臨時教師
副会長に会った次の日の金曜日の国語の授業では臨時で他のクラスの担当の人がおこなったのだが、次から休みの日に入るということでその間に何とか代わりの先生を探そうと、校長と教頭がいろいろと動いたのだが、なかなか見つからなくて途方に暮れていた。
校長も教頭も土曜日は、他の仕事もこなしつつ先生探しをしていたので、ソファーにかなり疲労した様子で座り込んでいた。
だが、突然電話がかかってきた。
二人の内教頭の方が近くにいたので電話を取りに行った。
誰だろう、とは思い電話の表示を確認したが非通知、と出ているので誰からかは分からなかったが受話器を上げて耳につけた。
「フフフッ、電話にはなるべくすぐに出るようにして下さいね。」
「・・・ッ!!」
教頭はこの笑い声を聞いた瞬間に、吃驚して受話器を落としそうになった。手が少し震えているのだ。
「・・・・・落ち着いて下さい。大した用ではありませんから。」
まるで、自分の近くで見ているかのように言われて、落ち着けといわれたのにさっきより動揺してしまう。
「フフッ、僕がわざわざ電話を掛けたのは、あなたと校長がお困りのようだったからなんですよ。少しアドバイスでも、と思って。校長先生と相談してみてください。五分程待っています。その間に決めて下さい、・・・・・・・・僕としては、シンプルな答えが良いですね、では5分後にまた掛けます。」
そう言うと直ぐに、相手が通話を切った。
電話越しの相手は名乗りこそしなかったが、最初に聞いた笑い声で相手が今回のこの事件の発端となった生徒だと安易に想像できた。
そして、話を聞き終えて少しすると校長の方を向いて落ち着きのない沈んだ声でゆっくり今あったことを話し始めた。
「こ、校長ぅ、・・・・・・・・・あ、朝日から、電話がかかってきました。」
「・・・ッ!!」
明らかに教頭の様子が可笑しかったので、何事だ、と思っていたが朝日からの電話だと聞くと、目を見開いてぶるっと震えた。
30秒程二人を沈黙が包んでいたが、時間の経過と供に徐々に落ち着いてきたので、覚悟を決めて話の内容を確かめることにした。
「・・・・・・・・で、何と言ってきたんだ。」
「・・・・・どうやら、今のこの私達の状況を知っているようで、・・・・・・アドバイスをしてあげようか、校長と二人で話し合って決めろ、五分の時間をやるからその間に決めろ。と言っていました。」
それを聞いて校長は少し安心して、
「・・・そうか・・・・・。」
とだけ言って腕時計を時計をちらっと見て、考え始めた。
今度は二分ほどたったのち
「仕方がないな。」
とだけ言った。
この言葉に教頭は特に異議も無く黙って頷いた。
プルルルルルルルルッ、プルルルルルルルッ。
そして、二人の意見が纏まったところでうまい具合に電話が動き出した。
今度は校長が受話器を取った。
「クフフッ、それで、どうなりましたか?一様聞かせて下さい。」
まるでどうなるのかが分かっている様にも聞こえる。
「・・・・・お受けします。・・・・・・条件もできる範囲でなら・・・・。」
出来ることなら、こんなことをお願いしたくはないのだが、そんな感じで答えた。
「フフフッ、さっきはそこまで話したつもりはなかったんですが、フフッ、話が早くて助かりますね。大した事は要求しません、安心して下さい。」
電話越しでもはっきりとわかった。こいつは、私達の反応を想像して嘲笑っている。・・・・・・いや、もっと単純にただただ楽しんでいるだけなのかもしれない。
そう思うと、体に寒気がして体が少し震えた。
「フフフッ、二週間後にこの学校で、宿泊オリエンテーションがありますよね。あれ、いまいち盛り上がりに欠けていると思いませんか?僕は全くと言っていいほど興味がないんですよ。多分このままだと他のみんなも旅行中ははしゃぐとは思いますけど、終わったら不満が残るでしょう。で、結局何が言いたいのかと言うと、何か面白くなりそうな行事を行って下さい。僕が少しでも退屈が凌げたら構いません。でも、いきなりこんなことを言われても老人の硬い頭じゃあなにも思いつかないかもしれません。もしアイデアが何も浮かばないようなら、・・・・・・・・副会長に協力してもらってください。」
副会長の事がなぜでてくるのか、まったく分からなかったがもう気にしない方が為になるんじゃないかと思ったので、ほおっておくことにした。
「それで本題の方なんですが、あなたは今現役の人あるいは近年に止めた人などに声を掛けたが、それでは急すぎて少し無理があったんですよね?」
どこで見てるんだ、と疑いたくなる。
「ハイ、そうです。」
「フフフッ、では、こういうのはどうでしょうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
提案の内容は想像の域を超えていた。
「し、しかし・・・・・」
校長が反論しようとしたが先に朝日が言った。
「フフッ、大丈夫だと思いますよ。いっても先生ですし。」
「・・・・・・・分かった、仕方がない。」
しぶしぶ承諾した。
