねえ...
イアとダモス...裏切り者に天誅を...
手柄取れば王の座は俺のもんになる...そしたらうるっせえメドリエも
追放してイアは俺の嫁にしたっていいなあ...全く笑えるぜ、
くそったれな連中ばっかでよ」
立ち去ろうとしたクライズの耳に衝撃音が聞こえた。
メドリエの部屋からだ。
何か物が落ちる音、バチバチという音、怒りに満ちているようだ。
クレイズは気になり耳を澄ませた瞬間、何故か音がしなくなった。
「早く行きなさい!!!」
シーンとした中、突然の怒声と共に彼の体を扉から耳に伝って電流が流れ、
そこでクライズの意識は途切れた。
王家の内情は誰もが思っているようなものではない。
強く、華やかで、どんなに遠い存在に見えたとしてもその内側は
結局人間なのだから。