真実を見つけ出すために。 〜外伝〜
あってはならない、その分岐による大罪の。
これはかつて人がまだ龍への信仰を忘れていなかった時の話。
「お母様、わたくしもお母様のような民に尊敬される人間になりたい!!!わたくしはどうしたらなれるでしょうか?」
どこか大きな部屋の中で7歳ぐらいの少女がソファーに座りながら隣に座っている女性へ問う。周りには大きなベッドと机や衣装タンス、王冠などの飾ってある棚やソファーがあり、少女の真横に座っている30代後半ぐらいの女性は母親らしい。
「お前は今のままでもいい子だよ...艶のある綺麗な長髪にくっきりとしていて青空のようなとても美しい瞳、鼻は高くてすらっとした手足、容姿では誰にも負けないだろうし、物事をきちんと理解して正しい選択をできる頭脳がある。未来では我の座を継ぎ、我が死ぬまでに成しえなかった事をお前が成しえるのだ。人の一生は一瞬でな、我の生きてきた数十年、これから生きる数十...いや、明日死ぬかもしれないし数年しか生きられないかもしれぬ.....だから成しえられない事だってあるだろう、未来とは誰にも分からないものなのだよ」
母親は優しげな笑みを浮かべ、少女の頭を撫でながら言った。
「......お母様もいつかいなくなっちゃうの?わたくしはそれがとても寂しくて...悲しくてきっと耐えられないわ......」
少女が哀しげな表情で母を見つめる。
「あぁ、我もいつかは必ず死ぬ......だがそれでいい、それが正しい自然の掟なのだ」
少女は既に「いなくなること」=「死」であるということは理解している。だからこそ母が自分の死をも悲しまず、寧ろ清々しく話す事が不思議であった。
「......人には生きている以上、必ずそれぞれにとっての役目や使命、宿命といったものに気付く日が来る...メドリエ、お前もまだまだ若いがいつかきっと気付くであろう。我も民の事、このクリューシャをよりよくするためにはどうしたらいいか、これ以上に何を成す事が我の使命なのか、そう考えているうちにふと気付いてしまったんだ......我の使命はもうとっくに果たしていたのだと。人だけじゃなく、生き物全般にどんなに努力しても『できる事』と『できない事』が存在している。たとえば農民のなかには力仕事がとても苦手な分、雲の流れや空気の匂いで次の日の天気が分かり、それだけは誰にも負けずにこれが使命なんだと生き甲斐として生きている者とどんなに努力しても分からない者、クリューシャ兵のなかには逃げ足はとても遅く、息切れしてしまうほどだが戦闘の際には敵の次の行動を読むのが得意でそれを生き甲斐として生きている者と全く読めない者が存在していて、だからといって後者の農民やクリューシャ兵が役立たずであるという事は絶対にないのだ。何故なら後者の農民の中には力仕事が他の誰よりも得意な者がいたり、後者のクリューシャ兵の中には足が誰よりも速くて偵察として優秀な者がいたりする事を我は知っている。人それぞれ得意な事や不得意はあるが、それも一つの個性だ。自分にとっての夢や目標を追っている最中にもし老いや大病に負けてしまったり、それが不得意な事でどんなに努力してもどうしても成しえる事ができない場合はその夢の続きを自らの子に託せばいい。血を紡ぐという行為は愛し合って交わるだけの物理的な意味だけではない。愛情を込めて自分の血を通して次の世代に夢や目標、使命や役目をその紡がれた子だけが成しえる事ができる宿命として託す行為でもある。この国を作り、強くする事だけが我の使命だったらしいが、これ以上の事は我にはきっとできない、年齢的にもお前が姫の座を継げるようになるまで現状維持する事で正直精一杯だが、弱みは見せられない。我の甘えで愛する我が子を馬鹿にされたりしたら優秀な娘であるお前に合わせる顔がないからな。あぁ...お前の存在で我の血が紡がれている事が何よりも嬉しい...立派な姫になれればいつかお前にも子ができ、我の夢と共に子々孫々紡がれていくであろう。親としての役目、姫としての使命、我にとっての宿命、それさえ成しえられているのなら我は死さえ喜ばしく思うぞ。何もかもを終えた者は還るべき場所へ還るだけ、『死』とは役目などそういった類のものを終えた者を迎えにくるものなのかもしれんな、メドリエ」
その少女は若き日のメドリエ・ネイラーデ本人であった。
「.....わたくしは死にませんわ、お母様がここまで立派にしてくださったクリューチャ...あ、クリューシャをもっと強く、もっとよりよい国にするまでは絶対に、絶対に!!!」
メドリエは途中で噛んでしまい顔を赤らめながらも必死に母へそう誓った。
(......心配しなくてもお前だけは本当の意味で『死なない』、『彼』がきっと『勝ち逃げ』を許してはくれないであろう...。どうして美しく、才ある我が子が......その優しさが呪いを運びこんでくるとは...おぞましい、なんて恐ろしい。もうこの国の誰も逃げられない...誰にも見つからずに守っていくしか...いや、それでもクリューシャの未来に希望はなくなってしまった.....雷が止まぬ限り、真相など誰も知り得ない...)
母親はメドリエの元気な誓いに微笑み、強く抱き締めるがその笑みが作り笑いだと子は気付かなかった。
抱きしめた瞬間、母親の表情は一瞬にして何かに怯えているような表情へと変わっていた事にさえ...。




