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♯1 プロローグ

            ♯1 プロローグ

____________________________________

         6月19日

親愛なる○○××へ                

久方ぶり。暫く会えていないから

こうして似合いもしない手紙を書いている訳だが...

まさか、私の名前を忘れてはいないだろうか?

”西口 憲一”だ。

君がよく”けん”と呼んでくれたのを記憶している。


単刀直入にいうと、私は世話になっていた会社を辞職した。

大学を卒業して10年余りだったろうか、

やりがいはまぁあったのだが、どうもそういった

殺伐とした環境に飽き飽きしてしまったのだよ。


幸い少しばかり貯金があったものだから、これまでの生活とはかけ離れたように

国内各地を転々と回ったよ。いや、本当にあの時は楽しかった。


北の大地でジンギスカン、東の海で貝の網焼き、中央でお好み焼きとか...

こんなにも好き勝手に金を使えたのは本当に快かった。

家賃、保険、税金、食費、その他諸々…

普通に暮らすだけなのにあんなにも金が必要だったのだなぁ...


だが、そう長く続くわけでもない。

資金はとうとう底をついてしまいそうだった。

そんなわけで最終地点を決めた。かの有名な松尾芭蕉が行った

”平泉”だ。青葉の茂るとても良いところ。


聞いたこともあるだろう ”夏草や 兵どもが 夢の跡”

句のなかでも特に好きでね。

せっかくだから、私も詩を書いてみたよ。

…あまりクオリティを求めないでくれ…


____________________________________

飛ぶよ飛べる 黒き鳥         燃えよ燃える 白き城  

三笠の山に  白き月         死地の荒野に 黒き神

          

積もれよ積もれ 白き骸        叫べよ叫べ 生者の活声

沈めよ沈め   黒の灰        鎮めよ鎮め 死者の呻声


君は見えるか 歴戦の証        もう沢山だ、終わりにしよう。

君には見えない 故人の記       未ダ満タヌゾ、君ヲ殺ス迄。


嗚呼、八双の構えに身を委ねるか    嗚呼、争事は人の意志か

将又、脇構えで人事を尽くすか,,,    将又、生命の本能か...


遅かれ早かれ皆、土に帰るというのに 今無き肉体戦、身燃えず

何故、命を燃やしたというのだ     今在る精神戦、心燃やす


        今昔、老若、男女、一切変わりのなく

        植物、動物、雄雌、一片の変化もせず        

        周囲を出し抜き、頂へと登りつめんとす


        忌避しようとも遂には叶わず

        ならば私は...

____________________________________


当時、そんなこんなであれこれと考え、やっと出来た作品。

正直、見返すだけで恥ずかしさを感じる。

だが、胸に詰まったものがすうっ、と抜けた感じがして

快かったのだった。

自分の長年思い続けてきたことを書けたのだから。


学生時代から勉強やら運動やら、しまいには態度まで、

あらゆるもの、表面を人から比較されてきた。

意味は分からなかったが、人に勝る部分があれば内心、

嬉しさも込み上げてくるものだ。

それが個性となり、特徴・性質としても扱われやすい。


然し、私はもう疲れた。馬鹿にするのも、されるのも。

30年近く保っただけでも良し。

会社に勤めても争いはあったし、より激しくもあった。

それも今日で終わり。今日で骸となるのだ...!

恐怖はあった、だが「今後も争う」という未知であり既知である事実に

比べれば死は寧ろ味方であった。


…滑稽かい?

今笑ったなら、君は僕の心理を一生理解できない。

させるつもりもないし、しないほうが良い。そうだ、そうだ。



閑話休題、崖に立ち自殺を図る。

この大自然に身を投じられる喜びよ。辞世の句と共に死のう。

そう思い再び詩を読んだ。


「ん!?」

紙切れの端に見知らぬ文章が書かれていた。


    ...ならば足掻き続けようぞ。

    恥じず、図太く、盛大に...!


字はあまり丁寧とは言い難いが、私のと言えなくもない。

しかし、こんなことを書いた記憶は全くと言っていい程無いに等しかった。

では誰が?


…ガサガサッ...

「!?」

何かが近づく音。不意に振り返る。

「...狼...⁉」

非現実的だった。日本にはいないはずだ。

前方には奴が、後方には崖が、遅かれ早かれ死は決定事項

だった。まぁ、だから飛び降りた。食われるのは御免だよ。


グシャァッ!!

 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


...ん?暗い中から声が聞こえる。年齢、性別、人種もわからぬ声。


「人生を、世界を変えられたら、と思ったことはないか?

 あらゆるもの全て争いなく進めばよいと、そう願ったことはないか?

 私は君にチャンスを与えられる。尤も、君の選択次第だがね。

 私は頂上で待っているよ。期待しているから。」

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


瞬間、とある個室にいた。広くも狭くもない。

壁はベース黒でネオン灯のようなものが一定に並んでいる。

今ここでこれを書いている。幸い文字は見える程度の明るさはあるから。


そんな感じ。どう?わかったかな。

自分でも何が何やらさっぱりだ。これがポエムの力か?(笑)


おや、そろそろ扉が開くようだからこの辺で失礼。

期待と不安が入り混じっているよ。


P.S. ポストどこだろう?       

                 西口 憲一

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