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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
命の樹へ。
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生きる喜び。







彼女達だけは未来のために生きていた。






「お嬢、そろそろ一旦中断して肉体を休めろ!俺らのことは後回しでいいんだ...皆、お嬢を心配しているんだぞ」


周りが木々に囲まれた場所でジャックは目線の先にいる彼女に叫んだ。 イリミールの肉体はボロボロになっているのだが出血や怪我というよりは老化という言葉が当てはまるのだろう。そして瞳を閉じ、険しい表情でその場に佇んでいるように見えるが「とある事」に気付いてから約2日間、何もしていなかった訳ではなく、

その「とある事」を成し得るためにはその場からは一切離れられなかったのだ。食事や睡眠も取れてはおらず、ジャックはイリミールの事が心配で心を落ち着かせる事ができない。


「......とてつもない力......気を緩めれば肉体ごと地に呑み込まれそうになるわ......だけど...木々が喜んでいるのが......分かるのよ...水も...岩も...この地にあるもの......全てが...空気を吸えることに...喜んでいる.....それが...嬉しい......あたいはそれが...嬉しくて...たまらない...今の世界で...ただ息を...吸っているだけの...連中は忘れて...いるのよ.....息を吸えるって......生きれるって......楽しいはずよ...本当は...どんなことよりも......喜ばなきゃ...いけない...はずなのに......一体どんな理由を...作れば...他の大陸の...連中は...生きるのが...辛いなんて......悲観して...生きれるの...よ......」


息苦しそうに途切れ途切れに話す彼女は、その場所に縛られる事で思い出せることがあった。


「......」


彼女の言葉にジャックは返答できない。


(......良くも悪くも自分勝手に生きてきたお嬢も命の樹に『見せられて』しまっては他者の心の内から目を背けることなどできやしない...ただ今はお嬢の心にあまり負担をかけたくはない......感情をコントロールできずに精神崩壊したトーダスの父、ドレイクのように暴走してしまってはお嬢を......俺は一体どうしたらいいんだ...アース様...)


イリミールに負担がかかるのを承知で今の状態をキープさせるか、一度無理やりにでもその場から離すか、彼にとってこの二択はとても悩ましい選択であった。


(.....命の樹とは咲かせようとする者の命を吸い取り続け、その吸い取った分の命を根から大地に注ぐ。すると大地に咲かせようとしたものの想いに比例した成分のある草木の種が芽生え、もしその想いが簡単に言えば『強さ』だとしたら、たくましく生命力のある草木となりそれを食べた生き物もよりたくましい肉体となるが......お嬢は命の樹とは力の象徴だと思っている...ドライズ様は簡単に言えば救済、癒しだと信じていて俺達も永い間守りに徹してきたがそんな時代ももう終わる...か......?終わらせていいのか......?他者を傷つける力だと思っているのなら俺はお嬢を止めるぞ......単なる力じゃダメなんだ、お嬢...気付いているか...?もう500年分の命は吸い取られているだろうな...お嬢が咲かせる芽を通じて

俺らも力が漲っている...)


ジャックは肉体の老いていくイリミールを心配そうに見守っていたが、ふと自分の肉体や夜でも活発に遠くで戯れる緑竜達の様子を見ながら思った。






場面が変わるとアルディア、イア、グレム、サクリ、ニコルとニコルの連れた兵達が約30名、森の中の闇夜を走っていた。


「ひとまず安全な場所まで抜けたら拠点を作る!今の世界に不満を持っている者達や仕方なくクルーシア兵になりすましている者に対して彼らのために居場所を早急に作るべきだと俺は思うんだ」


アルディアが走りながら話す。


「奴らはきっとしつこいわよ?まだ追っ手がその辺にいるとイアは思うのだけれど、この大陸に安全な場所なんてあるのかしら?」


後ろでアルディアの案を聞いていたイアが問う。

イアの左肩は血だらけで服が切り裂かれているが、これはヴァイオレットやクライズとの戦闘によるものか。


「安全な場所は探すんじゃなくて作ればいい。自分達で作ったもの以外で安全な場所なんて今のこの世界にはどこにもないんじゃないかな...」


困った表情で話すアルディアの言葉もイアは無言で聞いていた。


(......イアさんの怪我大丈夫かな...とは言っても皆無傷ではないか...)


イアの真横にいたサクリは付近の仲間達を見ながら戦闘時のことを振り返る。




「なんて気持ち悪い...本当に悪趣味ね」


外見の変化したヴァイオレットの姿にイアは呆れた様子で呟く。だがその瞬間、彼女はとてつもないスピードでイアに鋭く、長く生えた爪を構え襲ってきた。


「...ふぁっ!!!?」


そのスピードにイアは驚き、アルディアはすぐさま弓を構えるも狙いが定まらない。


バキッッッ


彼女の五本の爪がイアの左肩に突き刺さり、骨をも貫通すると鈍い音がした。


「.....ッ!!!」


一瞬の激痛が過ぎ去るも爪が刺さったままヴァイオレットは片手でイアを持ち上げ、イアの左肩付近をジンジンと強烈な痛みが襲う。


「こにぇこぢゅわあぁぁぁん」


目の前の女は自我がないようで長く伸びた舌をブラーンブラーンと垂らし、イアの様子を面白がっているような笑みを浮かべながら爪を引き抜こうと左右に動かして腕を引こうとする。だがイアからすればそれは肩付近の肉が抉られ、言葉では表せない程の痛みと言っても過言ではない。だが唯一、ヴァイオレットにとって誤算があったとすれば痛みに襲われる中でもイアが今の状態はこれ以上にないチャンスだと気付いてしまったことだ。


「......汚れた爪ごと...イアの雷撃で浄化してあげるわ.....」


イアは俯きながらヴァイオレットの両目に2本指を突っ込み、猛烈に痛がる彼女に聞こえないぐらい小さな声で呟いた。


「ライ・ボルト!!!!!」






少女の声が彼女の耳に届いた瞬間、両目に入ってきた少女の二本指から目の水分を通じて全身へ焼けるような痛みが襲った。




「生とは喜び」。

誰もが誰かに生きてほしくて与えられた命であり、その命がどんな理由を作ろうともその喜びから逃げる事が喜びであってはいけない。

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