表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
命の樹へ。
105/123

殻破り。






 「それ」に対して、捉え方を間違えてはいけない。






 「アースのあんな姿は見たくはなかった...もうこれ以上は見てられん、

ちょいっとここで待機だじょー」


そう告げるとアスルペは王都のほうへ飛んでいく。


「アスルペ様!」


アイアスは追おうとしたが、


「...行くな、これはアスルペ様からの命令だ」


とヴァルゴに止められる。


「...だが、もし襲われたらどうする!?」


そう少々荒っぽく問うと、


「それに関しては大丈夫だ。

心眼にはお前が行くとアスルペ様に迷惑をかける様子が見えるが、

アスルペ様はアース様と何かを話し終えたらすぐに戻ってくる」


アイアスは安心したかのような表情を見せると、


「...ならいいんだ...」


王都のただ一点、そこにいる自分の娘だけを見つめていた。


(アイアス、嘘をついた事は謝っとく...心の中で。

戦闘にはなるがアスルペ様は勝つ、けどもしお前がついていけば、

お前の娘との戦闘で...お前は死ぬんだよ)


そのアイアスの様子を見つめながら、ヴァルゴは哀し気な表情を見せた。







 「やっぱり神龍・グラウンドアースはしぶっといねー...

気持ち悪いよ、本当に...!」


場面が変わると、なんとか立っていられる状態のアースの元へヴァリーが

呟きながら近付いてきている。

彼の右腕の爪周辺は赤く濡れていて、それはアースがアスルペに

叫んでる最中に真後ろから貫いたものだ。

よく見てみるとアースの後頭部からも血は溢れていた。


(...くっそ...情けねえ情けねえ情けねえ情けねえ...情けねえ!!!)


そう悔やむと、突然アースは暴れ始める。


「何ーーーーー!?まだやるのーーーーーー!?えーーー!?」


その様子にヴァリーも呆れた様子だ。


「しっかりしなさい、ヴァリー!2体でならやれるはずよ!」


そう叫んだミラースはアースへと駆ける。

アースは現状目が見えていない...はずなのだが、間違いなくアースも

ミラースへ勢いよく駆けてきていた。


「...え...やばいやばい、ちょっと待て、待ちなさい...危ない...危ない!

ぶつかるぶつかるぶつか......いったあぁぁぁぁぁい!!!!!」


アースと正面から衝突すると色欲でさえも軽々しく持ち上げられ、

2つの大きな角によって、勢いよく投げ飛ばされる。


「...あー、怖いなー...戦いたくないなー...誰かフェディオの兄貴、

呼んできて!」


ヴァリーは王城の方からこちらを見ていたクルーシア兵へ、そう叫んだ。

その叫びを聞いたクルーシア兵は走って、王城内部へ入っていく。


「...にしても『憂鬱』のスラヴは動かないし、『暴食』のバイターは

どこに行ったんだよ...ヴァレーの兄貴もいないじゃんか...まだこの世に

慣れてない僕じゃ、あんなの相手にできないからね?」


確かにアースの後ろをついてきていた「憂鬱」は少しも動いておらず、

暴食、嫉妬も姿を見せない。

フェディオと共にメドリエの様子を見に行ったのだろうか。

そして竜巻は少しずつ小さくなり、消滅していく。


「なら私は相手にできるのかね?」


ふいに真上から声が聞こえた。


「...お?」


見上げると1体の龍がいる。


「...うひゃあ!『幻龍』アスルペ・テミルスーーー!!!

この姿で会うのは初めてだね!僕は...おっとまだ名乗れないや、

ごめんね!けど気に入った!気に入った気に入った気に入ったよ!!!

僕の仲間になる?どう?いい話じゃない?話をする時はお互いの目を見て、

ちゃんと話そ?」


ヴァリーは口を休める様子もなく、一人でどんどん話す。


「口が達者だな、ゼラール・ド・ヴァリー。お前は罪龍か?その瞳には

一種の催眠のような力が宿ってるって噂を、かつてレイコから聞いていてな。

...それと私は確信を持っているのだが、罪龍は7体以上いるだろう?」


その言葉を聞くとヴァリーはアスルペを睨む。


「...僕の言葉は無視?偉い立場だな...てか7000年経って、

確信したんでしょ?遅いなー...随分、悠長に過ごしてたんじゃない?

もっと早く気付けたでしょ?神のそばにいて、やっと...?ごめん...

馬鹿は嫌いなんだ、やっぱり仲間にはしない事にするよ...僕と戦う気?

