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紡がれし罪の血と偽りの  作者: サン
始まりは希望と絶望から
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それは必然から始まった。






 ここはレイディア。

人と竜が共に助け合い、ときに戦い、共存して暮らしている

とても美しい世界だ。

 この世界の成り立ちは七千年前に村人や竜を道具のようにしか

思わない王族、それに抗った少数の特別な血を持つ一族と農民の連合に

よって起こされた戦争で、一度滅びかける寸前までいったこの世界の中でも

強く、たくましく生きている「希望」を見つけた七体の神龍によって

創り直されたところから今に至る。






 戦争後、世界は神龍達によって戦争を起こした罪を裁かれていた。

それは王族以外にもいえることであった。


一つの小さな村「ラーク」にも神龍達は来た。

長老も年配の者も裁かれることは分かっていた。

裁かれることは「死」を意味する。

それを分かっていても皆、清々しい顔をしていた。


 その理由は簡単だった。

戦争に誰一人、後悔していなかったのだ。


「なんで我慢なんてしなくちゃいけないんだ、王族でも人として

やっていい事と悪い事も分からねえのかよ...守りたくて何が悪い...」


家族を養っている、まだ若いが長老の息子である男は広場へ向かう途中

そう思っていた。

 この村は今は身長も小柄で髭を長く伸ばした長老が仕切っているが、

そろそろ世代交代の時期でもある。この男は妻が王族の奴隷にされるところで

あったために反旗を促した。すると各地に同じ事を思っている同志は

数えきれないほどいたのだが、結果として裁かれることでまだ小さい子供達まで

望まぬ死に巻き込んでしまうことに涙して悔しがっていた。




 そして広場では長老と神龍達による話が始まっている。


「神龍様、合わす顔も口にする言葉も今更ありゃしやせん。

裁きも受け入れるつもりですゆえ、どうかやはり子供たちは

助けてもらえないだろうか...あまりにもまだ死を迎えるには若すぎる...

生まれて十年も経ってない子だっているんじゃ...どうか...どうか...」


長老は泣き崩れるが、死をたくさん招いた罪は大きすぎた。


「長老殿、ひとまず顔をあげて話し合おうではないか。

各地で涙は嫌というほど見てきた。我ら龍とて人の哀しみは見ていて辛い...

だが簡単に罪を許せるほど甘くはないのだよ。

恨みの連鎖は断ち切らねば、また新たな恨みが生まれずっと続いていく。

本当に悲しいことだ...何故傷付け合わなければならなかったのか。

我らに助けを求めてみる事を誰もしようとはしなかった。

人は竜を頼っても我ら七体の龍への敬いは忘れていく...それは我らが奴隷や

駒のような都合のいい竜ではないからだ。

都合どうりにいかないと人は軽々と命を処分するが、そのようなことは

たとえ龍でも許されるような行動ではない。我らは一度この世界を...」

 

その時、会話の途中で制止を試みる母親の手を振り切り、一人の少年の声が

神龍達の耳に響いてくる。

その少年は七体の目前まで駆け寄ってきて、疑いと敬いをぶつけた。


「神龍さん!争いなんてなければ、ここはみんな仲良くて助け合ってて

いい場所なの僕は知ってるんだよ!

パパもママもどうして戦わなきゃいけないの...?

守るために戦う事も神龍さんは罪だと言うの...?

大切な人を助けられるかもしれないのに見捨てろっていうの...?

僕はお金も人気者になれなくてもいいから...大切なものを、人を守れるような

人になりたい!こうなってしまった世界の過ちも僕が正して、世界の始まりも

解いてみたいんだ!

神龍さん、いつも天国から見守っててくれてありがとう!

パパとママを戦争から守ってくれてありがとう!ママが呼んでるからもう行くね、

ばいばい!」


少年の笑顔で未来を信じて話してみせた、その背中は力強く思えた。

未来を諦めていないような輝きを放ったその目はこんな状況の中でも

死んではいない。


「長老殿、あの少年の名を聞いてもいいだろうか?」


神龍は笑顔が忘れられなかった、こんな汚れた世界でこんなに

綺麗に笑える子がどれほどいるのだろうか。


「ルヴィー・ライド」


その名に神龍達は納得の表情で初めて笑顔を見せた。

長老もまた神龍の前で隠し事もできず、何かを諦めた様子であった。


「まさかここでその血を持つ者に会えるとは...だとするなら

まだ見限れない...か」


と敬いを忘れない少年を愛し、世界を希望へと導いた。


 天に光を与えたその龍の名は輝龍「ライトニング・サン」

別名 光の導き手


 天に闇を与えたその龍の名は闇龍「ムーン・イーター」 

別名 闇に魅せられし者


 地に潤いを与えたその龍の名は海龍「アイス・ウォーター」

別名 深き場所へ誘う者


 地に恵みを与えたその龍の名は地龍「グラウンド・アース」

別名 揺るがぬ意志を持ちし者


 命に生を与えたその龍の名は未龍「フューチャー・メーク」

別名 歴史の創造者


 命に死を与えたその龍の名は来龍「デス・ミラー」

別名 時の審判者


 その者らを束ねし龍の名を全龍「オール・クラウン」

別名 慧眼を持ちし預言者




 それから七千年、人と竜は平和に時を過ごしていた。


しかし、「それ」は何の前触れもなく起こってしまった。

時の審判者とも呼ばれる「来龍デス・ミラー」の役目は死が来た者を弔い、

行くべき場所へ導く事。

だが、死者の霊魂が一向にこの世から離れない。

それを不思議に思ったオールクラウンが何があったか話を聞こうと

デスミラーのいる「死の墓場」へ出向いたが、見つけたときには既に遅かった。


目の前にいるデスミラーは洞窟内で霊魂を貪っている。

これが何を意味するか。


死者への冒涜。

オールクラウンは激怒した。


「ミラー、何をしているのだ!こっちを見て、なんで霊魂に

手を出したのか説明しろ!」


だが貪りながらも焦点の定まらない目がこちらに向けられただけで、

返答もない。

だがそれはすぐに理解できた、これは心に潜む闇に吞まれた者の特徴だと。


 ひとまず外に出ると、驚愕の光景が広がっていた。

洞窟の目の前を横切る幾多の死者の霊魂が数を増やしながら、

漆黒で額の中心から伸びる大きな角を持つ巨体の「何か」を追っている。

その「何か」はオールクラウンが知っている者に似ている。

「闇龍」ムーン・イーターなのだが、何かがおかしい。

何故、こんなに「闇」が巨体から漏れ出すほど殺気立っているのか。

本来のムーンイーターであれば制御できるはず。


ふと目があった。


「あれれれれれー!クラウンしゃんのお出ましとはお早いですなー!

まだまだ来ないと思っていたのにお手が早いのう!

さすが龍の中の王しゃま!」


その話し方は知らなかった。

だが嫌な予感がする。


「君は誰かな?僕らのムーンイーターを返してもらおうか」


ムーンイーターの中に潜む得体のしれない何かに語り掛けた。


「僕らの...か。うーん、それはちょっと違うっかなー!

この娘の心はすでに数年前に私が喰っていたことにも

気付かなかったのだろうー!?王しゃまよ!

私は暴食、その存在は既に『慧眼』と記される者ならご存知でしょー?」


不気味な笑顔を浮かべる、その姿に似合う言葉があるとすれば

「絶望の始まり」とでもいうべきか。






 これは神龍達の創った、この世界の「異変」を告げる出来事の序章に過ぎない。


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