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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
命の樹へ。
102/123

時間。






地上に集結している約何万体もの影と、その視線の先で天を舞う

約何万体の影は...。






「...レイラ!!!」


突然飛んできた龍と老人を乗せたレイラが王城のほうへ戻っていこうと

していた時、アスルペの後方から誰かが叫ぶ。


「...」


その叫びにレイラはその場でと止まり、翼を動かすのをやめた。


「...母が子を見捨てたと本当に思っているのか!?」


叫んだのはアイアスだ。

彼女はアスルペをも通り越し、先頭へ躍り出る。


「...見捨てた...から...お兄ちゃん...死ぬ事になった...!!!

見捨てて...なければ...お母様が...一緒に...連れてって...

くれていたなら...お兄ちゃん...死ななかった...!!!

...あたし...悲しくならなかった...寂しく...ならなかった!!!」


母を睨みながらそう叫ぶと、彼女は速度を上げ、王城へ戻っていく。


「...あなたもいるというのにでしゃばってしまい、すまない...」


アイアスはアスルペの隣まで戻ると、謝った。


「何があったかは知らないが親子でこんな事になるのは悲しい事だね。

...って、せっかく来てくれてもらったのに挨拶さえまだだったか...

私と初めて会う竜達もいるだろうから改めて名乗ろう。

私が幻龍アスルペ・テミルスだ。

...お前達のリーダーである強き龍達には毎度世話になっててねー、

こんな顔さえ見えにくい姿で、すまんのう。

悔しいが私に本気を出させるほど奴らは強い。

現段階でも今回はレイディアが創り直されて以来、最低最悪な状況だ。

それは理解しておいてほしいし、これから間違いなく多くの犠牲も出る。

...それでもお前達は私についてきてくれるかな?

あとから敵に寝返る事などないと私に誓えるかい?

今すぐにその返答をどうじょー?」


アスルペは後方を振り向くとそう問い、6龍体の顔を順に見る。


「...マスター、それは今更聞くことか?」


そう聞き直した彼女は天主パルミアだ。


「私もお前達の親を救える事はできなかったし、信用はなくて

当然だろう?

マイペースにしすぎたと反省はしているけど、これからも好奇心は

抑えられそうにないんだじょー」


とアスルペはパルミアを見つめながら言った。


「...それでも主は戦っていたのだろう?

信用がないのはこちらのほうですよ、エルヴィスタ戦の話も随分と

時間が経ってから噂として流れてきたので、参戦できませんでした」


そう話すのは心眼ヴァルゴだ。


「それはお前達の上に立っている私が知らせるべきだっただけだ。

お前達は近くで暮らしているわけでもないし、神がいなくなり、

やらねばならぬ事があるからな。

すぐに呼べば私も死にかける必要なかっただろうが...正直、今は全ての

面で余裕がないじょー」


アスルペは珍しく悔しがるように話す。


「そのアスルペ様を追い詰めたのは一体どいつだ!!!」


荒っぽく話すのはアイアスだ。


「...こらこら、アイちゃん...女の子が『どいつ』とか言わない...」


緑癒のドライズがアイアスをなだめる。


「ドライズいたのか...相変わらず影の薄いやつだ」


その言葉に彼は落ち込んだように俯くと、隣にいたイリミールは呆れ

ながらも、


「...パパ!!!胸張って、堂々としてて!!!」


と怒鳴る。


「ドライズ、その雌はお前の娘か?もしそうならアース様のお孫さん

だよな?」


アイアスの言葉にドライズは未だ俯きながらも頷く。

するとアイアスはイリミールの目の前まで近付き、


「ドライズの娘、アルディアを助けてくれた事に関してアース様から

聞いている。

今は口の聞けないアルマに代わって、私が礼を言うよ。

...ありがとう」


と言うと、青年の名にアスルペの体が一瞬ピクッと反応した。


「...あ、えっと...礼をされるほどの事はしていません。

ただ祖父に言われた通りに彼をグアースド大陸へ届けただけ...

