思い込み。
それは人々の信じる「それ」のように。
(見る者と咲かす者によって姿を変える......かー。
あたいは何をすればいいってのよ...パパは命の木をどうやって
咲かしてたっけ............あ、ガキんちょ...!ガキんちょなら
小さい時に何度も見てるはず!!!...でも今は試練の真っ只中だろうし、
あーーー!...どうすればいいの...)
イリミールは森の奥深くで悩んでいた。
真上も木々で覆われており、光は入ってこない。
(......なんだか希望とか祈りとかそういうものと同じって感じ。
人によって目に見えるものは違うってことよね...?あたいの命の木は
ガキんちょに何を見せれるのかしら......難しいわ、あたいの頭でも
イメージが沸かない。パパのはただの1本の木だった...それでも人で
あるアルマやガキんちょには木以上の『何か』に見えていたってわけ?
......そこにはきっと絶大な力がある、何としてでも咲かせなきゃ)
「希望」と「命の木」。
その2つの共通点は人それぞれ違うものであり、「絶望」やその類の
ものを打ち破れる力がある。彼女はその事に気付いた。
「.......お嬢、大丈夫か?」
そこに突然、古傷のある竜が心配そうに近付いてきた。
「...ジャック、あたいは『命の木』を『一種の力』だと信じるわ。
世界を変えれるほどの影響力を持つものだと」
彼の名はジャックというらしい。そして、彼はイリミールの言葉を
聞くと険しい表情を浮かべた。
「それはトーダスの父である....あの...『奴』と同じ考えだぞ...?
『奴』はそう信じ、咲かせた結果...『命の木』を制御できず、その
絶大な力に意識を奪われ.....これ以上は言わなくても分かるだろ...
できれば考え直して欲しい、これはお嬢のためを思っての事だ」
ジャックはそう念を押す。
「...パパは......パパはどういう考えで木を咲かせたの...?」
イリミールのその問いにジャックは、
「ドライズ様は『命の木』とはその名の通りに命を咲かす事ができ、
命を救える木だと考えていた。そのおかげもあってか、竜達は増え、
かつては弱かったアースドラゴンも素晴らしい耐久力を身につけたさ」
彼の言葉にイリミールは確信を持った。
「......ジャック、『命の木』は咲かせようとするアースドラゴンが
何のために咲かせるかでその力は変わるってことよね...?」
しばし沈黙の中で見つめ合う中、イリミールには彼の瞳は何かを
恐れているように見えた。
「...」
それから数秒後、ジャックは頷くと、
(.......それなら納得がいく!見ようとする者によって姿を変えるって
のも...それはまさに.....あたいが自由に生きれるこの場所に、あたいの
この想いが希望を生む)
何かに気付いた彼女は儚げに目を閉じた。
「クライズ君のお友達ー?長ネギ君っていうのー!?...ちゃっかし、
後ろにニコルもいるねー。寝返ったの?...まー、いいけど」
場面が変わると後頭部に目玉のある女が驚いたように叫んでいた。
「...そんな目つきのわりー友達なんかいらねー...」
グレムがアルディア達に近付きながら呟き、ニコルは女を睨む。
「こちらこそお断りだ、長ネギは黙って調理されてろよぉ?なぁー?」
クライズは言い終えた瞬間、槍を構えながらも一瞬で間合いを詰めた。
「アル坊ー、サクリー、イアちゃんー、他の敵さん方は任せた!」
グレムはそう叫ぶとクライズの槍を剣で受け止めた。
「おー、若いっていいですなー!」
女は拍手をしながら少し離れた場所で戦い始めた2人の様子を見ていたが、
「...面白そうだなー...先にこっちをやっつけて、見物会しよーっと!」
と突然、イア達へ視線を向けた。
「今度は舌だけじゃ済まない、これは世界一優しいイアからの忠告よ」
イアは女を睨みながらも、両腕からは放電している。
「まだまだやれそうねー...めんどくさー.....で、男の子は?
まだまだいけ...っ!?.....あっぶなーいじゃない!!!」
女はアルディアを見るも、その瞬間にアルディアは3本の矢を放った。
「.....警戒してるんですよ?その奇妙な目で何をしでかすか...
こちらこそ仲間共々、危ない目に遭いたくはないんでね?」
アルディアはそう言い放つと、
(...アルディア様...雰囲気変わった...?)
イアとアルディアの後ろにいたサクリはそう思った。
「.....お姉さん...怒っちゃったーーーーー!!!」
青年の発言に女は目を見開くと、後頭部の大きな目玉もギョロギョロ
と動き、舌をチラチラ出し始めた。
(.....あ、やべぇなー。ミラー...じゃなくてヴァイオレット様、
ここで本性出されたらこの場所、崩れちまうだろうが)
グレムと戦いながらもクライズはヴァイオレットの変化に気付く。
「この世で生きるべきモノではないわ、イアが審判を下してあげる」
女を見ながら少しずつイアは全身から放電し始める。
「...こっちだー!!!」
という、突然の叫び声と共にどんどん階段からクルーシア兵や騎士団が
駆けてきた。
「...サクリさん達は彼らの相手を!」
アルディアは指示を出すと、サクリやニコル達は自分達も通ってきた
階段から駆けてくる者達の前に剣を構え、立ちはだかる。グレムも
サクリもいつのまにか剣や軽装備を武装しているが、これはニコルの
案内により敵に追われながらも武器庫から奪ったものである。
「.....ちょっとだけ本気を出してあげる。それでもあなた達には
負けないわよ?」
女は髪はボサボサで、両目や後頭部の目玉は充血し、今にも飛び出てきそうに
なっており、爪が伸び、閉じている口からも牙のような尖ったモノが
伸びていた。
最初から希望の用意されていない世界で生きるのは辛く、絶望すら感じる
事だってあるだろう。そんな中で不自由なく生きれていても、それ以上の
希望を願い、祈る。それは今そこで生きれているのは誰のおかげか、
何のおかげか、何のためか、死と隣り合わせで不自由のある世界で毎日
必死に生きている者達がいる事に気付いているか、見て見ぬふりを
していないか、自分は悲劇のヒロインだと思い込んではいないか。
不自由なく生きれている者に希望は必要ない、不自由なく生きれる事以上の
希望なんて存在していないのかもしれないのだから。
何かを成しえたい、叶えたい、そういう夢や望みがある人に必要なのは
願いではなく、祈りでもない。本当に必要なのはきっと愛や想いに
支えられる中での努力以外にない事に気付けるのは世界の一部、そこで
生きている者達の中のほんの一部だ。




