覚悟を灯し。
目の前にいる龍、それはかつて親しかった「あの」龍ではなく。
アイアスが相手では分が悪い。
アスルペは攻撃を避けつつどうすればいいのか悩んでいたが、
ふと気付いた事がある。アイアスならば本気を出せば冷気で味方を守りつつ、
この森を覆う事だってできる。
それに目の前にいる竜の肉体はアスルペが知っているアイアスとは
どこか違っているがクルーシア兵は間違いなく龍と言っている。
力が弱まっていると感じるのはアルマとの契約がなくなったからか。
それとも老いか。
あるいはまだ自我が多少残っているのか。
アスルぺはずっと気になっていた。
「...アイアス...!私の声が聞こえないか...!?」
問いかけるも、応答はない。
と思った瞬間、
「...アスルペ様...」
と目の前にいる龍が口を開く。
アスルペは希望を取り戻したような目でその龍と視線を合わすが、
「戦っているふりをしながら静かにお聞きください。
僕は母上ほど強くはないのでアスルペ様に攻撃する気も、
攻撃される気もないですし、自我もあります」
アスルペはその言葉に安心したような表情を見せた。
「子供がいたとは驚きだな...。
それよりも今はこの状況に至った理由とアイアスの安否を聞いても
いいだろうか...?」
アスルペとその竜は空中で冷気と風をぶつけ合いながら
言葉を交わす。
「...はい。その前に名乗らせてもらいます、僕はザイス。
少し前に母上がアルマ・ライドとの契約の終了に伴い、僕らの巣に
帰ってきました。
母上は強いので僕達の前ではずっと元気に装っていましたが、
それでも毎晩月を見上げながら悲しい表情をするんです...彼女との
別れはとても辛かったんだと思います。
そんな日々を過ごしていたある日、突然夜中に兵の集団やトロールが
巣を包囲していたんです...。
氷龍の一族は母上や猛者が多く、抗ったのですが犠牲も多く出ました。
仔竜を捕らえられて、母上も捕らえられそうになった時に一筋の矢が
兵の心臓を射抜いたんです。
矢を放ったフードで顔を覆った人物は母上を見ると、連れてきていたで
あろう数十匹もの竜達に何らかの指示を出して母上を連れ去ってしまいました。
僕と妹は言葉を交わしてひとまず妹にその者を追わせ、僕はひとまず母上になりきり
兵達の攻撃を止めさせて捕らえられている仔竜達の安否の確認
もしようとわざと捕らえられようと思ったんです」
ザイスの回想では、その氷で覆われた白銀の地の一部が赤く染まられていた。
「...その結果、私と今ぶつかっているわけ...か。
ザイスといったな...私の主がそれを知ったらきっと助けると
言い出すだろうし、もちろん私も救う。
だが、そのために一つだけ聞きたい......フードの人影とはアルマでは
ないのか...?」
ザイスは一瞬驚いたような表情を見せた。
場面が変わる。
「アルディア様ーーーっ!姉貴ーーーっ!」
ダモスが見つかったと知らせを受けたグレム達が森から姿を現す。
「ヘリサさんってグレムさんの姉なんですか?」
アルディアがヘリサに疑問を問う。
「...小さいころから弟のように面倒みてただけなのです...。
あんな口の悪い弟はいらないですけどね...!」
ヘリサはグレムを睨みながら見る。
「...彼らにもこの戦いの最前線を務めてもらうからヘリサさん、
これからの動きの説明よろしくお願いします。
あとはアスルペの元にトーダスを借りて、僕とイアさんで伝えにいく。
...準備はいいかい...!?」
アルディアは仲間になった4人にそう問う。
すると4人は頷き、
「...アルディアがいたぞー!敵襲だーーーっ!」
と叫びながら森に入り、敵の多いほうへ向かっていった。
「...ヘリサさん!後は任せました...!」
アルディアとイアはトーダスの背に乗り、アスルペの元へ向かった。
「...意外と統率力あんのかいな、あのお坊ちゃまもよ...!」
グレムがそう言った途端、ヘリサのげんこつを食らう。
「お坊ちゃまやめんか...!
一族のリーダーになるべきお方に対してその言葉遣いなんとかしなさい!」
二人が顔を見合わせていると地響きが近付いてきた。
「...来たわ...グレム、ロイの後を継ぐのなら覚悟を持ちなさい。
その命は主を守るためのものよ」
ヘリサは真面目な表情でグレムに言った。
場面が変わると夕陽が出ている中で、アスルぺとザイスが
ぶつかり合っているが当然本気ではなく、演技だ。
「そうか...。違うのなら安心だ...一つだけ言っておこう。
彼が、私の主でアルマ・ライドの息子、アルディア・ライドだ」
アスルペが周りの冷気や毒霧を払うとその中から1匹の竜が姿を
現し、その背には2人乗っていた。
「アスルペーーーっ!今すぐ毒霧で森を覆え!!!」
迷いのない、そんな彼の瞳は運命に抗っていく事への覚悟を灯していた。




