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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
始まりは希望と絶望から
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強さの終わり。






 「もう済みましたのね...望みは叶いましたか...?」






 天を見上げながら呟く少女の後方から、何か輝きを放つ強い力が

流れ込んできた。

アルディアには何かが輝いていることしか分からなかったが、

その力は凍り付き始めていた冷気とぶつかり合い、逆に押し戻していく。

ある程度押し戻した事を確認すると少女はアルディアのほうへ手を振り、

助けを求める。

 気付いていたのだ。

ふと周りを見ると長く辛かった夜は終わり、今は早朝か。

彼女は大柄な男を先に竜の背に乗せ、自分も乗った。


そして近くの丘の上まで飛び、ヘリサは竜に降りるよう指示した。


「イアさん、ご無事でよかったです!お怪我は大丈夫ですか?」


アルディアは何よりも彼女の容態を心配した。


「ええ、それほど大した怪我はしていないわ。

だから言ったでしょ、イアは強いから1人でも生きていけると。

多少この男に強引な事をされましたが」


イアは多少悪戯っ子だがそれも親愛の証。


「イアさんに一体何を...!まさか...捕虜!?」


今まで人と親しくしたことがなかったアルディアは素直で純粋だ。


「イア様...悪戯っ子にも限度というものがありましてですね...

ですがそういうところは子供の時から変わっていなく可愛らしく

思えるので自分は構いませんが、お友達様をあまり困らせてはいけません」


ダモスは少々呆れた表情で微笑みながら話す。


「口を慎みなさい、悪戯っ子ではなくいい子の間違いでしょう?

イアはレイディアで一番いい子な自信があるわ。

ってまあ、雑談は時間ができてからにしましょう。

今はお母さまからアルディアさんに話すよう預かっている話が大事なのよ?

分かった?ダモス、アルディアさん?」」


ダモスはもうついていけないという表情で、アルディアはいつの間にか

何故か自分までどこか子ども扱いされてる気がしたが、気のせいだと

自分に言い聞かすのであった。

そして彼女の少々威張っていた表情も急に険しくなる。


「アルディアさん、初めてあなたと会った日の事を覚えていらっしゃる?

イアはあなたが来るまでお母さまと話していたわ。

楽しいことも、大変だった事も、これからの事も、何もかも全てを。

お母様は近々こうなることに気付いていたけど思っていたより

早まってしまった。

イアがいてもお母様を守れない、お母様の姪様がいても守れない、

それを分かっていたお母様はイアにまず自分の荷物を探して使い慣れてる

鎖鎌も見つけることを勧めたわ。

戦えないと自分自身の事も守れないでしょって。

でもアルディアさんはイアが探し物をしてる最中に、間違いなく我が子は

自分の元に真っ先に駆けつけであろうと分かっていたお母様は1週間前に

姪様にその時アルディアさんを守るように手紙を書いて送って今に至るわけ。

そして一族にとって大罪ともいえる行動に出ると言ったかしら、

それは大長老の命の灯を消えさせる事とこの地を閉じる事。

この氷はお母様と龍によるものでライド家は龍との契約で契約者も

多少魔法を使えるようになれるらしく、アルディアさんを連れて

イアがある程度距離を離れたら何か合図を送ってほしいって言われていたの。

それがさっき凍りつき始めていた場所を押し戻したイアの魔法よ。

イア達、クルーシアの王家はかつて光の導き手と呼ばれた神龍様を助けた

お返しに雷撃を操れる魔法を頂いているわ。

おそらくアイス・ウォーターの末裔で氷を操れる龍なら気付いて

お母様に知らせたはず。

イアの話はここまでよ」


 王家は魔法を扱えた。

少しずつ謎であった少女の事も分かってきた。

だが今はそれよりも母の事が気掛かりだ。


「だったら一緒に逃げればよかった...!...どうして母さんが大罪を

起こさなきゃならなかった...!そんな事をしたら間違いな」


会話の途中で頬を痛みが走った。


「逃げればよかった...どうしてお母様がその行動に至ったか本当に

分からない?

...罪を犯すしかなかった...!全てはあなたを守るためよ!

そのために危険に命は賭けても、逃げたり誇りを汚すような事はしなかった、

それがあなたのお母様。アルマ・ライド!

...何かを守るために戦う人をイアはとても美しく思うわ!

それがたとえ大罪だとしても...。

世界は綺麗事ばかりでは済まない...本の中の世界じゃないのよ!」


少女は青年の頬に手のひらを打ち付け、その言葉にダモスとヘリサ、

少女自身泣いているが、アルディアには何故みんなが泣いているのか分からない。

これが少女と青年の生きてきた環境の違いだった。


「アルディアさんはお母様の唯一の一族の誇りを捨ててまでその行動に

かけた価値を分からない...?その意味を無駄にしたい...?

...きっと強くなれってお母様は言ったはずよ、いや強くならなきゃ

いけない...今までお坊ちゃまで育ちすぎたわ」


アルディアはヘリサの伝言の言葉を思い出し、俯き、一人森のほうへ

走っていった。

自分はなんて弱いんだろう、どうして自分よりも小さい少女はあんなに

強いんだろうと思ったのであろう。


「イアさん、私はアルマ様の姪であるヘリサです。

王家は敵だとばかり思っていた...先入観とは恐ろしいものですね...。

イアさんもダモスさんもきっといい人です、でも私達残されたライド家の

希望であるアルディア様への無礼は許しません。

ですが主の幼さは認めます、一族の秘密もつい最近話されたほど甘く

アルマ様に育てられすぎました。

私の主はアルディア様です、命ある限りついていきます。

その主には強くあってほしい。

そのためにどんなに困難が主を襲おうとも最終的には強き優しさを

持ったライド家一族のリーダーになるべく長き旅に私と共にこれからも

ついてきては頂けませんか?」


ヘリサはかつての敵に頭を下げた。

かつての敵とはいっても今のイアやダモスは敵ではないのだ。

クルーシア兵が全て敵だというのはそれこそ先入観。

過去のことなんて関係なかった。


「イアは...気になる..その血筋が。

かつての戦争の事全てを偽りなく知りたい。

悪いのは何が原因だったのか...王家は悪く思われず何故ライド家が差別を

受けてしまうような事に至ったのか。

自分の生きる理由のために少なくとも今はアルディア・ライドと共にいるわ。

その旅でイア自身も強くなれるかもしれないし、色んな世界を見てみたいもの。

ダモスも来なさい」


ダモスは服従の姿勢を見せ、イアとヘリサは微笑んだ。






「さて、私のお騒がせな主はどこに行ったのやら!」




 アルディア・ライド、希望の子。

彼の歩む道はきっと追い風など吹かないであろう。逆風をいかに味方につけ、

追い風にしていくか、4人の始まりはこの丘の上から。

果てしなき長い旅が始まる。共に歩む者よ、心の準備はできているか...?


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