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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
命の樹へ。
104/123

君も。






 彼は神か、または罪龍か。






 「ガリバード、目覚めはいかが?」


竜巻が周囲を襲う中、何とか彼に近付き、ミラースは問う。

ガリバードとはアースが取り込んだ、「傲慢」の名のようだ。

アースは既に心を奪われたのだろうか。


「...」


何故か右目は閉じているようだが、開いている左目は紫色に不気味に

輝いている。

そして彼は応答もせずにミラースを無視したまま、竜巻にも動じず、

ただ前方を歩いていく。


「...あ、ちょっと待ちなさいよ!姉の事さえ無視ってわけー!?」


そんな彼に、ミラースは暴風を堪えながらもしつこく付きまとう。


「おかしいね...確か目覚めさせたと思ったんだけど...瞳にも闇は

宿ってるし...ただちょっと不機嫌なだけかな?」


ヴァリーも暴風を堪えながら兄弟の予想外の反応に困った表情を見せている。


「......ガリバァァァァァァァァドォォォォォォォ!!!!!」


ミラースの怒りが頂点に達したのか、突然大きな声で叫ぶ。

その声はクルーシアから離れようとしていたアスルペ達の耳にまで届いた。




「...おー?なんじゃらほい?敵さん方は仲間割れかね?」


アスルペはそう呟くと振り向き、王都の方を見る。

その様子に6龍体、多くの竜達も振り向く。


「...」


「傲慢」ガリバード。

彼はその場でピタリと動かない。


「...すぅー」


ふと大きく息を吸い込んだ。

すると、


「アスルペーーー!!!!!王家はーーー、犠牲者だーーー!!!!!」


突然そう叫び始めた。




「...なに?」


その叫びに、アスルペは驚いた様子で呟く。


「...お父さん!?」


ドライズも目を見開き、驚愕しているような表情だ。


「ドライズ...本当によかった...。

アスルペ様、アース様を助けに行かねばなるまい?」


アイアスはそう言うも、アスルペの反応は鈍い。


「...糞じじい...」


その様子にイリミールもアースを見つめるが、複雑な表情だ。




「ヴァリー!」


ミラースは分が悪い様子を隠し切れないがヴァリーと共に、アースを

止めようと試みる。

他の竜やクルーシア兵達は竜巻を堪えるのに必死だったり、崩れそうな

建物から逃げていた。


「...悪いな、俺はそう簡単に奪えねえぞ?」


アースはミラースへそう言うと、ヴァリーの振りかざす爪を角で受け止めた。


「...中々やるね、爺さん...!瞳の色だけ見るともう闇に呑まれている

様子だったから、油断してたよ。

まだ自我はあるの?...もう片方の眼を見せてみなよ、ねぇ?」


力比べは多少ヴァリーが優勢だ。




「ヴァルゴ、これはお前の心眼には視えていた事かい?

アースがいても、私達が戦えば皆殺しかね?」


ふざけた様子もなく、隣にいたヴァルゴへ問う。


「...はい、この状況でアース様を助けに行けば...この場にいる者全員が

生きては戻れません」


本当は誰もが救いに行きたいはずだ...特にドライズとイリミールは。

だが、その行動を選択してしまえばこの場にいる者達全てに未来はない。


「...ドライズ、お嬢ちゃん、私がもしここでアースを見捨てた場合、

私を恨むかい?」


その言葉にドライズとイリミールは一度、顔を見合わせる。


「...ヴァル君、父さんは助けられないって事だよね?

欲張りなのは分かってるけど、皆が無事に父さんを救える未来は

視えないかな...?」


ドライズはヴァルゴへ問う。


「...残念だが、どんなやり方でも生き残る事はできない。

父の慧眼のように理由もなく、ただ気軽に未来を見る事ができれば、

方法はあるのかもしれないが...この心眼は自分が行う、『行動の結末』

しか視る事ができない、すまないな...緑竜達」


いつのまにかイリミールは涙を流している。


「...お嬢ちゃん、泣いてはダメだじょー。

ここで悲しんでしまったら、打つ手がないと認めてしまう事になる。

悲観はもう終わりなんだ...君の知っている青年、私の主がまだいる

だろう?

彼がいる限り、逆襲劇は終わらない。

というか、まだ始まってさえいないよ...世界にとっての悲劇は続く

だろうが、私達にとっての悲劇はもう間もなく終わる。

それは彼が逆襲劇の幕を開いた瞬間にね。

だから、それまでは共に耐えよう。

彼が逆襲劇を告げる時まで...大丈夫、彼ならきっとアースも救ってくれる」


イリミールはアスルペの胸に顔を埋める。

その様子にアイアスは顔を真っ赤にして、見ていた...というか妬いていた。




「...アスルペが情のないやつで本当によかった...もし俺が正気だと

分かって、助けに来るような奴なら皆死んじまうからなー...

俺の代わりにあんちゃんの先生になる奴がいねえと...あんちゃんは

育たねえんだ!

...それにまだアスルペに言わなきゃいけない事があんだからよう......

邪魔すんじゃねえ!!!!!」


そう叫びながらアースはヴァリーを角で薙ぎ払った。


「...アスルペーーーーー!!!!!本当のーーーーー、」


アースが続けて言葉を発しようとした瞬間、猛烈な痛みが彼の右目を襲う。


「調子に乗りすぎ、老いぼれの分際で...さっさと死ねよ」


すぐさまヴァリーがフラつきながらも立ち上がったのだが、

アースはアスルペの方を振り向いていた事で気付けなかった。


「...言わせてくれねえってか...そんなに言われたくねえのか...

ってまずい...闇が...抑えきれねえ...!」


右目から血が滴ると共に、少しずつその瞳は、






紫色に輝き始める。




 ついに残された右目も闇に侵され、アースの心はどうなる...。


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