たりずとも。
「究極の欲(理想)の先」=「3大勢力の破滅」。
名さえ失った国々の価値観、その先には必ずぶつかり合う未来が
あると分かっていても、避けられない、避けない、避けようとさえ
しなかった。
その3つの勢力の中の一つ、東国。そこで生きる者達は毎日、奴隷や
権力者に操られている人形のように暮らしていた。
「これ、やっとけよー?終わるまで帰るんじゃねえ」
どこかの建物の中で働いていた青年に、小太りの男が囁く。
青年の同僚達もヒヤヒヤしたような表情でその様子を見ていた。
...いや、彼らは見つめる事しかできなかったのだ。そして、
小太りの男が席を立つと、
「...今日も帰れそうにないな......休みも無く、楽しみもない、
俺はこんな生き方が嫌だ...」
そう呟く。青年は怒りを堪えているのか、椅子に座りながらも拳を
強く握りしめていた。
「...今だけだよ、頑張ろう...きっと生きてれば何とかなるから...」
彼の呟きを聞いていた眼鏡をかけている、気の弱そうな青年が彼へ言った。
「...そんな...流されて生きた先に、望む未来はあると思うのか...?
あのリーダーもだが、この国のトップの連中のようなお偉い立場で金なんて
ザクザク入ってくるような奴らほど遊び好きで、くだらない事で馬鹿みたいに
競い合って......そんな奴らばっかな国のために働けるかよ...くっそ!」
青年は声を荒げ、周囲の視線も彼へ注がれる。
「......時間が勿体ない。
毎日そんな事して、生きたいか...?俺達はロボットじゃないだろう...
限られた時間を必死に生きてるだけで、自由さえ奪われるなんて...」
彼は不満をぶち明けるも、小太りの男が遠くから戻ってくるのが見えると
席に戻り、皆と一緒に何事もなかったように作業を再開する。
東国の大半は彼と同じような不満を抱え、彼のように生きた者達だ。
場面が変わる。
「...グレムさん、サクリさん、こっちです!」
警報が鳴り響く中、ジニーがグレムとサクリと共にホワイト・トゥルーの
拠点内を走っていた。
「...牢屋から一歩出ただけで警報が一斉に鳴り出すなんて......
近くにセンサーがあったとしか思えませんね...」
サクリは走りながら話した。この警報はグレムとサクリがジニーの案内の元、
牢屋から脱出した瞬間に鳴り出したものだったのだ。
「...なるべく人通りの少ない道を通りますが、出会った時は逃げる事を
優先でお願い致します。
僕はグレムさん達ほど強くはないので、戦闘になった際はお荷物にしか
なれませんので...少なくともお二人を無事逃がし、案内役としての
使命は全うさせてください」
ジニーは2人へ言った。
「逃げる時はジニー君も逃げるのだよ!俺らは仲間を置いてけぼりには
しねーんだ!」
グレムは返答するも、
「僕はヘリサ班でもあるので、何かあればヘリサさんが何とかしてくれる
でしょう...それよりもお二人さんのほうが心配です...奴らはしつこい
のでどこまでも追ってくるでしょうし...」
彼は二人の事が心配であった。
「こんなとこでへばってたらアル坊に再会できねーよ、主のための最期じゃ
ないなんて、俺はごめんだかんな」
そのグレムの言葉にサクリは一瞬、笑みを見せた。
「.......いたぞーーー!!!」
すると突然、前方に現れた警備兵が叫ぶ。
「お二人さんは強行突破ですよ!!!あとは僕が足止めします...ここからは
階段をどんどん上に登っていけば、この拠点の入り口があるはずです!
そこから門を出て、どうか遠くへお逃げください!」
それからグレムとサクリは足を止めず、警備兵を振り切る。
(.....ニコル...?)
サクリは走りながらも何かに気付いたように一瞬、振り向いた。
ジニーは二人の背を見送ると、警備兵へ懐から何かを出し、見せる。
「...これは...今日が『その日』なんですね...!?ジニーさん、
ヘリサ様の命の元、わたしも隊長達についていきます!...ありがとう!」
その30代ほどの大柄な警備兵はグレムを「隊長」と言った。
ということは、彼も元エルヴィスタ班であり、ヘリサにグレム達と共に
仕えていた仲間の可能性が高い。
「ニコルさん!...ブラック隊を全て引き連れて行ってください!」
ジニーは大勢の警備兵が集まってくるも、焦る様子はない。
集まってきた警備兵はニコルという男がジニーの言葉に頷くと、彼の後を
ついていった。
(......ここまでは想定内...あとは『彼女』がどこに現れるか...)
そう考えこみながら窓から見る景色は昼とはいえ、どこか薄暗く、雷光が
一瞬見えた気がした。
「...ライ・ズ・クロー!!!」
場面が変わるとイア達は建物内をどんどん進んできており、激闘を
繰り広げていた。イアの周囲には火花が散っており、青年の放つ矢は少女の
放つ雷撃を纏っている。その様子は雷撃を纏う3本の矢は竜の爪のように
敵を襲っていた。
「...イアのライ・ズ・クローみたい...真似されたみたいで非常に不快!」
そう言うイアは不機嫌だ。
「騒がしいと思うから来てみれば、またもや君か!?...ムスっとした顔
なんてしちゃって、色気がないわよ?...迷子の子猫ちゃーん」
イアの目の前に佇むその女は不気味に舌をチラチラ出していた。
世界が創り直される前に実在した大陸の一つ、東国...そこに生きた者達は
本音を言えても、言えずとも、未来は暗いままだった。明るくしたいのであれば
「必ず」それを言えなきゃいけなかったのだ。だが、言えたところで世の流れは
大半の者が生きにくいと思うであろうものから何も変わらなかった。
それは変えようとするべき「お偉い立場」の者達自身が変わろうとさえ
しなかったからだ。
そして、イアの前に現れた女の素性とは...。
次話、北国が明らかに。