さすがに神でもない君には負けないからね?」


そう問うとアスルペのいる場所まで飛び、勢いよく爪を振りかざしてくる。


「...まだ慣れていない体で私に勝てると?...すまないが、私は今

とてもイライラしてるんだ。手加減すると思うなよ?」


問い返すとアスルペの肉体はどんどん透けていき、ついに見えなくなる。

それによってヴァリーの爪さえ彼女の肉体には届かない。


「......へ?何それ?チート?不正行為じゃない?...ッ!」


辺りを見渡すも、アスルペの姿は見えない。


「...ここだじょー」


聞こえてきた声、それは彼の体の内側からだ。


「ちょっ...何で、僕の中にいるんだ!出てけ、出てけ!出てけよ!」


どんなに暴れても体の違和感は消えず、肉体の痛みはどんどん増していく。

ミラースにはヴァリーがただ闇雲に暴れているようにしか見えていない。


「お前だけはこの場で息の根を止めてやる。その瞳を、訳も分からずに

見てしまった氷竜達がいるだろ?その子達はな、私の盟友の子供達なんだ。

返してくれるか?」


その言葉は静かに放たれたが、彼の心には重くのしかかる。


「...僕のおもちゃは譲らないよ!!!」


ヴァリーは叫ぶと狂ったように再び暴れ始める。


「言っただろう?私は今イライラしてるって...ジョークは必要ない」


アスルペの声が彼の心に響いた瞬間、ヴァリーの肉体は紫色に変色し始め、

血管が浮き出て、破裂した。

全身血だらけになり、彼は当然耐える事などできずにその場へ倒れる。


「...ヴァリー?」


アスルペの姿が見えない色欲は倒れたヴァリーへ近付いてくる。


「...来る...な!ア...ペ...テミ...ス...」


ヴァリーは震える口で途切れ途切れ言うも、ミラースには理解できない。


「なんだか悪役だのう、私は」


アスルペが口を開く。

それと同時にヴァリーの肉体は活動を終えた...それすなわち死だ。

そして姿を見せないまま、いつのまにか倒れていたアースの元へ近付くと

風を起こす。


「...この風...アスルペ...か?」


その問いに、


「すまないな、アース...今は救えん」


と返答した。


「...謝るのは俺のほうだ、厄介な憤怒を目覚めさせてしまう」


アースは複雑そうな表情でそう話すと、


「大罪龍の中では攻撃力だけなら一番厄介な憤怒がねー、この巨体が

敵になると思うと辛いじょー」


アスルペは普段通りに話す。

周りには少しずつクルーシア兵が集まってきている。


「もう両目が呑み込まれている以上、時間の問題だ。

約束しておくじょー、いつか必ずアルディアと共に救ってやる。

...だから、もう眠れ」


言い終えるとアスルペはアースの中へ入る。


「...俺の中に入りやがって...気持ちわりぃ気分だな。

敵にやられるよりはマシか」


アースはそう言って笑うと続けて、


「...アスルペ、この世界は神が消えても何も変わらねえぞ。

牛耳ってんのは王家や心の汚れた人間共だからな。

そして、その人間共は『神が見てるから、まともな人間になりなさい』、

『常に努力して生きろ』、『真面目に生きろだの』、『悪い子には天罰が

下るだの』って自分が大人ぶってるように子供に伝えるけどよ、

神はそんな事望んじゃいねえんだ...お前なら分かるだろ?

ちゃんとやるべき事をやってんのなら遊びほうけたっていい、

罪や迷惑にならないのなら楽しい事ばっかな人生でいいんだ。

当たり前だろ?人生の大半は辛い事も多いんだからよ、できる限りは笑顔で

いてほしいさ。逆に自分に嘘をついて生きてる奴らに天罰が下るぞって

俺は言ってやりてえよ。辛いのに周りに合わせ、合わないと分かっている事を

馬鹿みてえに続けて、自分に合ってないと分かる事さえも選んで、

労働も遊びもよ...そんな事してたら限りある人生、後悔しか残らねえ。

金に目が眩むな、待遇に目を向けるな、自分のやりたい事は何だ?

体壊したら辛いだろ?自分のやりたい事さえできねえ人生つまんねえだろ?

生き方を決めるのは親じゃねえ、自分自身だ。

俺達が本当に望んでる事は『後悔を抱えたまま死ぬな』って、

『後悔のねえように生きろ』って...『自分自身が正しいと思った事には

揺らぐなよ』って事だけなんだよ。それを俺の代わりに自分の意志で行動の

できねえ、生きれねえ奴らにあんちゃんと伝えてってくれや...神のいない

世界で、世界を動かすには生きてる者達の心を動かすしかねえ...俺の意志を

継いでくれ、頼むぞ」


彼の心が語り終えた数十秒後、鼓動が止まった。

それと同時に体中から紫色の何かが溢れ出る。


「...また会おう、アース」


アスルペが呟き、姿を現すとクルーシア兵達は弓を放ってきた。

風を纏いながら急いでアイアス達の元へ翼を動かしていた最中、

ふと彼女は思った。






(...悲劇がやっと終わった、長かったな.....アルディア)




 少しずつ明らかになっていく「本来の」幻龍アスルペ・テミルス。

彼女はどこか美しく、どこか残酷に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