「では、これで終わりですね。今日はありがとうございました。これで夢見が少し良くなりそうです。」
電話が直ぐに切れて、校長はほっと一息吐いた。
日が変わって今は月曜日の朝のHR前の時間で、朝日、上村、岡崎の定番になりつつる三人と榊さんで話しているところである。
「・・・・・・・だったんだ。」
岡崎が日曜にあったことを話していた。
「はぁっ、どうせ話すなら少しでも良いから有益な情報を提供するかユーモアのある面白い話にしてくれ。長々と詰まらんことを話したいならくまさん人形相手にしてくれよ。」
岡崎はもう話に加わっているのかも怪しい、よっぽど岡崎がつまらない事を言っていたのだろう。
「え、俺の話ってそんなに面白くなかった?ねぇ、榊さん。」
この問いかけに、ははっ、と苦笑いで答えた。
「良かったな、面白くなかったってさ。」
「それのどこに良い要素があるんだ?」
などと下らないことを話していると、少し教室が騒がしくなってることに気ずいた。
「どうしたんだ、夏目。」
夏目 修一 こいつは今新聞部に属しており、結構学校の最新情報や過去のことに詳しい人物である。そして、金曜日から朝日の事を奇抜な部活のかっこいい帰国子女という考えから、当学校の尊敬できる人ランキングに入賞することとなった。
朝日はこのことを使える人物が増えたとひそかに思っている。
ちなみに、新聞部も変わった部活でこの部に入るには何かのスクープを持っていくか、この部の部長にスカウトされるかでしか入れなく、夏目は前者だが、後者の条件に当て嵌まり、朝日は現在勧誘を受けている。
呼ばれた夏目が教室の端から朝日の所に移動してきて答える。
「それがですね。先輩が言ってたんですけど、今日国語科の後任の先生が来るらしいんですが、まだどんな人かまでは分かってなくてどんな人なんだろうって話してたんです。」
このクラスは国語科の先生が副担をやっていて、担任がめんどくさがりなので実質今日入ってくる人が担任みたいなものになるだろうと考えているので他のクラスより重大な問題である。
「ああ、その話か。それならおれ知ってるぞ。」
なんたって俺が紹介したんだからな。まあ、知ってるって言っても経歴と名前と実績ぐらいだけどな。
朝日が知ってると言ったらみんなが話すのをやめてこちらを向いた。
誰が聞こうか、てな感じの空気が漂っていたが、それは突然入って来た人によって直ぐに破られた。
「その情報は新聞部にくれないだろうか?」
突然入ってきたのは現副部長の小枝だった。主にこの人と他数名の部員が情報を集めて、部長とその補佐の人が記事にするという段取りであり、実は小枝はずっと1−Aの教室前と職員室をマークしていたのですぐに現れたのである。
「少し俺を買い被ってますよ、俺が知ってるのなんて大したことじゃありませんて。それに教えちゃいけないことと教えていいときってのがありますから。」
「・・・・・・・・・・そうか、分かった。今回は潔くしておこう。」
大分聞き分けが良いのか、ちょっと考えた後以外と直ぐに妥協して帰って行った。
「お前らも、俺から聞かなくてももうすぐ来るから席着いてワクワク、ウキウキと面白可笑しく妄想でもして待ってろ。」
もう30分を回っているので教室内の人がほぼ全員が心の中で妄想じゃなくて想像なのでは、と思いながら椅子に座って行った。
すると、いい具合に担任がきてHRが始まる。
「あーー、まあ今日も特に伝えておくことはないんでこれで終わりたい所なんですけど、今日から臨時としてこの学校で採用することに決まった先生がいるので、・・・・・ほら、あの国語の先生の代わりの。んーー・・・・・入ってきて下さい。」
先生が呼ぶと、失礼します、と言ってから入って来た。
教卓の後ろまで来て一度こちらに頭を下げてから、黒板に名前を書いてからゆっくりと緊張しながら話し始めた。
「えーーっと、私は今日から暫くここでお世話になる 鳴海 真奈 です。
まだ全然頼りないんですけど一生懸命頑張るんでよろしくお願いします。」
男子がかなり女子よりも騒がしくなっている。気持ちは分からんが予想は付くな。まあ、前みたいなちっこくておもんない先生よりも年は20半ばで身長は平均的で何より顔が奇麗な先生の方が良いわな。
少し喧しいな黙らせるか、
「こちらこそよろしくお願いします。鳴海先生僕らも全然なので一緒に頑張りましょう。」
朝日が少し大きな声で言ったので静かになり、頭を下げると皆つられて頭を下げて、拍手をしたら皆続いて拍手をした。
やがて、拍手が止むと丸谷が手を叩いてから
「はい、今は質問は受け付けないので後にしてください。では、先生行きましょう。」
何か俺の時と似てるけどなんか違うんだよな、今回と。まず、先生の俺に対する対応がもっと雑だったし、クラスのやつは・・・・・・そうだ、今日は誰か来るってわかってたからなんだ。俺の時には多分まだ夏目が新聞部じゃなかったんだろ。何かめちゃくちゃ戸惑ってたからな。それにしても、あんな感じの人か、見た目はしっかりしてそうなんだけどな。
今日、国語は・・・・・・・午後からか、どうなるんかなぁ。
楽しみだな。