最初の村。
光の中から現れた「存在」、それはアルディアにとっての運命そのものであった。
「血と闇...?繋がりし羽...?...何を言って...というかあなたは...!?」
その姿は顔から長い尾の先まで漆黒の鱗で覆われ、羽は銀色に輝いており、
左目だけ黄金に輝いている竜、いや龍であった。
「今は分からなくても全然構わないよ、ただ私には君がそう見えたのだよ。
いつかは分からないがきっとそうなる存在が君だ、アルディア。
これは龍である私と、ライドの血筋を持つ君の間にできた必然の出会いで
ずっと探していたのだ。
君に出会えた以上、契約も誓いも望むのなら何でも受けよう」
アルディアには状況が全く理解できていなかった。
周囲も凍り付いたように誰もがその龍の存在から目を離せなかった。
「僕はまだ弱いから...何も力にはなれない...契約や誓いの事も何も」
素直に自分の無力さを話した。
「私だって弱い、だったら共に強くなっていこうという選択肢はないかな?
誓いや契約の事も君が強くなれるのなら知りたい事は私が知ってる事を
全て教えよう。
そして、そっちのアルディアに刃を向ける者は全て敵とみなすが
構わないな?」
敵と思われる集団に、龍は尾を地に叩き付け威嚇する。
その姿にアルディアに同行してきた3人、竜であるトーダスさえも少々
恐れを抱いた。
「...」
集団は龍の怒りを察したのか何も言葉を発さず驚いたことに霧のように
姿を消した。
それを見た龍は、
「...あれは全て死者か...」
ポツリと呟くと、
「さて、私は確かめなきゃいけないことがある。
近くの村まで送ってはやれないが、もう襲ってくる様子もなさそうだ。
アルディア、命が危ない時や何か話したい事があれば心の中で私を呼びなさい。
私の名はアスルペ・テミルス」
と名乗ると空高く舞い上がり、どこかへ飛んで行った。
「...アルディア様...これは一体どういう...どうして龍の声が
私達にまで...あの龍は...」
沈黙に包まれていた周囲にヘリサが口を開いた。
「僕にもよくわからなくて...イアさんのリュックから力が欲しいかって
問われて応えた結果なんだ...トーダスも見ていたはず...」
アルディアはありのままの事を話し、それを聞いたヘリサはトーダスの
顔を見るとトーダスは頷いた。
すると、突然イアがアルディアの前まで詰め寄ってきて、
「イアの卵ちゃんを奪うなんて、これは大罪に値するわ。
一生下僕になってもいいぐらいかしら」
そういうとアルディアを見下したような目で見る。
「イア様、それは...イア様ではできない事だったのではないかと...」
イアの後をついてきたダモスがそう言い、
「分かっているわ、ダモス。ちょっとからかっただけよ。それにしても
龍の声なんて初めて聞いたわね」
少女の発言に周囲の人や白装束の集団も首をかしげていた。
すると突然、
「ヘリサ様!」
白装束の一人がヘリサの名を呼ぶ。
「...ロイ!?」
ヘリサは男をそう呼ぶと、
「ヘリサ様、一度村で戻ってから話をしましょう。ここらは最近
物騒で安全を保障できないのです」
とロイが白装束を従え、ヘリサ達4人を村まで案内した。
村に着くと人の気配が少なく、賑やかな村とは言い難く、
それをヘリサはずっとキョロキョロ辺りを見渡していた。
白装束はどこか建物へ入っていき、ロイは4人を連れて一つの空き家へ
入った。
「改めて名乗らせていただきます、私はロイ・ガンレイ。ヘリサ様の補佐役
の者です」
ロイから放たれた補佐役との言葉にヘリサを除いた3人はヘリサのほうを
見る。
「...あっ!ロイ、ちょっと待って...私のここでの事何も教えてなかった!
えっと、アルディア様とイア様、ダモス様、私はここでは白装束である
『ホワイトトゥルー』と呼ばれる騎士兵のリーダーもやっています!
そしてロイ、この方がアルマ様の息子のアルディア様とそのお友達である
イアさんとダモスさんよ!」
ロイと3人は見合うと会釈し、アルディアを見て
「あなたがアルマ様の...よくぞご無事で...!」
と言うと、一瞬涙ぐむような表情を浮かべた。
その後に続けて、
「先ほどの話の続きでしたが、ヘリサ様がアルマ様の手紙を受け取って
出向いた日に初めて奴らが黒い霧と共に村に現れ、助かったのは一部の
一般人と迎え撃った我ら白装束だけで長老も多数の一般人も奴らが霧の
ようにいなくなったと同時に姿を消してしまいました...。
戦闘慣れはしていないようでしたがどんなに攻撃しても戦闘不能には
ならないのと数が多すぎるので、死者に何か術式をかけて裏で
操っている者がいると我らは考えています」
その話にヘリサは驚愕の表情で、3人も気の毒だという感じの
表情で聞いていた。
「だから...静かだったのね...何であんなに賑やかだった村が...くっ!」
拳に力が入る。
「正直な話、ヘリサ様がもしお帰りにならなければ少し疑っていたかも
しれませんでした。どうか、少しでもそう思ってしまったわたしを
お許しください...」
ロイはヘリサに頭を下げた。
「敵襲ーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
突然、そう叫ぶ声が5人の耳に入り、それにロイの目は驚愕していた。
「...間違いなく...だが、なぜ...!?」
男の瞳が映したもの。それは間違いなく近づいてくる絶望のほんの一部に
過ぎなかった。