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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
血筋の復活
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陽の報せ。






 「まさか...彼女が今ここに...存在すると!?」






 トーダスは思い出したとはいえ忘れていた事を後悔した。

今視線の先にいる龍は間違いなく、トロールに「呪い」を与えている。


「彼女ならきっと大丈夫...神龍様で竜族の中でその毒は悪を呪い絶やす

と記されるほどだから」


トーダスの言葉に一同は目を見開き、毒風を操る龍へ視線を移した。


「アスルぺが...神龍...!?」


アルディアも驚いた。

どこか普通の竜ではない事は卵から孵った時点で誰もが分かっていた。

普通なら卵から竜として生まれ、年月をかけて龍となる。

だがアスルぺは間違いなく卵から孵った時点で龍といえる姿だったのだ。

もしかしたら共通点の多いアルマ・ライドの龍である「アイアス」も神龍と

関係のなる龍なのではないかとアルディアは思った。


「アルディア、彼女は自分の使命を果たすべく現れた。

その使命に君が間違いなく関与していて、時間がないというのは

何かアスルぺ様が大事な事を君と共に成しえるつもりなのだろう。

じゃなきゃ幻龍と呼ばれる彼女が現れる理由なんてない...」


トーダスは青年に現れた理由を話した。

青年と神龍、その2つの存在も必然という運命で繋がった。

その神龍がこちらを見ると、


「トーダス、ありがとう。もう降りてきて構わない」


と礼を述べ、アスルぺの体を包む風が毒霧を払う。

老人は自慢のトロールが成す術なく倒れ、絶句している中で

竜は地に降り立ち、


「アルディア、覚えておくといいよ。絶闇教本に書かれている事は

死者も生きてる者も闇に呑まれて姿を変える術式。

絶闇教本とは本来ムーンイーターが持っていたはずなのだが、何故か

出回っているらしい...とりあえず鎧も無しで近付いてはいけないよ」


老人を見ながらアスルぺはそう言った。

アルディアは聞き逃さぬように聞いていた。

それを見ていたトーダスには一つだけ分かった事があった。


 間違いなくアルディアを育てている。

使命のためか、何のためかは分からないが今は無力な青年に何かを

求めていた。


「さて、戻ろうか。黒幕はここにはいないようだ」


神龍はそう言うが、老人はまだ生きている。


「神龍アスルぺ様よ、彼を逃がす事にイアは反対ですわ」


イアの言葉にアスルぺは反応した。


「彼が呼吸をするたびに毒が肺まで入っている、あとは時間の問題だ。

そして私を神龍と呼ぶとは面白い少女だ、それはトーダスの教えかな?

それはいいとして、昔話でもしようか。

私はそう呼ばれはするものの神龍ではない。

彼らによって一番最初に創られた龍が私だが特定の使命を果たすために

産まれ、トーダスのように神龍の血を継いでいるわけでも、普通の竜でも

なく、唯一の存在であるゆえに昔は常に神龍達のそばにいたから8番目の

神龍と呼ばれるようになっただけなのだ。

私は転生を繰り返しながらも使命に関わりを持った人と竜を愛し、

使命を終えた後は次の使命が神龍から告げられるまで永い時を

自由気ままに生きてきた。

時に神龍達に意見をし、時に人に使命を与え、転生後は卵の状態の

ままひそかに導きを待っていた。

今の私は転生を7回繰り返したが神龍のように一部の記憶だけじゃなく

全ての記憶を保持している、まだ危機はあっても人に助けられた事で

一度も死ぬ事はなかったのでな。それもあって私にとって転生とは

脱皮のようなものだな、ボロボロになった肉体を一度リセットする。

そして卵が少女に拾われてアルディアへと導かれたのだ」


アスルぺが事情を話すも、人であるアルディア達にはとても

考えられないような一生だった。


「神でも普通でもないって中々すごすぎる話だとイアは思うのだけれど」


イアは考えるのが苦手で悩ませながら言った。


「ならその使命とは...?アスルぺ様、聞いてもよろしいですか!」


ヘリサが好奇心旺盛に聞くが、


「ヘリサ...!失礼にも程がある...!」


トーダスに怒られた。

だが、


「単なる悪者退治だよ、この老人のように心が穢れた連中は

多いからねー」


とアスルぺは何ともないように話した。

ヘリサは何かもっと重大な事だと思っていた。

イアもアルディアも予想と違った。


「あ、期待はずれでごめんねー、でも本当にそれだけの事」


と3人の顔を見ながら言った。




「ドサッ」


と何かが倒れる音がしてその場にいた全員が音のしたほうを見ると

老人が倒れていた。

体中には血液が毒で侵されたかのように紫色に染まった血管が

浮かび上がっていた。


「私の毒は悪を呪うための毒であり、私の風は希望に力を運ぶために

ある。もう用はないし、必要な話もないから戻るとしよう」


と言うとアスルぺは一瞬で舞い、トーダスは3人を背に乗せ

アスルぺの後をついていく。


「そろそろ...か。それにしても美しすぎる夕暮れだな」


アスルぺは夕暮れの中を飛びながら、エルヴィスタに着いた昼間とは

違う光景の中で小さくそう呟いた。




 場面が変わり、大勢の集団が争っている。


「霧が晴れたということはアルディア様達は勝ったのだーっ!

なら我々も吉報を届けようではないかーっ!」


とロイが白装束に発破をかける。

ダモスも戦っていて、周りには大勢の者が倒れてはいるが筋を切られて

いてうごめいている事しかできない。

止めを刺すことができない以上、今は動けなくすることが最善であった。

少しずつ金属音が薄れていき、戦いにも終止符が打たれようとしたかに

見えた


が、それは周りにいる仲間達がひそひそ何かを呟きながら一点に視線を

向けていたからだ。


「なんで霧が...またっ!」


誰かの叫びと共にロイとダモスはその方向を見ると、アルディア達の

方向とは真逆から霧がでてきていた。

これでは体力も気力も持たないと、


「もう少し...」


ロイが声をかけようとしたその時、


「うるっせぇぇぇんだよっ!じじいはさっさとくたばれやーーーっ!」


陽の沈む方角から翼の生えた大きなものの背に乗る何者かの声がして

振り返ると、






真っ先に陽の光で視界を奪われ、それを待っていたかのように

老人の喉を長く鋭い槍が貫いた。




 希望に満ちたようなその光でさえ、ときに一つの儚い輝きを奪うのか。


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