流れに沿って。
雪で覆われた土地の。
それは遥か北にあり、その地の主導者の名はサルマン・ネイラーデ。
もはや名から分かる通り、イアやメドリエは彼女の血を継いでいる。
サルマン・ネイラーデ、彼女が王家の祖なのだ。
「...我らは力が全てだっ!!!逆らってくる者に対して、優しさなど
見せてはならん!!!クリューシャが他の国に馬鹿にされるなどあっては
ならん、なめられるなどあってはならないのだ!!!お前らの上に立つ者の
名を言ってみろ!!!」
彼女は王城のような建物のベランダから多くの集まっている人々へ
叫んでいた。
そして、この土地の名はクリューシャというらしい。今では北国にある
地はクルーシアと呼ばれているが、どこか響きに名残がある。
「サールーマン!...サールーマン!...サールーマン!」
問われた者達は彼女の名をタイミング合わせて、叫び始める。
サルマンは嬉しそうな表情で手を振り始めた。
「...もうよい、もうよい!分かってればいいのだ!お前らの蚊のような
小さな脳みそでも理解はできるのだな!?...我は安心した!
理解しているのなら、これからも武力で他の国々に負けぬように兵器の
開発と心身の鍛錬に励むがいい!!!」
彼女は民の命運さえも握っていた。
少しでも気に障る態度を取る者、気にくわない者がいれば影で「処分」と
いう名の死刑をプレゼントし、実験場のような場所の上空では万雷、建物の
中の「何か」には火花が散っていたり、影では不気味に行動していたのだが、
幹部以外にその事を知る者などほとんどいない。
北国の兵士達はチームワークが非常に高く、幼い頃から男に
生まれた者達は一流の兵になるための何らかの勉強やトレーニングを
細かく受けており、他国の兵士達よりも戦いに関しては頭が非常に冴え、
武器の開発や扱いは群を抜いている。それに、
「己の力が、己の生き死にを決める!!!敵国の兵に敗れる、弱き者に
クリューシャの土を踏みしめる資格などないわっーーー!!!」
とクリューシャの兵達は厳しい環境、厳しい教えの元で育ち、何においても
実力行使がモットー。そんな生き方をしたのが、かつて実在した北国の
者達だった。
「...はっ!?自分が何をしようとしてるのか分かってんの!?
それはアスルペ様達に対しての『裏切り』の行為よ!?......
糞じじいがあんな事になって..........なんとも思ってないの!?」
場面が変わると多くの緑竜達がいた。
その先頭付近にはドライズとイリミール、その2体に向き合うように
トーダスもいる。ドライズの率いる緑竜達はアスルペの命を受け、彼女と
別れた後にそのまま「鍵の子」を探しに行こうとしていたのだが、
トーダスと出くわし、イリミールと口論になっているようだ。
「ちょっと、トー君と話をさせてよ」
ドライズはイリミールへそう言うと、トーダスと2体で少し離れた場所で
話し始めた。
太陽に照らされる中、約10分近く経つ。
「......という訳ですが、来てはいただけませんか?...ドライズ様」
トーダスが何かの説明を終え、ドライズへ問う。
「..........時代は変わるからねー、時代に合わせなきゃ都合よく
生きれない事も出てくるかー......それも未来のためなら喜ぶよ。
だけどイリミール達には何て言えばいいか、困るなー」
ドライズは困ったように笑うと、
「まさかこれほど簡単に話が進むとは思いもしませんでした...
ドライズ様にはご迷惑をおかけしますし、イリミール達の事は心配して
いないのですか?」
トーダスは予想外だったというような表情を見せる。
「...我が子が心配じゃない親なんていないよ、けど僕がこういう選択を
してもイリミールは親に合わせずに自分の意志を強く持って、反抗して
きてくれるのなら僕は親として嬉しいんだ」
ドライズの言葉に、トーダスは目を丸くして彼を見つめた。
「イリミール、皆...ごめんね、僕はトー君についていくよ。
......寂しいならイリミールもパパと来るかい?」
2体がイリミールのいるところまで戻ると、ドライズが問う。
「......お世話になったくせに主を裏切るって...バカアアアアァァ!!!
あたいは行かない!もし、パパがそっち行くってんなら親子の縁を
切るわ!!!....王家の糞共と同類になりたいなんてどうかしてる、
あたいにそんな恥さらしな親はいらない!!!」
イリミールはドライズへ怒鳴り、それを見ていたトーダスは焦ったように
何かを口に出そうとするも、
「......これぐらいの覚悟は必要だから大丈夫」
とドライズが彼の耳元で囁いた。
「皆はどうする?...僕と来る?イリミールにつく?」
ドライズは多くの緑竜達へ問う。
「.......ドライズの旦那、聞かなくても分かるだろうが...俺達は
あんたの選択についてはいけねえ」
1体の風格のある緑竜が返答した。彼の肉体は古傷が目立ち、幾多の
死線を切り抜けてきた猛者のオーラがある。ドライズは緑竜達を1体ずつ
見つめると、
「.....さようなら、だね」
と呟き、トーダスが飛び立つとドライズも彼の後を追う。
「...バカな親を持ったわ......今後一切、パパとトーダスとの接触は
禁止」
2体の背が見えなくなると、イリミールが口を開き、緑竜達は特徴的な
低く、野太い声で応えた。
「...お嬢、これからどうする気だ?」
古傷のある竜がイリミールの隣まで来て、問う。
「...これからって.....まずはあんた達を引き連れるのに見合うように
ならないと緑竜族はアスルペ様の急な呼びかけにも応えられない...。
経験とかの面でも悔しいけど何百年も生きてる、あんた達に劣るのは認める
から『鍵の子』を探しながらでもリーダーに必要なものを身につけてくん
だから!」
イリミールは返答するも、古傷のある竜は困ったような表情で、
「......お嬢、アルディア・ライドの事を忘れてんじゃねえか?
ドライズ様がグアースド大陸から離れたら、『命の樹』はどこへ行く?」
その言葉に、イリミールは何か重大な事に気付いたように目を見開いた。
世界が創り直される前に実在した二つ目の大陸、北国...そこに生きた者達は
悪い意味で自分に自信を持っており、主導者の教えの元に全ての物事の
解決方法は自身の力と武力だと信じて、生きた。そう教えた王自身が
意見をしてくる者や国には武力で対抗、そんな生き方をしていれば他国に
味方など増える事はなく、その時代が彼らにとって生きやすい「今」だった
としても好き勝手に権力を振るい、悦に浸って生きれてしまった事が
王にクリューシャの未来には希望などないと気付かせるのを遅らせたのだ。
次話、イリミールの「気付いた事」と「西国」の全てを。




