過ち。
それは世界と共に始まり、歴史と共に終わった。
ここはどこかの荒れ地。多くの建物は大破しており、何かが焦げた跡や多くの
集団の足跡が地上には残っていて、まだ新しい。遠くからはまた違う、数万人は
いるであろう集団が駆けてきている。その中には東国で生きていた小太りの男や
あの青年もいた。彼らはあれから約1年半、毎日同じような日々を過ごしてきた。
だが、突然の爆音と共に「同じような日々」は終わった。急な出来事により、
爆音がした付近の建物や家は全て焼け果て、東国の兵士達のリーダーは、
「...抗え!これほどの事をしてくる、北国を...許してはならん!!!
我々に勝敗を決するほどの武器はないが...西国と共に攻めるのであれば、
数では負けないはずだ」
と、逃げる事よりも抗う事を決断した時、気付けなかった事があった。
彼どころか、東国に住んでいた者、西国の者の中にも知る者は誰もいない。
爆音の元凶、それは一瞬の雷光だったのだと。
同じ東国の違う場所では西国の王の側近のあの男がいて、銃を手に、
西国の兵士と共に警戒しながら東国の者達の救助をしていた。当時、
東国と西国は同盟関係にあり、東国が北国の奇襲にあったと情報が入り、
素早く駆け付けたのだ。
(.....惨い...命が命を奪うなんてあってはならないだろう.......だが、
まだ北国の兵士達は姿を見せない...何をしているんだ?...この状況は
奴らにとって好都合なはずだ、なのに...どうして攻めてこない...?
突然の爆音と共に広範囲が火の海になったと聞いたが、その爆音はどうやって
起こしたのか...北国はどこから、狙いを定めた...?)
彼は辺りを見渡すも、北国の兵達はおらず、戦闘機が飛んでいる様子もない。
(...西国の兵隊さんも大変だな、同情するよ。こんな国をあの人はどう
思ってんだろうな...お偉いさん達が平和のためにって武力を持たないのは
武力を持った結果、他国に狙われた事によって起こる争いで死ぬのが怖いから
だって...これを知ったら、やっぱりあの人はこの国を見捨てて、西国に
他の兵隊さん達と帰っちゃうのかなー......帰んないでくれ...助けて...
助けてくれよ...まだ死にたくない......怖いんだよ、情けないけどさ...
死ぬのが怖いんだよ...!)
東国の集団が西国の兵達の集団を見つけ、駆け寄った。その時、東国の
あの青年は西国のあの男性を見つめながらそう思った。
(...あの子は俺に助けを求めているのか......?すまない、すまない...
俺には何もできないんだ...)
男性は青年の視線に気付くと彼に近付き、力強く抱きしめた。
(......おっさん、なんで泣いてんだ...泣きたいのは普通、俺のほうだろ...
こんな国のために助けになんてくんなよ......おっさんまで危ない思い
するかもしれねえだろうが...けどさ、けど...けどよ...こんな国のために
わざわざ来てくれてありがとな...ありがとう、西国のおっさん。
俺、今気付いたんだ...言い訳つけて、恐怖から逃げてるような奴らがいる
って分かってんなら、奴らよりも上の立場になって...俺がもっといい国に
してやればよかったって......俺、馬鹿だからなれねえと思ったんだ...
諦めてたんだ...だから退屈だったよ、毎日...。何のために生きてんのか、
分かんない毎日だったよ...。俺が諦めたから...この国も変わらないままで
こんな事になったんだ、夢を諦めるって事は自分のためにも、皆のためにも
ならない...この国のためにも、未来のためにもならないんだ、おっさん...。
俺って馬鹿だよな、この国の皆も馬鹿だよ、平和のためにって逃げてちゃ...
突然襲われても、なすすべなく死ぬしかねえじゃんか......。おっさん、
暖かいな...俺、生き抜けたらさ...今の会社なんか辞めて、夢を追う事に
するよ...人間ってやつは極限まで追い詰められないと気付けない事も
あるんだな...?)
青年はその思いに涙しながら、男性を抱きしめていた。
(......武力での争いに、武力以外の解決方法なんて最初から存在して
いない...対話を避けられ、武力で押し切られる場合や今回のように奇襲に
あった場合...武力を捨てた我々は何を守れるというのだろう...武力で
北国に劣るというのに自国だけじゃなく、我々に助けを求めてくれる者すら
守れる手段なんてないじゃないか...。数で圧力をかけても怯まず、奇襲とは
愚かな...そこまでして力を見せつけたいのか、北国...。
最強でありたいなら常に最強であればいい...だが強さを欲さず、最強である
必要がない国に迷惑をかけるな。俺に武力が必要だと気付かせた時点で北国の
最期は近いんだと思い知らせてやる...)
抱きしめ合いながらも男性は青年とは真逆で涙は一滴たりとも流さず、
その瞳の中には復讐のために、恨みが産まれているように見えた。
(......ん?)
抱きしめ合っていた二人やその周りにいた西国の兵、東国の小太りの男や
負傷者はほぼ同じタイミングで何かが光ったような気がして夜空を見上げる。
その瞬間、彼らの意識は途切れ、命は活動を終えた。
「あらー?驚かせちゃったー?」
場面が変わり、アルディアは目の前でイアと戦っている、後頭部に大きな
目玉のある女に警戒していた。
「...イアのサポートが疎かよ!」
突然のイアの声にアルディアは弓を構える。
「当たるかしら!?」
そう言って、女は舌をペロリと出した。
「不潔な舌はこうしてあげるわ」
イアは隙を見逃さなかった。
「...ライ・ボルト!!!」
彼女が女の舌を鷲掴みにして叫ぶと、イアの手は放電した。それによって、
髪は逆立ち、瞳には電流が流れているような模様が浮かび上がる。
女は舌が焼け焦げたようになっており、その場にうずくまった。
「お似合いじゃない」
イアは彼女の舌を見て言い放つと、
「......こんな狭い場所、あたしにとってかなり不利なのよ。
だからお仲間さんいても構わないわよね?」
女は何かに気付いたように振り向く。
イア達も女の様子に、嫌な予感がした。
「...救世主ってよぉ、遅れて登場すんだぜぇー!?」
突然、女の後ろにあった階段から一人の青年の叫び声がして、見覚えの
ある青年とその後方から数十名のクルーシア兵が勢いよく下りてくるのが
見えた。
「王家の...」
アルディアはポツリと呟くとイアのほうを見る。
「一旦退こう!」
彼の言葉にイアは、
「...賛成してあげるわ!」
と言って、走りだそうとしたが、
「......救世主はあいつより遅れた俺しか見合わねーだろうが?」
退こうと振り向いた先に集団を引き連れた男がいた事に気付く。
「.....長ネギ」
王家の男はめんどくさそうに彼を睨んだ。
世界が創り直される前に実在した3つの大陸の争い。
自らの過ちに気付けた者でさえも死は避けられなかった。過ちに気付くと
いう事はそれまでの時間が無意味な事だったと認め、その時間を
自ら終わらせる覚悟が必要で、都合のいい言い訳で中途半端なままに
しておけば当然「終わって」はいないのだから失うモノや無意味な時間を
気付かず過ごしている事もあるんだと追い詰められてから人はようやく
気付き始めるのだ。そして、気付き始めれば必ず何かは終わりを告げる。
グアースド大陸、そこでもまた大規模な争いが幕を開けようとしていた。




