女の嘘。
永遠に続く、無限の歴史。
「私の風に気付いて、駆け付けてくれたのは本当に嬉しかったじょー。
けど、これからはアイアスとパルミアはまだ無事であろう神である父の護衛。
ヴァルゴ、ドライズ、シャーガン、サイドアはそれぞれの一族を引き連れ、
自分の父が作った鍵の子を2000年前のように探しとくれ...あーっと、
サンダリアンがいない分、憂鬱の鍵の子は私が探すよ。
またもや寂しくはなるが、ここでお別れじゃなー」
アスルペが6龍隊へ言った。
その場所はウォアータス大陸を抜けたのか、真下には海が広がっている。
「アスルペ様...」
アイアスは悲しげな瞳を見せるも、
「無事であれば、必ずまた会える」
アスルペはそう言うと6龍隊と多くの竜達は一礼し、その場を去ろうと
した。
(...あれは...)
だがアスルペが、
「アイアス!...ちょいっとお話しようじぇ」
と彼女を呼び、アイアスは他の氷竜達にその場で待っているように伝えると、
アスルペの元へ向かう。
「...で、その背に乗っているのはアルマかね?」
アイアスがそばまで寄ってきて、気になっていた事を問う。
「あ、そうだな...姿は見せれず、話す事もできないが...とある土地で
戦闘になった際の後遺症だ」
アイアスはそう返答するも、アスルペは何かを思い出そうと瞳を
閉じた。
それは暴食と色欲にエルヴィスタで敗れ、老婆に救われた後の出来事。
「...こんな世界をまだ救おうと?...懲りないのう...」
どこか大きな建物の中で、小柄な白髪で腰は曲がっている老婆と
傷だらけのアスルペは話していた。
「......生きれるのも、その土地に芽生える事ができるのも、
死んでしまうのも、朽ちてしまうのも、全てはこの世界が均等に
描いている歴史そのものだよ。世界が終わってしまえば、そこに命が
生き続ける事は許されず...命が終わってしまえば、その時点で世界の
均等は崩れてしまう。生き物が悲鳴を上げれば仲間は助けてくれるし、
愛されないと嘆くのなら家族や恋人が、飢えや病に嘆くのなら草木や
別の生き物が、干ばつに嘆くのなら雨や水が、植物を育てる上で陽が
出ないと嘆くのであれば太陽が...この世界の生き物は当然、家族や
仲間に救われている事を理解しているだろう、だがこの世界にも
救われている事を忘れてはいけないんだよ、おばば。
...もし、人が調子に乗ってるからと神が世界を創り直してしまえば、
きっと同じ事がまた起こる。世界が悲鳴を上げた理由さえ知らずに生き物が
滅べば、創り直された生き物達は当然、世界が悲鳴を上げた事さえ
知らずに同じ事を繰り返すだろう。
そうならないように生きている者達は学び、改善しようと努めるべきだ...
人間達も龍達もな。そうすることで世界は救えると私は言っておく」
アスルペの話を聞いていた老婆は笑って、
「...アスルペ、7000年前の戦争が起きる直前の世界を...
お前は知ってるか?」
と問う。
アスルペは思い出そうとしたが、その頃は眠りについていた事に気付く。
「...いや、私はルヴィーと別れた後に眠りについてたよ」
その言葉に老婆はあきれ顔で、
「...7000年前、この世界は3大勢力に分かれていた。それは王族、
農民、ライド家...だと大半の者はそう言うが、それは恐らく違うな。
...主に東国、西国、北国で分かれていて、東国は人間らしさを失った者達、
北国は権力で常に世界を握ろうとした者達、西国には理想を追求した者達が
いた。間違いなく、この世界はその頃と似た構図になっているぞ?...
価値観のぶつかり合い、それは学習したところで抑えられるものだと思うか?
欲さえ管理できない生き物が我慢などできないであろうに...」
老婆は呟くと、俯き、
「...そういえばお前さんからルヴィーと同じライド家の匂いがするが、
もしや、またあの一族と繋がりを持ったのかい?」
何かに気付いたように突然、そう問う。
「アルディア・ライド...ライドの血が濃い子だよ」
アスルペは隠さずに、話した。
「...そういえば最後の希望だの言われている小僧がいたらしいね、
アルマ・ライドの息子かい?」
その問いにアスルペは頷くと、
「私が言うのも変だが、ライド家は嘘つきな一族だ...気を付けな。
ましてやライドの血が濃いなど...あ、濃いとは...まさか...!」
老婆は目を見開き、アスルペを見つめた。
「...クアトロ・ラインだ」
その言葉に老婆は膝から崩れ落ち、
「......何年待ったか...私が何年...やっとか...やっとなのか!
......やっと悲願が...!!!」
と涙を流す。
クアトロ・ラインとは何なのか、いずれ明らかになるであろう。
「......あぁぁぁ」
余程嬉しい事なのか、老婆は声にならないまま近くの水晶を手に取る。
「...アルディア・ライド」
その水晶を撫でながら、彼の名を呟くと老婆の目は真っ黒に染まる。
白目がなく、どこか不気味だ。
「...おばば、どうだい?」
アスルペは問い、老婆には何らかのイメージが見えているようだ。
「...まだ20歳は若いな...アルマの子...既に契約も経験している...
この目は間違いなく、クアトロ・ラインだ...双子の兄もいるのか...
アスルペ、兄の名は何という?」
その問いに返答がなく、老婆は一度アスルペを見ると、
「...兄...?」
その存在はアスルペさえ、知らず。
間違いを正すのは神ではなく、間違いを犯した生き物の義務であると。
そしてアスルペと老婆だけが知ってしまった、アルディアの兄の存在とは...。