なので頭をお上げください」


イリミールは緊張しているのか、少しぎこちないように話した。

アイアスは頭を上げると、


「...何だか私が寝込んでいる時に色々あったみたいだね、

それより私も礼を言おう。

主であるアルディアが世話になった、ありがとう...アースの

お孫ちゃん」


アスルペもイリミールの前まで来て、礼を述べる。


「...え!アスルペ様、お顔をお上げください!!!

本当に大したことはできていませんから!!!」


あの有名な幻龍に頭を下げられ、イリミールは焦った。


「...それで話を戻すが、暴食と色欲はもう鍵の子を見つけないと

救えないところまで心の乗っ取りが進んでいる。

私もその2体に危なく殺されるところだったが...嫉妬はどこまで

段階が進んでるかは分からない」


そのアスルペの言葉にアイアスはとある事を思い出し、


「ドライズ、アース様はグアースド大陸に戻ったか?」


そう問うと、ドライズとイリミールは顔を見合わせる。


「父さんはまだ来てないよ?」


その返答にアイアスは嫌な予感がし始める。


「...すまない、ドライズ。

アスルペ様にも、皆にも言っておくが...私達、ウォアータス大陸に

暮らしている氷龍族はここを離れる前に一度王家へ攻撃を仕掛けた。

噂で聞いた者も多分いるかもしれんが、その最中にアース様まで参戦してな、

先に逃げろと言うから退いたが...アース様が無事この場を離れたかは

正直分からん...これを皆がどう捉えるかはお任せしよう。

だが私は見捨てるつもりで逃げたわけではない、これだけは信じてくれ」


アイアスが頭を下げると氷竜達も頭を下げる。


「...アイちゃん、頭を上げて...。

それだって父さんが自分の意志で選んだんだ...きっと『正しい』と思って、

行った行動だろうからアイちゃんが謝る必要なんてないよ!

アイちゃんは一度退く事が『正しい』と思って、父さんはアイちゃん達を

退散させる事が『正しい』と思った。

なら後悔なんてしてないと思う...揺るがぬ意志があるから大丈夫。

それにアイちゃんは仲間を見捨てる事ができないよ...強がってて、

不器用だから荒っぽく感じるだけ!」


そう言ったドライズが笑うと、周囲も笑い始めた。


「...笑いごとでは」


突然アイアスの言葉が途切れ、彼女は王城のほうを見つめた。

何か大きな音が聞こえたのだ。

そしてアスルペ、他の龍や竜達も険しい表情でその一点を見つめる。


「...すまない...」


沈黙の中の第一声は俯いたアイアスの普段とは全く違う、低い声だ。


「...謝っちゃダメだって!...こればかりはどうしようもない、

仕方のない事...。

『正しい』事をした結果、運悪く報われなかったってだけ。

そういう事だってこんな世界だと少なくないでしょ?

だから悲しんでなんていられないよ...僕達が悲しんでいる時間は、

僕達でさえ救える命が今日もどこかで息絶えてしまう時間であり...

変えられる運命さえ見逃してしまう時間になっちゃうだけだから...

限りある人生の中で悲しんだり、落ち込んでる時間なんて勿体ないじゃん?

そんな時間があるのなら自分を悲しませた事、落ち込ませた事に対して

見返すために尽くしたい時間だよ...僕ならね。

...それに悲しんだり、落ち込んでる姿なんて皆に心配させちゃうし、

誰もそんな姿を見たいと思ってるわけじゃない。

それよりもこの世界中が笑顔で溢れていたら素敵じゃない?

...僕は思うんだ、今この世界は悲しみや不満で満ちている...けど、

そんな世界を変えられるのは悲観して生きている人達じゃない。

楽しんで生きている、笑顔の素敵な人達だよ」


ドライズは笑顔でそう言う。

そんな彼らが見たのは、






王城のほうから列になって歩いてくる、巨大な2体の神龍。

その先頭は姿だけなら「グラウンド・アース」、彼だと言えるであろう。

だがその心は...。




流すべき涙は悲しみに暮れている時間のためのものではない。

俯いている時間だけ見逃してしまう素敵なモノはたくさんあり、

落ち込んでいる時間はその様子を見た人に不安を与えてしまう時間なのだ。


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