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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
血筋の復活
14/123

風を纏いし龍。






 運命は残酷な選択肢を男に告げる。






 「ロイ...何か知ってるの...!?」


ロイの見開いた目に気付き、ヘリサが問う。


「ヘリサ様、奴らは初めに襲ってきた時から間違いなく一定に間隔を詰めて

きており...これが何を意味するのか...」


一同に悩んでいる時間はなかった。




「ヘリサ様!ロイ様!どうか早急にご指示を!」


と1人の白装束が慌てた顔で空き家に入ってくる。


「ブルード、民家に近づけないように皆を引き連れて入口を守れ!

俺もすぐに向かう!」


その指示にブルードと呼ばれる男は急ぎ皆の元へと向かい、ロイは

4人の方を向き直り、こう言った。


「ヘリサ様...どうかお友達と共にお逃げください...」


と。

その表情は眉間にしわを寄せ、いかにも無念という感情が読み取れた。


「...できない...今までずっと共に過ごしてきた仲間を、ホワイトトゥルー

を見捨てる事なんて...なら私も残ります...!イア様とダモスさんがいれば

きっとアルディア様を強きお人に育ててくらっしゃる...」


ヘリサの涙を見たダモスが、


「...ダメです、ヘリサさん!何か、皆で生き残れる方法がある

はず...ロイさん、わたしは元兵士なので戦う事だってできます!

50人や100人ぐらい何とも...」


口を開くがロイに遮られた。


「いや...奴らは死なない...ただ一定の時間になると消えるだけなのだ。

ましてや我らにとって客人であり戦わせる事など...」


外からは怒声と金属音の音や白装束の竜の鳴き声のようなものが聞こえる。

アルディアは腕を組み、俯きながら口を動かし何か考え込んでいた。

イアはその様子を見つめているようだが、一瞬彼女の口角が上がった気がした。


「...きっと今回は耐えきる事ができたとしても、次はないだろう...

ヘリサ様、ダモス様、それにアルディア様とイア様、我らが絶えた暁に

いつかきっと裏で操っているものを見つけ出して仇をとってほしい...

老体最後の我儘をどうかお許しを...」


そう言ってロイは背を向け部屋を出ようとした。

が、その時、


「いや、ロイさん待ってください。それは我儘すぎますし、

聞く気なんて一切ありません。

命は物なんじゃないんですからそんな簡単に投げ出すような

行動を僕は許さない...そして霧の根源、裏で操っている者が

判明しました...!」


そう言ったのは物静かで最近まで意見をほとんど受け入れる側だった

あの青年だった。

イアとアルディアを除いた3人が驚いた表情で彼を見つめ、その意見にも

驚愕した。


「アルディア様...!」


ヘリサはふと思った。

アルマに似ていると、この青年はこんなにたくましい表情をするのかと。


「アスルぺが霧の根源周辺に数名の人影を発見したらしいです。

ロイさんとダモスさんにはここで皆と防衛を、魔法を使えるイアさんと

村人の顔が分かるヘリサさんには一緒についてきて欲しい...!」


アルディアは龍との対話がドラゴンテレパシーで成り立つ事を初めて体感し、

人と龍が心を一体化させることで両者がそばにいなくてもある程度の距離なら

心で話し合える事に気付いた。

そして、この青年からの指示によってヘリサの頬を滴る絶望への涙が、

希望への涙へと変わる。


「似ているでしょ、ロイ。アルディア様はアルマ様に...!」


そう自慢げにロイへ視線を送ると、


「...我らを守ってくれていたアルマ様があんな事になってしまった

以上、これからはアルディア様に我らの未来を託しましょう...!」


ロイも少々涙ぐみながら青年を見つめたが、ヘリサはアルマの存在が

既にイリミルの集落にないことを分かっている事を思い出し、俯いた。


「さっき一人でぶつぶつ考え込んでいたのをずっと見ていたイアは

とっくに気付いていたのよ。

もう少し早く気付いてくれればよかったのだけれど。

それにか弱い女を2人お供に連れていくとは中々いいお身分だわ」


イアがアルディアに皮肉を言うと、


「...あれ?アルディア様の考え込む姿をずっと見ていたって...

イア様...もしかして気があるのでは...?」


ダモスの発言にイアは顔を真っ赤にし、


「...えっと、あ、アルディアさんになんかちっとも気がないわ...!

何も話さないからさぞかし心を痛めて落ち込んでいるのかと思って...

ほんのちょっとだけ気になってチラッと見ただけよ!悪いの!?

...ダモス...あとで覚えておくといいわ...!」


そう言うと背を向け、手で皆へ「早く行くわよ」とでも言うように合図をし、

外へ出た。

その姿にイアを除いた4人は笑い合い、表情を引き締めて空き家を出る。

真っ先に外へ出たイアは刺されても立ち、騎士兵達の竜に噛まれ、砕かれても

立ち上がるその奇妙な生き物を4人の中で一番最初に見るはめになった。


「...気持ち悪いわね...操っている者は悪趣味にも程があるわ。

イアをいじめるダモスはそれ以上に悪趣味なのだけれど...」


そう言うと、青年の声が聞こえてきた。


「ロイさん、ダモスさん...僕たちが戻るまでどうかご無事で...!」


アルディアは二人の無事を祈ると、ダモスはロイから剣と鎧を渡され

二人はアルディア達のほうへ一礼すると駆けていった。

ふいにアルディア達3人の後方から風が吹く。

振り向くと「その龍」はいて、アルディアと視線が交わると降り立った。


「ドラゴンテレパシーの決断は見事だったね、アルディア。

あとは私が根源まで導こう。

だが相手はおそらく何らかの術が使える、そちらの女性達も一応

用心することだ、魔法が使える子と...竜騎士かな」


ヘリサ達は当てられて驚いた表情を見せ、その様子に龍は優しく

笑ってみせた。


「最初に忠告だけしておこう。

私は毒と風を操る龍ゆえ多量の毒が孕んでいる尾には死にたくなければ、

近付かないように、さていこうか」


それを聞いたヘリサとイアは顔を見合わせ、すぐさま尻尾から離れ、

アルディア、イア、ヘリサ、の順で乗るのを確認するとアスルぺは

一瞬で天へと舞った。

トーダスと速さが違うのは彼女が風を操る龍だからなのだろう。


ただ飛行中はまだ鞍を持っていないアルディア達が落ちないように

速度を多少抑えてくれているようだが、それでもトーダス以上に速い。

霧が見えたのもつかの間でどんどん濃くなってくる。

だが、


「私の前で霧など何の意味も持たないのだぞ」


とアスルぺが呟くと彼女の体を風が包み、大きくなるにつれて周りへ

広がっていき、一瞬で視界を覆っていた霧が晴れると辺り一帯がよく見える。


 そこには数多くの地に倒れている人の集団と30人ぐらいが

何か赤い液体状の入った大きな器に入っているのが見えた。

器に入っている人は誰も動かない。


ふいに器の影から一人の老人が現れ、こちらを見た。






「...あれは...長老...!?」


ヘリサの声が虚しく響いた。




 イリミル、エルヴィスタ、二つの村で異変の中心にいる長老という存在。

これは偶然か...?これもまた必然なのか...?


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