それが本来の。
自分を、誰かを、何かを守り続けるためには犠牲と盾では所詮その場しのぎでしかなく、本当に守りたいからこその矛を。
(お嬢、今日で何日経ったかな......当分一人にしてくれとは言うが、やはり心配だ)
森の中で仔竜達が元気に戯れている様子を眺めながらジャックは「彼女」を心配していた。
「...お前ら、あまり遠くには行くなよ」
彼は何かを決心し、そう告げると横になっていた体を起こす。
「ジャックおじちゃん、お姉ちゃんに会いに行くのー?」
四体いるうちの一体がジャックへ問い、他の三体も彼を不思議そうに見つめた。
「お前らの親には内緒だぞ?...おい、お前のその背の......まさか!!!」
ジャックは質問してきた仔竜の背にある妙な突起を見て、何かに気付いたのか勢いよく森奥へ駆け出した。
「......おじちゃん、どうしたんだろうー?」
「変なのー」
「おめえのそのイボイボがキモくて逃げたんだろ」
「あー!?お前言ったな、コノヤロー!!!おじちゃんだってついてるだろうが!!!」
駆けていくジャックの背を見つめながら仔竜達は話していた。
(お嬢、まさか......エネルギーが大地を通じて漲っているのは分かってはいたが、
俺達の肉体にまで影響を及ぼし始めてきているってことか...なら今のお嬢はもっと......)
ジャックの脳裏に一瞬トーダスの父、「ドレイク」の姿が思い浮かんだ。
(いや、お嬢なら大丈夫なはずだ!......だよな?お嬢!!!)
ジャックが心の中で「彼女」の名を叫びながら俯いていた顔を上げると、いつのまにか
森が開けていて目の前に一体の竜の背が見えた。
「......は?ドレイクか...?だが何故ここに!!!?」
ジャックはその背に身に覚えがあった。
(首から尾にかけて刺々しく、両肩から二本の蔦のように伸びている触覚......大きな翼......!)
その竜の容姿を隈なく見つめ、目に焼き付けていたジャックに気付いたのか、目の前の竜が
振り向き、
「ドレイクなんているはずないでしょ、馬鹿な事言わないでよね!」
と口を開いた。
「お嬢......か!?」
目の前の竜の声は彼の知っている「彼女」の声よりも随分低く、それよりも彼女なのだとしたら
以前はなかった彼女の祖父のような「額の二本の角」と「鼻先の一本の角」に目がいった。
「...その角は......体格も随分大きくなって、ドレイクのように暴走はしていないんだな...?
苦しくはないか...?」
ジャックは問いながらも「彼女」がこの姿になる過程で経験したであろう苦しみを思い浮かべて
、その場に泣き崩れた。
「......苦しんでいるのはあたいじゃないわ、あんたらでもない」
彼女の「あんたら」と言う言葉にジャックは周りに多くの緑竜達がいつのまにか集まってきて
いた事に気付いた。
「......本当に苦しくて辛いのはあたい達が敵と殺し合う姿を嫌でも一番間近で見させられる大地の
草木や人と竜以外の動植物達よ。誰かが自分の上で横たわり死んでいくって...誰かの血が自分の上に
飛び散ってくるって...誰かが自分達を踏みつけたり、地を抉るって言うのよ。彼らは足がないから
風に運ばれた地で芽生えたら一生そこで世界を眺める事しかできないの.....なのに望んでいない
光景ばかり見せられてしまう.....本来ここはじじいが緑竜達と自然を守るために作った場所なのに
悲しむ生き物がいるのは見過ごせない!もう守りに徹するのは終わり、あたい達は現状維持した
って守れていない者達が数多くいたんだから悲しむ者達のいない未来を開拓する力が必要なの。
ただドレイクとは違う!!!覚えておきなさい、本来個々の強さってのは敵を殺すための力では
ないわ!自分達の未来を守るための力よ!!!」
そう叫んだ彼女が両肩の触覚を一本に交えると神々しく輝き、
「...あれは...!」
「そんな...まさか!?」
「やっと...!」
「...イリミール様!!!」
「お嬢!」
その様子を見つめていた緑竜達が何かに気付くと周りがざわつき始め、
「美しいカキツバタだ.....ドライズの旦那も綺麗なサルビアだったが、お嬢も負けていないな。立派な『命の樹』だ!」
ジャックがイリミールの「それ」を「命の樹」だと確信した。
「あんな裏切り者と比べないでよね!!!...にしても約二週間篭りっぱなしで体が鈍ってるわー、ん?海岸沿いの草木からイメージ送られて......」
脳内に送られてくる映像にイリミールは絶句した。
「......じじいが来る...」
彼女の脳内に自分の祖父と同じ容姿の生き物がこの大陸周辺の海を渡ってきていて、もはや上陸するであろう事に
気付いた。勿論それが自分の祖父ではない事にも当然気付いている。
「近々大きな争いになりそうだけどこの大陸に血が流れるのはそれで最後にしたいわ、
とりあえず誰か急いでガキんちょを連れてきなさい!!!北側の森が最近開拓されてるみたい
だからおそらくその辺にいるわ」
彼女は草木から送られてくる映像でアルディア達の居場所を突き止め、指示を出す。
その指示によって三体程の緑竜達が駆け出していった。
「ジャック、さっきあたいの背を見てビビってたみたいだけど自分の見てみなさいよ」
唐突なイリミールのその言葉にジャックは振り向いて確認すると、
「...俺にも刺々が......ついている!?いつ生えたんだ、全く気付かなかった......まさか三本の角も!?」
彼は驚愕した様子で周囲の仲間を見渡すが、
「残念ながら額と鼻先の角はあたいだけみたいだわ、あんたらを従えるのならあんたらより
勇ましくても損しないからいいけど!ナメられても困るし」
ジャックは三本の角に憧れてたのか、少々落ち込むように肩を落とした。
「あんたらも悲しまないでよね!パワーアップもしてあげたんだから強くなった
あたい達の力を傲慢にぶつけてやるんだから!傲慢をぶっ倒して、じじいを取り戻すわよ!!!」
リーダーの力強い言葉に周りの緑竜達は朝日の出始めた天へと雄叫びをあげた。
「ふぁー...」
場面が変わるとアルディアが目覚めたのか、仰向けになり目を擦りながら欠伸をしている。
「......外がやかましいわ、イアの眠りを妨げる竜達にはお仕置きが必要な様子ね......
不思議な夢見てたのにぃぃぃいいい!!!」
イアも突然聞こえてきた多くの竜達の鳴き声で目が覚めた。
「...どんな夢見てたんですかー、イアさん」
アルディアはイアに問う。
「竜が来るーって女の子が叫んでて.....どんな竜か聞いたところで目が覚めたわ!
気になるところで起こされたイアの気持ちが分かる!?うぅー...」
不機嫌そうにその場でゴロゴロしていたイアの様子を面白がるように笑いながらアルディアも
自分がどんな夢を見ていたかを思い出そうとすると、
「......どんな夢見てたんだっけ...」
何も思い浮かばなかった。
答えは一つ、ただそこに辿り着くための道が数え切れないから迷うだけ。




