力。
そこに集うは永き年月を生き抜いてきた、多くの強者達。
どこかの崖の上で、1体の龍は引き連れている数千体の竜達へ、
「...この風は主がレイディアに戻られたな。
出向くぞ、もうここには戻らん」
と言い、勢いよく崖を降りていく。
そして違う場所、ここの周りは雲で覆われていて、おそらくかなり高い
位置にあるのであろう、その頂上から地上を見下ろしている1体の龍が
いる。
「懐かしい風が吹くものだ、この風は私達を導いているように思える。
さて...行こう、マスターの元へ」
そう呟くと、その龍は地上へ急降下していき、周りの雲から数千もの
竜達がその龍の後を追っていった。
そしてここは暗く、不気味な場所。
洞窟の中で水が滴る音でさえ恐怖を与えてくるが、その奥深くに
1体の龍が体を丸めて、眠っているように見える。
その龍の元へ数千体はいるであろう竜達が、洞窟の外からも集まり始めていた。
「...ここまで届くほどの風ー?
そんなことをできるのはあの方しかいねぇじゃねぇか。
呑気に寝てられっかってんだー、行くど」
仲間の竜達へ言うと、体を起こし、どこかへ向かい始める。
そしてここはどこかの砂漠。
辺りを見渡しても砂漠が広がっているが、一つだけポツンとかなり大きな
王城のようなものがある。
その中にある王座に1体の龍がいた。
すると、そこへ一体の竜が駆けてくる。
「...珍しく風が吹いている?
驚かなくていい、それはご主人だ。
こんな砂漠に風など...何千年ぶりだろうか...とにかく皆を集めて」
龍の言葉を聞いた竜は王城内で叫び始める。
その叫びが耳に届いた竜達は続々と王座の前に集結し始めた。
それは王城内の竜もだが、王城外の竜達もだ。
その数およそ数千体。
そしてこの森の奥深くで1体の龍が佇んでいると、そこに
1体の雌竜が現れる。
「...パパ!準備は終わったわ!
あたい達もそろそろ行かないと出遅れるわよ!?」
周囲を見渡すとその森はアルディアやイアが訪れた、原住民の集落に
そっくりだ。
そして現れた雌竜は...イリミール・アース、彼女だ。
「...ヴァル君とかミアちゃんには先を越されたくないねー、
久しぶりの集まりだからパパはワクワクしてきちゃったよ!
イリミール、皆を集めてきてー!」
イリミールは不機嫌そうにも、どこかへ駆け出した。
以上の出来事は全て、数時間前の出来事だ。
そして現在に至る。
「...ヴァリー!ヨゲスを連れ戻せ!!!」
王城の広場にいた龍、フェディオは鬼のような形相で隣にいた
青年に言い放つ。
すると青年は突然、龍に姿を変える。
その姿はイリミールとアルディアが逃げ切りはしたが、襲われたことの
あるあの龍だ。
彼は勢いよく、飛び立つ。
「...フェディオ、一体何なの?あれぐらい、あたし達で何とかできるん
じゃなーいのー?」
斜め後方にいた色欲が彼へ問う。
「そうか、ミラースは2000年前に復活できなかったからあいつらが
分からないか。
幻龍は7000年前にも見たから分かるだろ?
彼女は幻龍アスルペ・テミルスで間違いない。
本来の姿を既に見せつけてきている事からすれば、余程死にかけた事が
気に食わなかったみたいだね。
けど僕達からすれば生きてる事自体、想定していなかったよなー...
すごい生命力だよ。
そして彼女の元へ集結している奴らこそ、以前から話していた7龍隊...
いや、もう6龍隊と言うべきか。
前も話した通り、僕達を封じ込めた恨めしい神の子だ。
だけど2000年前はレイコや鍵の子、多くの生き残っていたライド家がいた
から運悪くミラースや他の強き龍達の復活を阻止させられて、僕達も予想外
だったけど今回はサンダリアンも味方だし、レイコ達は寿命に逆らえずに
死んでいき、既に5体の大罪龍、1体の強き龍は復活できているからねー、
絶好の機会だと思うんだけどさすがにまだ相手にしたくない...
あの子達相手にするとかなりの死と損害が出るから」
フェディオは不満そうな表情でミラースへ言った。
彼の言葉から「風龍」は「幻龍アスルペ・テミルス」だとやっと
分かった。
そしてあの姿は本来の彼女の姿らしい。
「なら、今回はお披露目だけにしておかなーい?」
彼女はフェディオの頬をペロリと舐めながら言う。
「...お披露目って...あー、それは面白いねー。
だけどあの子達怒るんじゃないかな?
騎士兵のブル...なんだっけな、あのいかつい人...名前忘れちゃった
けどあの騎士兵は正統なライド家との戦闘になったらお披露目するよ。
同じ仲間に襲われたとなれば、人なら心にダメージを負うでしょー?
...だから今回は傲慢と憂鬱のあの子達をお披露目しよう。
特にアースを見捨てて逃げた、氷姫アイアスの心は死んじゃうんじゃ
ないかなー、それに自分の子供達と戦う気分はどうだろうか?
心眼ヴァルゴ、闇狼シャーガン、地主サイドア、緑癒のドライズ達
だって自分の親を呑み込んだ龍がすぐ目の前にいたら冷静さを装って
られないでしょ。
その結果、幻龍の命令に逆らって、バラバラになったら面白いよね...
本当に僕達の思い通りだ」
王城の広場では不気味に笑い声が響く。
「ミラース、連れておいで、楽しいお披露目会の始まりといこう」
フェディオはそう言って、王城の奥のほうを見る。
すると不気味な唸り声が聞こえた気がした。
謎の龍の思惑に強き龍達は思い通りされてしまうのか、
強き龍達の力は大罪龍達の思惑を打ち破れるのか。